多くの企業がDXへの対応を求められる中、クラウド化の波は日々大きくなっています。近年は、Webサービスやアプリ提供を担う「サービス系」と呼ばれるシステムがクラウドへと移行しています。今後は基幹業務をつかさどるシステムについてもクラウド化が必要とされるでしょう。ただし、移行先システムとの相性やコストなどが壁となり、順調に進んでいるとは言い難い状況のようです。ここでは、クラウド移行の手順について解説します。
クラウド移行の背景
2010年代後半から始まったクラウド移行の流れは、今後さらなる拡大が予想されます。そこでまずは、クラウド移行が進んでいる背景を整理しておきましょう。
人材不足、レガシーからの脱出
2018年に経済産業省が公開したDXレポートでは、「2025年の崖」について言及がありました。2025年の崖とは、大手ERPベンダーの保守サポート期限切れによるセキュリティリスクの上昇や、運用コストの高騰、新しいビジネスモデルへの取り組みが遅れることなどを示唆した言葉です。実際に2025年には、21年以上稼働し続けている基幹系システムが6割を超えると指摘されています。
また、IT人材不足についても言及があり、2025年には最高43万人程度のIT人材が不足するとの試算もあります。
近年のビジネスは、ビッグデータ、機械学習、IoT、BIといった先端技術の活用が前提です。このことから、先端技術を組み込むことができないレガシーシステムの存在自体が、ビジネスの足かせになるとの見方が強まっています。
クラウド移行は、これらDXの阻害要因を取り除き、新しいビジネスモデルを生み出しやすい文化への第一歩となる役割が期待されています。
加速するクラウド移行
次にクラウド移行に関する市場を見ていきましょう。クラウド移行で頻繁に採用されるパブリッククラウドサービスについては、2021年時点で前年比28.5%増という結果です。
さらに、コロナ禍で巻き起こったオンラインシフトの波が成長を後押ししたことや、クラウドファーストの浸透によって基幹系システムのクラウド移行が本格化するなど、さらなる成長が見込まれます。
クラウド移行のメリット
クラウド移行のメリットとしては、主に以下4つのメリットが挙げられます。
TCOの削減
システムのTCO(総保有コスト)は、主に導入時のコスト(イニシャルコスト)と運用コスト(ランニングコスト)に大別されます。クラウドを主体としたシステムでは、ハードウェアへの投資額を小さくできるためイニシャルコストの削減が可能です。また、負荷が高い時にだけリソースを追加できることや、ハードウェアの更新費用が不要であることなどから、ランニングコストの低減も期待できます。
自動化・効率化のベースとなる
IT人材の不足やリアルタイム性を重視したビジネス展開に対応するためには、自動化・効率化を前提としたシステム構築が必須です。クラウドプラットフォームの大半は、自動化・効率化の適用を前提としたサービスを提供しており、これらを駆使することでビジネスを効率よく展開するための土壌が形成されます。
スケーラビリティの確保
クラウドはオンプレミスに比べると遥かにスケールしやすいシステムです。オートスケール機能やサイジング計算機能などを活用することで、サーバーリソースやディスク容量の計算がほぼ不要になることもあります。
障害への対応が簡略化される
クラウドを活用することで、障害発生などで生ずるイレギュラーな対応の一部をベンダーに委任することができます。
クラウド移行の手順
クラウド移行の進め方は企業によってさまざまです。そのため、ここで紹介する内容はあくまでも一般論であることをご了承ください。クラウド移行では、次のような手順を踏むことが多いでしょう。
クラウド移行プランの作成
クラウド移行における最初のステップがクラウド移行プランの作成です。このステップでは、「移行対象(アプリケーション、データなど)の選定」「移行先システムとレガシーシステムの依存関係調査」「スケジュール作成」「移行コスト計算」などを加味した計画書を作成します。
クラウド化に関する設計など
次に、クラウド化を想定して既存のシステムを参考にしながら新しいシステムの設計を行います。また、必要に応じて業務用アプリケーションの再設計も進めます。データに関しては運用方法を加味しながら再定義を行いましょう。
開発と移行
設計が完了した後は、システム・アプリケーションの開発と移行を進めます。同時に、認証基盤の再構築や運用プロセスの見直しなども行いたいところです。また、新システム・アプリケーションに関するマニュアルの作成や操作方法のトレーニングも進めておくと良いでしょう。
効果測定、運用
クラウド移行が完了した後は、本番環境で効果測定と運用を開始します。
クラウド移行の課題は「Azure Migrate」で解決
クラウド移行の手順を見ると、大きな問題が生じないように見えるかもしれません。しかし、実際には、種々の課題が発生します。
理想は「リフトアンドシフト」だが…?
これまで、クラウド移行は「リフトアンドシフト方式」が主流でした。リフトアンドシフト方式では、オンプレミス環境を可能な限りそのままの形でクラウドへ移行することが前提です。
しかし、近年はリフトアンドシフト方式に対して懐疑的な見方も出ています。その背景には、移行元と移行先の互換性検証が難しく、コストが最適化できないことがあるようです。互換性検証が不十分なままクラウド移行を進めると、余分なサーバーリソースを使うなど種々の無駄が発生します。
また、互換性の検証作業自体に時間がかかりすぎることや、サイジング計算が難しいことも原因のようです。
クラウド移行の課題解決をサポートするAzure Migrateの機能
こうしたクラウド移行の課題を解決するには、クラウドプラットフォームから提供されている移行専門ツールの活用がおすすめです。Azureでもクラウド移行をサポートするツールとして「Azure Migrate」を提供しています。
移行元データの検出/収集機能
Azure Migrateでは、まずオンプレミス環境のメタデータ(仮想マシン名、CPUコア数、メモリサイズ、ディスクサイズ)と、パフォーマンスデータ(リソースの使用率など)を収集します。収集された2種類のデータは、後述の評価機能で使用されます。
評価機能
前述の検出/取集機能で収集されたデータをもとに、移行先のクラウド環境に対して適性評価を行います。ここでは、OSのサポート状況などを含めた互換性の評価や、必要とされるサーバーリソース、ランニングコストなどが計算されます。リフトアンドシフト方式で発生しがちな、サイジングやコスト計算の難しさを解決するための機能です。
クラウド移行機能
実際のクラウド移行作業をGUI上で操作、可視化する機能です。レプリケート機能やテスト実行機能も備えており、操作ミスや移行失敗によるリスクを最小化することができます。
まとめ
ここでは、クラウド移行が進む背景や市場規模、手順、課題などについて解説してきました。クラウド移行では、リフトアンドシフト方式の課題をいかに解決するか鍵になります。もし、事前検証や互換性調査、サイジング計算に関するノウハウを有していないのであれば、Azure Migrateによる事前評価を検討してみてはいかがでしょうか。