ERP

失敗から考えるERP導入の道しるべ

以前の日本企業におけるERP導入は「失敗の歴史」と言っても過言ではないかもしれません。1990年代後半から普及が始まったERPは、当時、海外先進企業のベストプラクティスを吸収できるとして、日本の大企業が積極的に構築に取りかかりました。しかし蓋を開ければ、肥大化したアドオン開発による初期投資の増大や、バージョンアップ対応が難しくなり「塩漬け状態」にされたERPなど、その多くが多かれ少なかれ課題を抱えています。

しかし、最近では以前よりも失敗の数は少なくなってきています。それは、日本企業の多くがERP導入の意義や本質を理解し始めたことと、日本の商習慣にあったERPを構築するための環境が整っていったからでしょう。

ただし、ERP導入の失敗は常に付きまとうことですので油断は禁物です。本稿では、ERP導入の失敗から、成功への道しるべを示したいと思います。

ERP導入で失敗する8つの理由と回避策

ERP導入失敗の原因

ERP導入に失敗する場合、そこにはいくつかの原因が隠れています。まずはその原因を知ることが、成功への道しるべを示すことになります。

1.海外と日本のギャップを理解していない

海外製品のERPパッケージを導入する際に、海外と日本における「商習慣等のギャップ」を理解していない企業は少なくありません。たとえば、米国では従業員は管理統制の対象とすべきリソースだと認識しており、末端からの情報収集を徹底することに努めています。一方日本企業の多くは、従業員は会社にとっての家族同然であり、現場主導のビジネスを実行することが当たり前になっています。こうした商習慣の違いは至るところで現れました。

しかし、ERP導入に失敗する多くの企業は、この違いを理解していないがために成功できません。結果としてカスタマイズ要件が膨らみ、初期投資の増加やベンダーロックインといったリスクを生んでしまいます。

ERP製品は、それが生まれた場所の文化や思想を色濃く受け継いでいます。なので、国産製品であってもERP製品ごとのコンセプトや機能を十分に理解した上で、自社にとって有用な製品かどうかをしっかりと見極めなければいけないのです。

2.データを入力するモチベーションが無い

ERP導入そのものは成功しても、導入後に部門ユーザーから活用されないシステムに成り下がってしまった、という失敗ケースはよくあることです。この重大な失敗の原因について考えてみましょう。

そもそもERPは、部門ユーザーの適切なデータ入力ありきのシステムです。企業全体のヒト・モノ・カネの情報を一元的に管理し、活用するためのシステムなので、正確なデータ入力がされなければ何の意味もありません。では、なぜデータ入力が進まないのでしょうか?その原因は「データを入力するためのモチベーションが無い」からです。

たとえば海外と日本とでは、営業の考え方ややり方が大きく違います。海外の経営者は人的リソースを効率良く統制して、自分たちの事業目的の達成に向けて、確実に動かすための仕組みを求めています。さらに、そこに働くセールスマンは個人事業主に近い、独立した専門職と考えられており、雇用者に対して自分の抱えている案件の進捗を報告し、雇用者に従って成果を上げないと報酬を得ることができません。その結果として、経営者はセールスマンごとの営業案件の進捗状況等を正確に把握することができます。

一方、日本の営業は、個人の営業業績を個別に評価するのではなく、組織やチームの業績として評価することが少なくありません。成果報酬も無く固定給が基本であり、個人業績と直接連動していないケースが多いでしょう。従って、そこで働くセールスマンはERPへのデータ入力を、自分たちには直接的な利益のない単なる「報告事務」だと、余計な手間として考えるためデータ入力のためのモチベーションが存在しません。

その結果、経営者はERPから企業全体の情報をリアルタイムかつ正確に把握することが困難になり、部門ユーザーからも敬遠される存在になってしまいます。

この他にも、ERP導入で失敗する原因はたくさん存在します。それらの原因をについて知ることにより、ERP導入成功への道しるべも少し見えてくるでしょう。

ERP導入に成功するためには?

ERP導入にはさまざまな「失敗のリスク」が隠れています。それらのリスクを総合的に管理しつつ、ERP導入に取り組むことが大切です。ここでは、ERP導入に成功するためのポイントをご紹介します。

何のためのERP導入なのか?

会社がERP導入までに至った経緯とは何でしょうか?いわゆる「ERP導入の目的」が明確になっていないと、そのプロジェクトが失敗に終わる可能性は大変高いでしょう。ERPは一種のICTトレンドでもあるため、取引先・顧客・競合他社が導入していたからといった理由は、今の時代に必要だからといった理由でERP導入に取り組むケースも少なくありません。しかしそれでは、プロジェクト全体を通じて一貫したERP導入ができず、自社環境にまったくマッチしないERP製品を導入することになります。

ERP製品の背景にある文化や思想

前述のように、海外と日本の商習慣は違いますし、ビジネスに対する考え方も違います。そのため、海外製のERP製品の背景にあるのは、日本とはまったく異なった文化と思想です。それを読み取ることができなければ、日本企業にマッチしたERPを構築することは不可能でしょう。また、国産ERP製品であったとしても、製品が誕生するに至った課題やニーズはそれぞれ違います。どんなERP製品を導入するにせよ、その背景にある文化や思想について考えることが大切です。

ERPは現場主体のシステム

ERPはよく「経営のためのICTシステム」だと言われます。しかし、ERPは部門ユーザーのデータ入力ありきのICTシステムです。従って、現場主体のICTシステムだと考えて、導入段階から積極的に部門ユーザーの声を吸い上げることが大切です。もちろん、すべてを現場基準にするのではなく、現場がERPに合わせるという面も必要です。

ERP導入と同時にコミュニケーション基盤を

ERP導入は滞りなく完了したものの、それと同時にコミュニケーション基盤が整えられていないというケースはよくあります。ERPは部門ごとの垣根を越えた情報共有を実現しましたが、グループウェアのようにコミュニケーションまで促進するようなICTシステムではありません。従って、ERP導入と同時に新しく、円滑なコミュニケーション基盤を整えることにも注力しましょう。

継続的なROI評価と業務改善

ERP導入成功において大切なのは、導入したERPのROI(Return of Investment:投資対効果)を継続的に評価し、業務改善を実施していくことです。ERP導入が問題無く行えたとしても、その後の運用がしっかりしていないと成功とは言えません。くれぐれもERP導入そのものが目的にならないよう注意し、導入後の運用計画を立てていきましょう。

業務改善とは」の詳細はこちらでもっとご参考にしてください。

ERP導入を成功させよう!

ERP導入は、数あるICTシステム製品の中で導入が難しいと考えられていますが、成功ポイントを押さえることで、導入障壁を下げることができます。ここでご紹介した成功ポイントを基本に、ERP導入を推進してみましょう。

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