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外資系企業が押さえておきたい日本の会計基準の基本を解説

自国の会計基準に親しんだ外資系企業から見ると、日本の会計基準は少し複雑に感じるかもしれません。会計基準は財務諸表を作成するにあたり準拠すべき原則や規則を説明しているものなのですが、実は日本には4つの会計基準が存在しています。なぜ4つもあるのか?それぞれの会計基準の違いは何か?本記事では、外資系企業が押さえておきたい日本の会計基準の基本を解説していきます。

外資系企業が押さえておきたい日本の会計基準の基本を解説
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会計基準ってなに?

損益計算書(P/L:プロフィット・アンド・ロス・ステートメント)や賃借対照表(B/S:バランス・シート)などの財務諸表は決算期に作成され、株主や債権者など企業のステークホルダー(利害関係者)に財務状態や経営成績を報告する役割があります。これらの財務諸表を企業独自のルールで作ってしまうと、企業単位での業績は分かっても、他社と比べて業績は伸びているか?落ちているか?などの比較が難しい状況になります。

このため、日本では会計基準と呼ばれるルールに則りながら財務諸表を作成しなければいけません。会社法及び金融取引法においては、一般的に公正妥当だとされる企業会計の慣行に従うべきという定めがあります。

4つの会計基準

冒頭で日本には4つの会計基準があると説明しました。その4つとは、日本会計基準、米国会計基準、国際会計基準(IFRS)、そしてJ-IFRSです。それぞれの違いをご紹介します。

1. 日本会計基準

日本独自に形成された会計基準であり、日本企業にとって最も馴染みのある会計基準となります。日本会計基準は1949年に公表された企業会計原則(下記参照)をベースに考えており、2001年からは社会変化に応じた企業会計基準委員会が設定した会計基準を含んだものが採用されています。

企業会計原則には一般原則、損益計算書原則、賃借対照表原則があり日本会計基準はこれらの原則に則ってルールが決められています。

<企業会計原則の一般原則>

  1. 企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。
  2. 企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
  3. 資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。
  4. 企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。
  5. 企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。
  6. 企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。
  7. 株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。

2. 米国会計基準

米国で採用されている会計基準です。米国財務会計基準審議会(FASB)が発行するFASB解釈指針(FIN)や、財務会計基準書(SFAS)などによって構成されており、米国市場で上場している日本企業は米国会計基準にもとづいて財務諸表を作成することになります。

3. 国際会計基準(IFRS)

International Financial Reporting Standardsの略であり、国際会計基準を意味します。国際会計基準審議会が作成した基準であり、欧州域内の上場企業に対して2005年に導入義務化が進められました。

IFRSにおいて賃借対照表は財務状態計算書と呼ばれ、固定資産については非流動資産として計上するなど、日本会計基準とはルールが異なります。さらに、IFRSは時価評価を重視しているため出荷基準(商品発送時の売上認識)が認められておらず、すべてが検収基準(相手方が検品し間違いないことを確認した時点での売上認識)になることもあります。このため、日本会計基準に慣れ親しんだ日本企業にとってはハードルが少々高い会計基準となります。

ただし、海外に子会社を持つ日本企業の場合は、IFRSを導入することで会社間がすべて同じルールで徹底されるため、経営管理負担を低減できるメリットがあります。また、IFRSに準拠すると外国における資金調達が行いやすいのも特徴です。

4. J-IFRS

J-IFRSは日本会計基準とIFRSの中間的存在の会計基準です。2016年3月末より適用されており、IFRSを日本国内の経済状況に合わせて改修が加えられています。

なぜ会計基準が4つも存在するのか?

会計基準は、企業独自の財務諸表作成を無くし、標準化されたルールによって企業の透明性確保や各企業の業績等を比較できるようにするためのものです。にもかかわらず、日本ではなぜ4つの会計基準が適用されているのでしょうか?それは、市場の国際化に伴い日本独自の会計基準だけでは対応しきれないシーンが多くなったことが最大の理由です。

例えば米国において日本会計基準による財務諸表は認められていません。もちろん、欧州においても日本会計基準は通用せず、米国会計基準やIFRSへ対応する必要があります。このため日本においても米国会計基準やIFRSが用いられるようになり、日本版IFRSとも言えるJ-IFRSが策定されました。

IFRSを導入するメリット

グローバリゼーションを視野に入れた際に、米国会計基準とIFRSのどちらに準拠すべきかと言えばやはり後者の方が利点は多いでしょう。IFRSはいわば会計基準のグローバルスタンダードです。国境を越えた投資をするような投資家やファンドは、IFRS基準で作成された財務諸表に注目します。

このため、自社の経営状況を現地国だけでなく世界中にアピールするきっかけとなり、資金調達の幅を広げることが可能です。また、海外子会社と会計基準を一元化できるため、会計処理の負担が大幅に軽減されることでしょう。

ただし、世界中の投資家に注目されるようになるとM&Aによる企業・事業の買収や吸収合併のリスクは高まると言えます。

会計処理についても大きく変化します。例えば日本会計基準では、研究開発費が一括費用処理できるのに対し、IFRSでは研究段階の費用は費用計上し、開発段階の費用は資産計上として償却する必要があります。研究段階と開発段階とで費用区分を行ったりと、企業として新しいルールへ対応するための一定の負担は否定できません。

おわりに

いかがでしょうか?今回は、日本で認められている4つの会計基準についてご紹介しました。IFRSへ準拠する負担は決して小さいものではありませんが、日本企業のグローバリゼーションが進む中、IFRSへ対応する日本企業が増えています。また、2016年から適用されたJ-IFRSは日本企業向けに改良されたIFRSということから、IFRSと比較すると準拠への負担は少ないものとなっています。これからの時代、同じ日本国内の企業や投資家も日本会計基準ではなくIFRSやJ-IFRSに準拠した財務諸表に注目する可能性が高いでしょう。この機会に、自社の会計基準について見つめなおしていただきたいと思います。

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