日本企業の海外進出先としてタイが人気を博しています。JETRO(日本貿易振興機構)が2017年に調査した結果によると、現地での活動が確認された日系企業は5,444社となり、前回調査(2014年)の4,567社から877社(19.2%)増加しています。
ASEAN(アジア連合諸国)の中でも著しい発展を遂げているタイですが、なぜここまで人気なのか?本記事ではタイに進出するメリットとデメリットを解説し、タイ進出を検討している経営者の判断材料としていただきたいと思います。
タイってどんな国?
タイは東南アジアに位置する国であり、国土面積は日本の約1.35倍、飛行機では直行便なら5時間弱で到着する位置にあります。日本からの距離が比較的近いこともあり、タイは初めての海外進出先としても積極的に検討される国の1つでしょう。そんなタイに対して、「仏教」や「広大な水田」といった単純なイメージしか持っていない方は多いかもしれません。まずは、タイがどんな国なんかを簡単に説明します。
<一般知識>
国・地域名 |
タイ王国(Kingdom of Thailand) |
国土面積 |
51万3,115平方キロメートル |
人口 |
6,765万人(2017年時点) |
首都 |
バンコク(タイ語名:クルンテープ・マハナコーン) |
言語 |
タイ語 |
宗教 |
人口の約95%が上座部仏教、その他イスラム教、キリスト教など |
<基礎的経済指標>
実質GDP成長率 |
4.1% |
名目GDP総額 |
487.24(十億ドル) |
1人あたりの名目GDP |
6,992ドル(日本の約6分の1) |
鉱工業生産指数伸び率 |
2.8% |
消費者物価上昇率 |
1.1% |
失業率 |
1.1% |
対日輸出額 |
251,108(百万ドル) |
対日輸入額 |
24,942(百万ドル) |
<政治体制>
政体 |
立憲君主制(日本と同じ) |
元首 |
マハー・ワチラロンコン・プラ・ワチラクラチャオユーフア国王 King Maha Vajiralongkorn Phra Vajiraklaochaoyuhua(2016年12月1日即位、1952年7月28日生まれ) |
議会制度 |
二院制 |
議会概要 |
上院250議席 下院500議席 |
内閣首相(兼国防相) |
プラユット・チャンオーチャー(Prayut Chan-o-cha) |
タイは日本と異なる点が多く、まずタイ国民のほとんどは熱心な仏教徒であり、タイの生活に仏教が根付いています。地震や台風による自然災害はほとんどありませんし、タイ国王は積極的に政治介入を行います。季節は3つあり、暑季・雨季・乾季に分けられており、乾季は平均気温が下がり過ごしやすくなります。
毎日朝8時と夕方6時には国歌が流れ、街の至るところにタイ国旗が飾られています。物価は基本的に日本よりも安いですが、モノによっては日本より高いものもあります。スクーター利用者が非常に多く、交通事故は世界的に多い国です。
タイ進出のメリット
タイという国の紹介はほどほどにして、ビジネス上でタイへ進出するメリットの解説に移行します。
アジア・世界を繋ぐ「ハブ」としての機能を持つ
2014年、タイ・ベトナム・カンボジア・インドシナ半島の南部地域を東西につなぐ陸路、「南部経済回廊」が整備されたことにより、タイを中心に東南アジアの物流環境が改善されています。タイはマレーシア・カンボジア・ラオス・ミャンマーなど東南アジア諸国の中心に位置していることから、アジアを繋ぐハブとして機能している国です。
また、バンコク空港から中東や欧州、アフリカなどへの便も多数出航しているため、7~10%で成長を続ける周辺国の経済成長を後押しする、アジアマーケケットのハブ機能としての役割もあります。そのため、アジアや世界への輸出拠点としてタイに進出する日本企業が多いのです。
日本マーケットの拡大が続いている
タイでは日本製品・日本食への需要が拡大しています。前述のようにタイに進出している日本企業は5,444社と拡大しており、2015年時点の在留邦人数は67,424人とされています。旅行地として日本人に人気なことから、現地では日本製品・サービスの市場拡大が続いています。
さらに、タイでは健康ブームが高まっており、世界的な健康食と言われる日本食への人気も集まっています。それをきっかけに日本という国自体への関心も高まっているので、タイにおける日本マーケットは年々拡大しており、そこにビジネスチャンスがあると考える日本企業も少なくありません。
安価な事業コストにより海外進出リスクが低い
日本の中小企業等における最大のメリットは、低コストでの海外進出が可能なことです。タイの人件費は日本に賃金水準の4分の1程度であり、かつ大学進学率が40%を超えているので勤勉な労働者を安価に雇用できるため、事業コストを抑えた進出ができます。
オフィスレンタル料も日本の4分の1程度なので、他のアジア諸国と比べても安価な国に入ります。このため海外進出リスクが低く、日本は欧米諸国では成功しづらい事業でも、大きな利益が達成できるかもしれません。
タイ進出のデメリット
日本企業の中でタイ進出への機運が高まっていることは確かですが、タイ進出はメリットばかりではなく、デメリットもあります。
少子高齢化が進む
実は、タイは日本と同じ少子高齢化社会です。出生率は日本よりも低く、2022年には65歳以上の人口が全体の14%を超えると言われています。そのため、将来的に労働力不足や消費マーケットの縮小に至る可能性が高い国です。
不安定な政治情勢
タイは政治が経済に与える影響が非常に大きく、軍事政権から立憲君主制に移行した背景もあり軍事クーデターが度々起こっています。2016年10月に逝去したプミポン・アドゥンヤデート国王は、自身が政治混乱に直接介入することで事態の収拾を図るなどして国民から絶大な信頼を得ていたため、国王が逝去したことで労働意欲や購買意欲にまで影響を与えて日系企業の売上が下がったという情報もあるほどです。
所得の地域差拡大
タイの著しい成長は主に首都バンコクとその近郊を中心としたものなので、地域的な所得格差は拡大しています。そのため、地方都市ではいまだ貧しさが残り、タイ全土をマーケットとして事業展開はおすすめできません。また、中間層以下の国民には日本製品は手が届かないという現状もあるため、タイ進出の際は事業戦略を慎重に行う必要があります。
タイ進出の際は慎重に検討しましょう!
いかがでしょうか?メリットの多いタイ進出ですが、デメリットも存在します。タイ進出を検討する際は、進出の可否を慎重に検討した上で、事業戦略をしっかりと練って進出するよう心がけてください。