小売業

国内消費動向から見る小売業のトレンドと変化

消費税増税や消費者動向の変化により、従来どおりの小売ビジネスでは成長を遂げることが難しくなっています。小売業者も生き残りをかけるために、常に消費者のニーズを把握してサービスを展開しなくてはいけません。そのためには、国内消費動向とトレンドを把握することが重要です。今回は、小売事業者が知っておきたい消費動向を業種別にトレンドと共にご紹介いたします。今後、取るべき戦略のヒントにしていただければ幸いです。

国内消費動向から見る小売業のトレンドと変化

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消費動向調査

今回は内閣府が実施している「消費動向調査」を元にそのポイントをご紹介させていただきます。

最初にこの消費動向調査に関してご紹介します。この調査は、現在の景気動向とそれに付随する消費者の意識を把握するために行われる調査です。主に「消費者の意識」、「主要耐久消費財等の保有買替え状況」、「世帯の状況」、「物価の見通し」などを把握できます。調査の対象となるのは外国人や学生、施設等入居世帯を除く、約5,218万世帯の中から抽出した一部の家庭です。毎月一回消費動向調査をするので、そのたびに抽出して郵送やオンライン形式でアンケートをとります。

アンケートでは、「暮らし向き」、「雇用環境」、「耐久消費財の買い時判断」、「収入の増え方」の4つを5段階評価で回答してもらいます。この5段階評価にはそれぞれ点数があり、この点数に各回答区分の構成比(%)を乗じて、その結果を項目ごとに「消費者意識指標」として算出します。

この値に加えて、「消費者意識指標」を単純に平均した「消費者態度指数(原数値)」などから、現在の景気動向や消費者の意識がどのように推移しているのかがわかるのです。

令和元(2019)年9月分調査

令和元年9月の「消費者態度指数」と「消費者意識指標」の統計値は前月よりも全体的に下回っており、それぞれ以下のようになっています。

・暮らし向き:33.9ポイント(前月0.9ポイント減)
・収入の増え方:38.7ポイント(前月0.8ポイント減)
・雇用環境:41.5ポイント(前月0.7ポイント減)
・耐久消費財の買い時判断:28.1ポイント(前月3.6ポイント減)
・消費者態度指数:35.6ポイント(前月1.5ポイント減)

「消費者態度指数」が35.6ポイントとなっていますが、前回消費税を8%に引き上げた2014年4月1日の「消費者態度指数」は37.0で、その時の数値よりも大きく下回っています。また、東日本大震災直後の平成23年6月では、「消費者態度指数」が35.3を記録しており、その時の値に接近しています。このことから、現在の数値が大きく下回ってきているのがわかります。

一方、1年後の物価の見通しでは、「物価が上昇する」と答えた方が前月よりも0.6ポイント多くなっています。この数字は10月に行われる消費税増税が大きく影響していると想定されます。

全体的に数値を見てみると、消費者が感じる経済状況や購買意欲(「消費者マインド」と呼ぶ)が低下していることがわかります。消費者マインドが冷え込むと個人消費が減ってしまうので、小売事業者としては厳しい状況と言えるのです。

業種別に確認する消費動向の特徴

消費動向調査で全体感は掴めたかと思います。それでは業種ごとに個別に確認していくことにしましょう。

個人消費動向は、1年間の「商業販売額」を見ることで供給側からも確認できます。たとえば、平成29年度の卸売業と小売業の全てを含めた「商業販売額」は、455兆9540億円となり前年と比べて3.1%増となっています。平成28年よりも平成29年の個人消費が全体的に伸びていることがわかります。

このうち全体の7割が卸売業で313兆4.390億円となり、前年と比べて3.6%増えています。また、3割は小売業となっていますが、より消費者の動向を知るためには小売業の「商業販売額」を見ることが重要です。

小売業

平成29年度の小売業の「商業販売額」は142兆5140億円となっており、前年と比べて1.9%増となっています。細かく変動要因を見てみると、「各種商品小売業」などは前年よりも減少していますが、「自動車小売業」が大きく伸びたことで増加を後押ししています。

輸入車や新型車効果により普通車が好評であったため、前年比6.4%と4年連続で上向きに伸びたのです。その他「医薬品・化粧品」では、化粧品の好調により前年比3.9%と6年連続の増加。「織物・衣服・身の回り品小売業販売」では、秋と春の気温変動による季節商材の動きにより、前年比2.3%と8年連続で増加しています。

一方、低調だった項目もいくつかあります。「各種商品小売業」では、天候不順で衣料品の動きが鈍く、前年比マイナス1.3%と3年連続で減少。「その他小売業」でも、家庭用品や日用品、インテリア用品があまり伸びずに前年比マイナス0.2%の減少となっています。

また、「無店舗小売業」では健康食品の売上が乏しく、前年比マイナス0.7%の減少となっています。

百貨店

平成29年度の百貨店の販売額は、6兆5528億円となっています。前年が6兆5976億円なので、448億円のマイナスです。全体では前年比マイナス0.7%の減少で、インバウンド需要や国内消費の伸びにより宝飾品や化粧品が好調だったものの、店舗の閉店による事業所数の減少や天候の不順により婦人服の動きが鈍かったようです。

