小売業

カスタマー ジャーニーとは?顧客解像度を高めるマーケティング戦略の作り方

世界的にニューノーマル時代を迎えたといわれる中、消費者の行動やニーズはこれまで以上に多様化しました。カスタマージャーニーマップは、そのような状況下でも顧客行動や思考を的確に把握でき、あらゆる場面にも柔軟に対応できるフレームワークです。この記事では、その基本概念や作り方を説明し、具体的な事例も紹介します。

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カスタマージャーニーとは?

「カスタマージャーニー」とは、日本語に直訳すると「顧客の旅」を意味する通り、マーケティングにおいて顧客の消費行動の過程を旅に見立てた言葉です。そして、旅の行程をたどるように顧客の目線に立ち、消費の際の行動・心理・思考などを時系列に沿って見える化したものを「カスタマージャーニーマップ」といいます。

マーケティングにカスタマージャーニーを取り入れることで、多様な消費者の実態をより高い精度で把握できます。

効果的なマーケティング戦略や施策を立てるには、顧客ニーズの正確な把握は不可欠です。そのために、これまでにもBtoCにおいて消費者が取る購買プロセスをモデル化するAIDMA(アイドマ)や商品を認知してから購入するまでの行動モデルを示すAISAS(アイサス)など、消費者の行動パターンを分析するさまざまな手法がマーケティングに活かされてきました。

しかし、コロナ禍によって世界的に社会常識が一変し、ニューノーマル時代を迎えた今、消費者ニーズは複雑化し、その把握も困難になっています。カスタマージャーニーは、このような時代においても、多様化・複雑化した消費者行動や心理を捉え、柔軟に製品・サービスの開発や販促などのマーケティングに活かせると期待されています。

カスタマージャーニーマップ作成のメリット

カスタマージャーニーマップを作成することで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。4つのポイントに絞って具体的に説明します。

顧客解像度を高められる

BtoB、BtoCともに、マーケティングにおいては顧客の行動や心理を理解することが非常に重要です。顧客理解が明確でなければ、ニーズや不満を正確に掴めず、真に必要とされる対策を打てません。顧客をどれくらい理解しているかを画像の解像度になぞらえて顧客解像度といい、解像度が高ければより深く顧客を理解していることを表します。

カスタマージャーニーマップを作成する過程では、できるだけ具体的なペルソナを設定し、さらにそのペルソナの目線に沿って実際の消費行動を詳細に可視化します。それによって顧客解像度が高まり顧客像を明確に捉えられることは、マーケティングにおいて大きなメリットとなります。

顧客心理を可視化してマーケティング戦略に活かせる

カスタマージャーニーマップを作成すると顧客行動だけでなく、フェーズごとの考え方や気づき、判断などの顧客心理を可視化できる点も重要なメリットです。

従来のマーケティング戦略では、企業の立場から顧客の行動や心理を推測して対策を講じていました。しかし、それでは真の顧客ニーズを把握できず、企業からの一方的な押し付けになるケースもあり得ます。顧客視点に立って時系列で購買行動をたどることで、どのようなシーンで顧客が迷ったり困ったりし、どのような対応で満足や安心を得られるのかといった心理まで理解が深まるのです。

このように、カスタマージャーニーマップは顧客心理を明確にする効果に優れるため、マーケティング戦略において非常に有用です。

クリエイティブの訴求文やコピーに活用できる

ビジネス用語としてのクリエイティブとは、キャッチコピーやセールスの文章、グラフィックなど、企業や商品・サービスの宣伝のために制作されるコンテンツを指します。

コロナ禍によって顧客が直接店舗に出向くことが減った半面、デジタルメディアの重要性が高まり、顧客の購買プロセスはより多様化しています。そのような変化の中で、競合商品を押さえて顧客の心を掴むクリエイティブは、業績向上に不可欠なコンテンツといえるでしょう。

前項で触れたように、カスタマージャーニーマップは顧客解像度を高め、顧客心理が明確になるため、顧客ニーズも具体的に把握しやすくなります。それをセールス文章やコピーに反映することで、より訴求力の高いクリエイティブの作成に活かせる点も大きな強みといえます。また、ペルソナが明確になっていることで、その対象に好まれるグラフィックの傾向なども絞れるというメリットもあります。

SEO対策や広告運用で活用できる

マーケティングの効果を上げるには、クリエイティブの作成に合わせ、SEO(Search Engine Optimization)対策や広告運用も必要です。中でも、特に重要なSEO対策とは、インターネット上の検索エンジンで上位に検出されるように、自社のWebサイトの内容を最適化することです。

SEO対策では、ターゲットとなる顧客が検索すると想定されるキーワードを自社Webサイトに盛り込むことが最も重要です。そして、検索エンジンからサイトを訪れた人にとって見やすく、必要な情報を簡単に得られるようなページ作りも大切です。

