昨今、企業のクラウド導入が進んでいる中、さまざまな原因によりクラウド移行に失敗するケースも散見されます。この記事では、クラウド移行で失敗する4つの要因を分析し、解説します。また、失敗を防ぐための押さえておくべき5つのポイントも示しているので、確実なクラウド導入を目指す企業の担当者の方は必見です。
クラウド移行で失敗する要因とは?
業務効率化やコスト削減、さらにはテレワークなどの新たな働き方への対応と、クラウドの導入には企業のさまざまな期待が込められています。しかし、クラウド移行がうまく立ち行かずに、本来の目的や期待から大きく外れてしまっては意味がありません。
ここでは、クラウド移行が失敗する要因である、4つのパターンを説明します。クラウド導入に向けて、失敗する要因を把握した上で、それを回避するように計画を練ってはいかがでしょうか。
想定以上の運用負荷やコスト
クラウド導入をする際に、これまでのオンプレミス型よりも初期費用や保守・運用にかかるコストが削減できると考えることがほとんどでしょう。しかし、コストが削減できるかどうかは、ケースバイケースだと捉えておくべきです。もともと規模の小さいシステムを使用していた場合、クラウドを導入してもそれほどコスト削減につながらない場合もあります。クラウド移行にあたって既存のシステムからの移行、さらには連携など重ねると、コストが想定以上に上乗せされることもあるのです。
また、自社で保守などを行う費用がかからないためランニングコストは削減されますが、クラウドは従量課金制であることが多く、ライセンス数や機能のカスタマイズによって費用負担が増えることもあります。コスト面については、クラウド導入前にシミュレーションしておくことが大切です。
導入目的が社内で共有できていない
クラウド導入にあたって、社内の情報共有がなされていないことが失敗につながるケースもあります。これは、クラウド導入に限らず、さまざまなシステム導入の失敗例に挙げられる理由の一つです。情報共有が十分でないと、データの蓄積など従業員による入力が必要な業務が進まず、ひいては導入したクラウドシステムが活用されない事態に陥ってしまうケースもあります。
従業員から「なぜクラウドが必要なのか分からない」「操作ができずに業務に支障が出る」などの声が上がることもあります。クラウド導入前から、社内で目的意識をしっかり共有し、クラウドの操作や機能について周知していくことも必要です。周知徹底を促すためにも、クラウドに対する勉強会や操作を学ぶ機会、さらにはIT部門の担当者を一定期間他の部署に置き、疑問点などを解決するなどの仕組みづくりも効果的です。
不十分なサポート体制
上記2つの失敗の要因は主に企業側にあるものでした。一方で、クラウドサービスを提供するベンダー側も関係して失敗につながるケースもあります。それが、不十分なサポート体制です。
オンプレミス型とは異なり、クラウド導入については他社の提供するクラウドサービスを使用します。そのため、ベンダー側に一度ネットワーク障害などが発生すると、一時的にクラウドサービスが使えなくなる可能性があります。サービスによっては、それらのトラブルへの対処が遅れてしまい、企業側の損失につながることも考えられます。クラウドサービスを提供する側がきちんとトラブルに対応してくれるのか、万が一トラブルが発生した場合の連絡体制などが敷かれているかの確認もしなければなりません。
クラウド環境の乱立
クラウド導入に際し、これまで使用していたオンプレミス型と連携し「ハイブリッドクラウド」の体制を構築することもあります。ハイブリッドクラウドにはデータの分散や負荷の軽減など多くのメリットがありますが、使い方を誤るとデータなどの一元管理が困難になりかねません。自社の状況に見合ったクラウドシステムを構築できるよう、管理担当者と打ち合わせしておきましょう。
クラウド移行で失敗しないためのポイント
クラウド移行は、綿密な計画策定や検討を行わず進めてしまうと後の失敗につながってしまいます。着実にクラウド導入を進めて、自社に合わせたクラウド移行を完了させるために、ここでは失敗を防ぐ5つのポイントを解説します。
クラウドを導入する目的を明確に
クラウド導入を円滑に進めるために、特に重要なのが導入の目的を明確にすることです。これは企業の抱える課題によってさまざまで、「業務効率化を推し進めたい」のか「コスト・人的負担を軽減したい」のかによって異なります。
社内全体で業務を洗い出し、また必要があれば担当部署や担当者から聞き取りを行い、社内の共通認識としての目的を確立することが重要です。
自社の業務に適したクラウドサービスを選ぶ
クラウドを導入する目的が固まれば、どのサービスと契約するかの検討段階に入ります。このときに、自社に合ったクラウドサービスを選定しなければなりません。それには、クラウド移行する順序や規模、コストなどを精査しそれらが実現できるサービスを選択しましょう。
また、クラウドでは、オンプレミス型と違いサーバーをベンダー側に委ねます。そのため、サービス提供元が信頼性の高い製品を取り扱っているかにも重きを置く必要があるでしょう。
一度にすべてのクラウド移行をしてしまうのではなく、部署ごとなど小規模なクラウド移行を行い、運用の課題点を洗い出しながら最も適したクラウドサービスを見つけていくのも一つの方法です。
性能やサービス詳細の確認
クラウドの品質をチェックする指標に、「SLA値」と呼ばれるものがあります。これは、サービスの定義や通信速度などを保証する値です。SLA値が基準値を下回った場合は、ベンダー側にペナルティが発生するなど、一定の品質保証を担保する仕組みです。
SLA値とともにセキュリティ対策についても確認してください。具体的には、OSやアプリのアップデートや修正パッチ、自動バックアップ機能など、データを管理する上で安全性が保たれているかが重要です。これらの精査を怠ると、企業の情報漏洩による信頼度の低下などにもつながりかねません。
トータルコストの把握
「クラウド導入により、コスト削減を目指していたのに、想定以上に費用がかさんでしまった」となっては本末転倒です。予想外の出費を避けるためにも、クラウド移行にかかる費用に加えて、クラウド導入後の運用コスト、さらに課金形態や料金形態までしっかりと考慮しておきましょう。
トータルコストをきちんと把握し、最適なクラウドの機能とランニングコストの兼ね合いを見極めた上で導入へと進みます。
PaaSの導入を検討する
クラウド移行に失敗しないために、PaaS型のクラウドを導入するのも一つの方法です。PaaS(Platform as a Service)は、インターネットにあるプラットフォーム上に企業のデータなどを集約し、その上で開発や運用が行える仕組みです。現在提供されている代表的なサービスに、Microsoft Azureがあります。
これらはデータベースやハードウェアそのものを管理する必要がなく、自社で管理する必要があるIaaS(Infrastructure as a Service)のクラウドサービスに比べると、運用負荷の軽減が望めます。
まとめ
クラウド移行には、導入の目的やクラウドサービスの選定、導入費用とランニングコストといったトータルコストの把握が必要です。これらの準備不足により、せっかくクラウド移行しても費用が想定以上にかさんだり、クラウド自体が活用されなかったりなどの失敗につながってしまいます。担当者との打ち合わせや社員教育も同時に行い、クラウド移行による失敗を防ぎましょう。