たとえば「衣料品」では、前年2兆9208億円から2兆8528億円と680億円のマイナスです。「飲食料品」でも、前年1兆8954億円から1兆8618億円とマイナス336億円にもなっています。

このように全体的に販売額は減少していますが、既存店をベースに見てみると前年比0.6%と2年ぶりに増加しています。そのため、新店が上向きに振るわなかったということが考えられます。

スーパー

平成29年度のスーパーの販売額は、13兆496億円です。前年に比べて、約500億円増加しており、率にして0.4%の増加です。天候不良により季節商材の動きは鈍かったのですが、「飲食料品」や「畜産品」などを中心に堅調だった品目もあり、それに加えて「新店効果」もあったことが増加の理由に挙げられます。たとえば、「飲食料品」では、前年の9兆5524億円から9兆6440億円と916億円も増加しています。

一方、「衣料品」では、前年の1兆2564億円から1兆2007億円へと557億円減っており、前年比マイナス4.4%の低下です。この低下は特に「婦人・子供服・洋品」の減少が大きな要因です。そのためか、既存店をベースだと前年比マイナス0.2%と4年ぶりに減少しています。

家電大型専門店

家電大型専門店では、平成29年の販売額が4兆3115億円となっています。平成28年が4兆1829億円なので、1286億円の増加です。前年を比べると3.1%の増加で、「情報家電」や「通信家電」、「生活家電」などの販売額が増えているのが影響を与えているようです。

「情報家電」の平成28年の販売額は8769億円で、平成29年では9582億円なので813億円上昇しています。また、「通信家電」では前年3285億円から3370億円に上昇しており、その差額は85億円です。「生活家電」も1兆7550億円から1兆7974億円に上昇しており、424億円も上昇しています。

ドラッグストア

平成29年のドラッグストアの販売額は、6兆579億円となっています。前年が5兆7258億円なので、約3,000億円もの増加です。率にして前年比5.4%の増加で、近年は継続的に増加しています。これは「ビューティケア」「食品」「家庭用品・日用品・ペット用品」などが好調で、なおかつ新店効果も加わったことが影響したようです。

たとえば「ビューティケア」では、前年の8521億円から9101億円と、580億円の上昇。「食品」でも1兆4914億円から1兆6206億円と、1000億円以上も増加しています。

「家庭用品・日用消耗品・ペット用品」も、8815億円から9262億円へと上がっており、447億円の増加です。また、「店舗数」も約1万4000店から1万5000店に増えており、商業販売額を押し上げる要因となっていることがうかがえます。

ホームセンター

平成29年のホームセンター販売額は、前年3兆3090億円から3兆2941億円へと約150億円減少しており、前年比ではマイナス0.4%となっています。これは2年ぶりの減少で、主な原因は「インテリア」や「家庭用品・日用品」の低調です。

「インテリア」では、2474億円から2359億円へと115億円の減少。「家庭用品・日用品」でも、7342億円から7266億円へ微減しています。その他の品目でも減少しているものがいくつかありますので、これらが要因となって商業販売額の下振れにつながっています。

小売業のトレンドと変化

近年、有名デパートの閉店や大型ショッピングモールの空洞化など、小売業では大きな変化が起こっています。令和元年の消費動向調査で、消費税増税の影響から消費離れが起こる可能性があるとご紹介しましたが、その他にもさまざまな要因により実店舗への客離れが深刻化しています。

その要因の一つが、小売業のトレンド変化です。特にデジタル分野の発展が、小売業業界に大きく影響を与えています。今まで消費といえば、消費者がお店に足を運んで商品を購入するというパターンが主流でした。しかし、今ではオンラインショップで気軽に買い物ができてしまいます。そのため、実店舗がショールームのようになり(ショールーミング)、実店舗での売上が減少しているのです。

そこで小売業者は、新しいトレンドを掴んで従来とは別の形で消費者にアプローチをする必要があります。たとえば、デジタル化を逆手にとって、新しいサービスを展開するのも良いでしょう。

ある業者では実店舗をショールーミング化し、試着のみができるお店として店舗を運用しています。消費者はお店で試着だけができて、気に入ればアプリで購入をしたり、店内で支払いしたりして自宅に郵送してもらえるのです。住宅設備メーカーでも、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用して新しいサービスを展開しています。具体的には、VRやARを使用して、最新の設備を消費者がリアルに体験できるようになっているのです。

デジタル化というトレンドに合わせて、小売業者でもさまざまな手法で消費者にアプローチしているのがわかります。ここで挙げたのは一例ですが、ドローンでの宅配サービスやネット上でのコーディネートサービスなど、消費者の変化に合わせて小売サービスを変化させることで、新しい商機を生むチャンスになるのです。

まとめ

消費動向調査を見ると、消費者マインドが冷え込んでいるのがわかりました。小売トレンドも変化しており、実店舗への消費離れは深刻になってきています。しかし、その一方で好調を極める小売事業者も数多く存在します。そのような企業や店舗はトレンドの波に乗ったサービスを提供していたり、最新のITを活用して事業を効率化していたりと工夫があらゆるところに垣間見られます。特に今のトレンドであるデジタル化を、いかに取り入れるかが重要なポイントになってくるでしょう。

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