近年、経営基盤の総合的な強化を目的として「ERP」を導入する企業が増加傾向にあります。そこで本記事ではERPの概要や基幹システムとの違い、近年主流となりつつあるクラウドERPについて解説します。レガシーシステムの刷新やクラウドマイグレーションを検討している企業は、ぜひ参考にしてください。
ERPとは
ERPは「Enterprise Resource Planning」の略称で、人的資源・物的資源・資金・情報などの経営資源を一元管理する経営管理手法です。組織の基盤となる経営資源を一元的に管理することで、事業活動の合理化を図ることを目的とします。本来、ERPはこのような経営管理手法の概念を指す意味合いでしたが、近年では企業の基幹業務を一元管理する「統合基幹業務システム」を指して「ERP」と呼称するのが一般化しています。
経営管理手法としてのERPは、1970年代に提唱された製造分野における生産管理手法の「MRP(Material Resource Planning)」をベースに発展させたものです。MRPは「資材所要量計画」とも呼ばれ、資材と在庫の総量に注目して生産計画を立案・策定する管理手法を指します。このMRPの管理領域を「生産工程」から「企業経営」へと発展させたものが経営管理手法としてのERPです。
ITシステムとしてのERPが誕生したのは約半世紀前のことであり、ドイツに本社を置くSAPが1973年にリリースした「SAP R/1」が世界初のERP製品といわれています。その後、1990年代に日本でもERPシステムの導入ブームが起きたものの、高額な導入費用や商習慣のミスマッチなどから大企業以外では普及するに至りませんでした。しかし、近年になるとクラウドERPの誕生によって導入障壁が取り除かれつつあり、中小企業でもERPシステムの導入が加速しています。
基幹システムとは
基幹システムとは、財務会計や生産管理、購買管理、在庫管理、人事管理など、企業経営の土台となる基幹業務のデータを管理するシステムです。代表的なものとしては、会計システムや人事給与システム、在庫管理システムなどが挙げられ、サーバーダウンやネットワーク障害が発生した際に、事業活動そのものに致命的な影響を及ぼすITシステムを基幹システムと呼びます。
たとえば、製造分野における生産管理では、実在庫に基づきながら資材の所要量を計算するMRP処理が行われます。MRPでは主に部品表と基準生産計画をもとに資材の所要量を算出し、在庫を引いて発注量などをコントロールします。こうしたMRP処理を効率的に実行するのが、生産管理システムや在庫管理システムといった基幹システムです。
ERPと基幹システムの違い
ERPシステムと基幹システムの決定的な相違点は「データの管理領域」です。基幹システムは基本的に財務会計や生産管理、人事管理といった企業経営の土台となる部門の業務データを管理します。一方で統合基幹業務システムとも呼ばれるERPは、その名の通り企業の基幹業務データを一元的に管理するソリューションです。つまり、基幹システムの管理領域は「部門」であり、ERPシステムの管理領域は「組織」であるという点が大きな違いといえるでしょう。
基幹システムをERP化するメリット
ERPシステムを導入する大きなメリットのひとつが「経営状況の可視化による意思決定の迅速化」です。冒頭で述べたように、ERPは人的資源・物的資源・資金・情報といった経営資源の最適化を目指す経営管理手法であり、それを実現するためには財務会計・人事管理・購買管理・生産管理・在庫管理・販売管理といった基幹業務データを一元的に管理する必要があります。
基幹システムは基本的に各部門で個別管理されているため、部門を横断した情報共有が困難であると同時にデータのサイロ化を招き、組織の経営状況を的確に把握できません。ERPシステムは基幹業務のデータを1つのプラットフォームに集約するため、全社横断的な情報共有を可能にするとともに、経営状況を俯瞰的な視点から分析できます。そのため、経営状況の可視化による意思決定の迅速化に寄与し、変化が加速する市場に対応できる経営基盤を構築できます。
ERPの導入手順
ERPを導入する際は、一定の工程を経ると効率的です。「導入目的の明確化」から「運用開始」まで順を追って解説します。
1.ERPを導入する目的の明確化
何のためにERPを導入するのか、どの事業領域に活用するのかなど、経営ビジョンや事業目標に基づいて導入目的を明確化しましょう。このプロセスを踏むことで、ソリューションの選定や導入ベンダーとの意思疎通が円滑になります。
2.導入ベンダーとERP製品の選定
ERPシステムは多種多様な製品がリリースされているため、自社に適したソリューションを選定するのは容易ではありません。また、システムの設計や実装を自社のリソースのみで賄うのは困難なため、導入から運用に至る全工程を総合的に支援するベンダーを選ぶ必要があります。
3.要件定義
ERPシステムに求める業務要件やシステム要件を具体化するステップです。独自の機能を追加するアドオン開発は導入費用と開発期間の増大を招くため、自社の事業形態に必要な機能を見極める知見が求められます。
4.設計・開発
定義された要件に基づいてシステムを設計・開発します。システムの設計や開発といった領域は基本的にベンダーの担当になるため、この間に操作マニュアルの作成や研修・トレーニングの実施、業務フローの再定義など、自社の運用体制を整えることが重要です。
5.テスト
システムのリリース前に全体のレスポンスやユーザビリティを検証するステップです。一般的には機能単体の動作性を見る「単体テスト」、機能間連携における動作性を見る「結合テスト」、そして最後にシステム全体の動作性を検証する「総合テスト」という3ステップを実施します。
6.運用開始
ここまでのプロセスに問題がなければシステムの運用を開始します。システムの構築はERPを最適化する手段であって目的ではないため、運用成果を最大化するためには継続的な運用プロセスの見直しや機器のメンテナンスなどが必要です。
近年はクラウドERPが主流に
近年、クラウドファーストの一般化に伴い、さまざまな分野で進展しているのがERPシステムのクラウド移行です。経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」が差し迫るなか、さまざまな企業でレガシーシステムの刷新が重要課題となっています。しかし、オンプレミス環境にERPシステムを構築する場合は、数千万〜数億円の開発費用と年単位の開発期間を必要とするため、比較的コストと開発期間を抑えられるクラウド環境に移行する企業が増加傾向にあります。
ERPシステムは業務システムのなかでも非常に高度なセキュリティが求められるため、これまでクラウド移行を躊躇う企業が少なくありませんでした。しかし、近年では「Microsoft Azure」や「Amazon Web Services」のように国際的なセキュリティ認証を得ているサービスもあり、金融機関のように厳格なセキュリティが求められる分野でもクラウドERPの導入が進みつつあります。
シームレスな業務改革を可能にする「Microsoft Dynamics 365」
ERPシステムのクラウド移行を検討している企業におすすめしたいのが「Microsoft Dynamics 365」です。Microsoft Dynamics 365はMicrosoftが提供するクラウドERPであり、顧客情報を統合管理するCRM機能を有しているのが大きな特徴です。ERPとCRMのシームレスな連携による業務改革とビジネスの成長を実現したい企業は、Microsoft Dynamics 365の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
ERPは、人的資源・物的資源・資金・情報といった経営資源を一元管理する経営管理手法であり、その実現を支援するのが統合基幹業務システムとも呼ばれるERPシステムです。基幹システムが「部門」の業務データを管理するのに対し、ERPシステムは「組織」の経営データを管理領域とします。ERPシステムの刷新やクラウド移行を検討している企業は、ぜひMicrosoft Dynamics 365の導入をご検討ください。