カスタマージャーニーマップでは、SEO対策やWebサイトのコンテンツ作りに役立つようなキーワードを多く選出でき、その点でも優れています。

カスタマージャーニーで作成する項目とポイント

基本的なカスタマージャーニーは、例えば「一人暮らしの40代女性が引っ越しに当たってプロバイダを変更する」「60代の夫婦が7人乗りのステーションワゴンを手放して軽自動車を購入する」「20代の新卒サラリーマンがネット銀行の口座開設のやり方がわからないので電話相談窓口に問い合わせる」など、具体的なシーンを想定してマップを作成します。商品の種類や顧客層に合わせ、複数のマップを作成してもいいでしょう。

また、カスタマージャーニーマップの作成は、1人よりも複数人で行う方が発想も広がり、意見交換を通してより有益な情報が得られたり多様な想定ができたりするので精度が高まります。1つのケースに関係する各部署から1人ずつ参加するなど、多様なメンバーで行うのがおすすめです。

それでは、カスタマージャーニーを実際に作成する場合に必要な項目と、注意すべきポイントについて、手順に沿ってみていきましょう。

ペルソナ

あらゆるマーケティングの戦略や施策において、ペルソナ(persona)の設定は不可欠とされています。ペルソナとは、企業が販売・提供する商品やサービスの対象となる典型的な顧客像のことで、当然ながら企業ごと、商品ごとに異なります。

対象顧客を「ターゲット」とも呼びますが、ターゲットがざっくりとした顧客層を指すのに対し、ペルソナは典型的な顧客を仮想し、実際に実在しているように性別・年齢だけでなく家族構成、職業、趣味嗜好や生い立ち、性格、好み、休日の過ごし方など可能な限り具体的に想定します。そうすることで、ターゲットに潜在するニーズや不満を現実に近い形で把握でき、マーケティング戦略に活かせるのです。

特にカスタマージャーニーにおいては旅の主人公となるので、ペルソナはできるだけ具体的な方がより精度の高いカスタマージャーニーマップが作成できます。ある程度対象に幅を持たせて、顧客層の範囲を広げた戦略も必要かもしれませんが、「典型例」として具体化されたペルソナがある方が、実際のカスタマージャーニーマップ作成に当たっては発想が広がり、効果的で有益な結果が得られるでしょう。

顧客の心理と考え

ペルソナを確定したら、想定した状況を、目的やシーンごとにマップに落とし込みます。その際、順調なシーンだけでなく、「電話したがつながらない」「希望した商品が売り切れていた」など想定しうる、うまくいかないシーンも挙げます。

そして、それぞれのシーンにおける顧客の心理や考えを、並べて書き込んでいきます。

顧客心理としてまず挙がるのが、動機や目的でしょう。例えば「引っ越しを機にプロバイダを変更する」というカスタマージャーニーで、最初のシーンが「プロバイダを調べる」の場合、そこで想定されるペルソナの心理として、「これまで使っていたプロバイダは料金も高いし、引っ越しを機にもっと安くてサービスもいいところに変更したいな。まずは料金を比較してみよう」などと記入します。自分がそのペルソナになった気持ちで、より具体的な希望や心情を言葉で表すといいでしょう。

顧客の行動と意思決定

顧客の心理や考えと同様に、行動や意思決定についても、シーンごとに並べて書き込んでいきます。例えば、上記の例を引き続き使うとすると、「プロバイダを調べる」シーンでの具体的な行動として「インターネットで料金を比較する」「口コミで評判を見る」「詳しい友人に相談する」といったことが挙げられるでしょう。

同じシーンに書き出された顧客の心理と行動を対応させることで、実際の顧客行動に近づけます。ここで想定した行動に合わせて、心理が変わっていってもかまいません。それぞれの行動をとった際の心理を書き加えていきましょう。

複数の人で思いつく行動をすべて挙げ、話し合いながら適切なものへと絞っていくと、精度の高いマップを作成できます。

顧客心理・行動から気づいたこと

カスタマージャーニーマップの仕上げとして、全体を通した顧客の心理や行動を見て気づいたことをそれぞれのシーンに書き込みます。もちろん、マーケティングに有用な気づきに限ります。

例えば、「ネットで調べると、やっぱり口コミが気になってしまうのだな」「『プロバイダ』や『安い』という検索しやすいワードで上位に検出すると有利だな」「ネットの評判だけでなく、知人の紹介があると信用度が上がるな」など、各シーンにおいて企業側として気づいた重要なポイントを挙げていきます。

改善点、提案などを思いついたら、それらも積極的に書き込みましょう。

特に何も書くことがない、という場合は、シーンの設定がうまくいっていないかもしれません。マーケティングとして不要なシーンは削除し、必要最低限なシーンだけを簡潔にまとめることも大切です。

この「気づき」はカスタマージャーニーマップにおいて最も重要といえます。立場の異なる複数の人数で作成すると、1人では気づけない多様な気づきが得られるでしょう。

カスタマージャーニーの事例

最後に、実際のカスタマージャーニーの事例を紹介します。

1つ目は、仮想の「P」という高級輸入車を取り扱う販売店が作成した、「Pも視野に入れて、輸入高級車に買い替えたいと思っている40代の男性」というカスタマージャーニーマップです。

(出典:Adobe Experience Cloud 【ケーススタディー】カスタマージャーニーを作ってMarketoに実装してみよう)

この事例での、より詳しいペルソナは、以下の通りです。

  • 名前は立花雄介。43歳。東京都世田谷区在住。
  • 職業はIT会社執行役員
  • 家族構成は妻と娘二人(高校生・中学生)
  • 趣味はワインとダーツ
  • 海外旅行が好きで、イタリア、南仏、スペインなどヨーロッパを好む。仕事ではアメリカに行くことが多い。
  • 自動車も好きで、これまではスポーティな国産車に乗っていたが、そろそろ高級な欧州車に乗り換えたいと考えることもあり、Pを含め主な欧州車についての一般的な知識はある。

このように、実在しそうなくらい詳細なペルソナを想定すると、マップ作りがスムーズに進められます。

そして、最終的なカスタマージャーニーマップでは、「そろそろ車を買い替えようかな」というペルソナの動機から始まり、「Pという選択肢について調べるために自社サイトを訪問」「Pの詳細ページに長時間複数回閲覧、Pについての下層ページもすべて閲覧」、その後、「見積請求・試乗会申し込み」、最後に店舗を訪れて「契約成立」というゴールに至るまでの各過程(フェーズ)がペルソナの心情とともに書き込まれています。

また、このカスタマージャーニーマップに合わせて、次の行動を起こさない場合のこちらからの働きかけや、ほかのページを閲覧した場合の対応、メールアドレスなどの顧客情報を取得した場合のサービスなど、ケースごとの対応例を細かく用意しました。

このように、カスタマージャーニーマップは1つの工程をまとめたものですが、それぞれの行程で必ずマップとは異なる反応や行動が起こるものなので、マップ以外のシチュエーションもできる限り想定し、対応策を作成メンバー全員で共有すると安心です。

次は、「海外旅行を計画している日本人が初めてAirbnbというバケーションレンタルのオンラインマーケットプレイスを利用する」というカスタマージャーニーマップです。

(出典:株式会社impress Web担当者Forum カスタマージャーニーマップを正しく活用するには「おもてなし」と「カスタマーエクスペリエンス」の理解から)

この事例でのペルソナは、「友人と2人で海外旅行に行こうと計画をしている日本人で、宿泊先選びに初めてAirbnbを利用する」という大まかなものです。この場合、車の購入者とは異なり、サイトの利用者は国籍・性別・年齢も含め実に多様な人が想定されます。

このような、利用者が絞り切れないうえに、目的も「サイト利用者の利便性や満足度を高める」など幅広い対象を視野に入れている場合は細かいペルソナ設定は不要です。思考や行動を特徴づけるための大雑把な設定で十分といえるでしょう。

このようなペルソナでも、カスタマージャーニーマップの作成目的とマッチしている場合は、有用な情報がいくつも挙げられます。

具体的なフェーズとしては、「宿泊候補を探す」ことから始まり、「宿泊先を決める」「宿泊地に行く」「宿泊地を評価する」と4つに分けられています。目的が、サイト利用者の利便性や満足度を高めることなので、実際に旅行した時や戻った後の評価までがジャーニーに含まれます。

このマップを通して、宿泊地選びや予約に使うサイトの利便性や使用感、実際に現地に行った時の地図の見やすさやアクセスのわかりやすさ、オーナーの評価やレビューの書き方について、気づいたことや課題を挙げ、サイトの改善に役立てられています。

以上、BtoCにおけるカスタマージャーニーマップの事例2件について説明しました。以下ではBtoBの事例として、LISKULというインターネット上でマーケティングに関する情報提供をしている企業の事例を簡単に紹介します。

(出典:LISKUL 5分でわかるカスタマージャーニーとは?取り入れ方や分析のコツを事例とともに解説)

マップのテーマは「リスティング広告の運用改善を検討する担当者のカスタマージャーニー」です。これまでに説明してきた基本に沿って作成されたもので、各フェーズには「認知・興味」をきっかけとして「情報収集」「比較検討」し、それらをもとに「意思決定」する行程が設定され、それぞれにおいてのペルソナの思考や行動をまとめ、それに対する施策案を提示しています。

BtoCだけでなくBtoBでも活用できるというカスタマージャーニーマップの汎用性がよくわかる好事例です。

まとめ

カスタマージャーニーマップは、顧客ニーズの把握という作業にストーリー性を持たせるもので、異なる対象や予想外のフェーズにも柔軟にも対応できる優れたフレームワークです。ペルソナや場面の設定次第であらゆる業態に応用できるので、自社のマーケティング戦略における課題や目的に合わせて積極的に活用しましょう。

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