ポカミスとは、ヒューマンエラーによって思いがけないミスを犯す現象で、ときには製品不良につながりクレームの発生原因にもなってしまいます。製造業は機械操作や目視検査など人や機械が介在する作業が多く、ミスを防ぐ取り組みが欠かせません。本記事では、ポカミスがなぜ発生するのかという原因を知り、対策を考えていきます。
製造業におけるポカミスとは
製造業におけるポカミスとは、人間の不注意やミスによって発生する、製品の不良や生産工程の遅延、安全上の問題を引き起こす可能性のある行為を指します。
単純な作業ミスから、複雑な工程での判断ミスまで、その種類は多岐にわたります。ポカミスは個人のスキルや経験だけでなく、作業環境や組織の体制など、さまざまな要因が複雑に絡み合って発生することが多く、製造業の品質管理や生産性向上において、重要な課題です。
製造業でのポカミスの具体例
製造業でのポカミスには、次のような例が挙げられます。
- 作業手順を誤って、部品の組み立てを間違える
- 検査作業での見落としや不備
- 使用する工具や材料を間違える
- 必要な部品や材料の取り忘れ、または余計なものを取り付ける
- 指示通りの分量を計量せず、過不足が生じる
これらは、作業のルーチン化や注意力散漫によって発生しやすいミスです。また、作業現場でのコミュニケーション不足や、手順の複雑さによっても起こることがあります。ポカミスが積み重なると、製品の品質低下や納期遅延などの問題を引き起こすため、対策が欠かせません。
製造業でポカミスが起こることによるリスク
製造業のポカミスは、次のようなリスクが生じます。
- 不良品の発生による品質低下
- 再作業や修正に伴うコスト増加
- 生産スケジュールの遅延による納期遅延
- クレームや顧客からの信頼失墜
- 現場での安全性低下や事故発生のリスク
- 従業員の士気低下やストレスの増加
ポカミスは、1度の小さなミスであっても、最終的に生産コストの増加や顧客への信頼を損ねる原因となりかねません。また、ミスが重大な機械トラブルや安全性に関わる事故に発展する場合もあるでしょう。したがって、ポカミスが持つリスクは軽視できないものであり、早期の対策が重要です。
ポカミスが発生する原因
ポカミスの発生にはさまざまな要因があり、単にうっかりミスの場合もありますが、製造業においては操作機械や作業手順がミスを誘発しやすい構造になっているケースもあるのです。ここではポカミスの原因について、人に起因するものと作業環境・設備に起因するものに分けて解説します。
人によるミス(ヒューマンエラー)
ポカミスで多いパターンは、不注意や勘違いなど人的要因から生じるミス、つまりヒューマンエラーです。このミスは、不注意、失念、見落とし、誤解などさまざまなケースがあります。「機械のボタンを見間違えた」「手順を飛ばしてしまった」「指示を受けたのに忘れていた」といった例がこれにあたります。
製造業でヒューマンエラーがきっかけで生じるトラブルはさまざまです。例えば、本来除去すべき素材・材料が入り込んでしまう異品混入、部品を本来とは異なるように組み付けてしまう誤組、部品を加工すべきところが漏れてしまった未加工、納入数量が不足してしまう欠品などが挙げられます。
この背景には、作業員のスキルやメンタル面が深く関わっている場合があります。製造現場では作業マニュアルや安全確認の手順など、一定の作業ルールに従って作業を行わなければなりません。しかし、作業員が慣れていなければ注意深く確認する余裕がなく、手順を飛ばす可能性もあるのです。また、現場によってはマニュアルに記載されていない作業手順もあるので、そういった作業は初心者が飛ばしてしまう可能性もあります。
メンタル面としては、個人の意識や心理状態などが重要な要素です。個々人によって作業に取り組む姿勢は異なり、注意深さにはばらつきがあります。また、疲労や緊張といった心身の状態によって作業の質が左右される可能性も排除できません。
作業環境や設備によるミス
ポカミスのもう1つの原因として、作業環境や設備不良によってミスが誘発されるパターンがあります。例えば、作業場に工具や部品などが散乱していたり、部品がラベリングされていなかったりする状況では、スムーズに作業ができず、作業者の混乱につながってしまうでしょう。特に、多種多様な器具、機械設備や部品を扱う必要のある製造現場においては、なるべく作業環境をシンプルにすることがミスを削減するポイントになります。一方、作業手順が複雑であったり、品質基準が不明確であったりすれば、ミスを招く原因になってしまうのです。
製造業においてミスを誘発しがちな作業環境としては、配置、表示、レベルなどが挙げられます。例えば、手順ごとに使用する工具が異なるなら工具は手順に沿って配置するのが適切ですが、複数の工具がミックスされている状態だと混乱してしまいます。似通った部品を扱う場合、部品がラベリングされておらず、その都度作業員に部品を判別させるような環境であれば取り間違いの原因になります。作業によって難易度が異なるのであれば、その作業を担当する作業員が、そもそも必要な技能レベルに達しているのか判断しなければなりません。
また、機械設備もミスを誘発する可能性があります。例えば、スイッチの「作動」「停止」という正反対の役割を持った2つのスイッチが全く同じような色、形状をしていれば、作業員が誤操作する可能性があるでしょう。あるいは、型が古く操作方法が複雑なタイプの機器は、操作に慣れるのも大変で、ミスの原因になる可能性があります。
ルールやマニュアルの不整備によるミス
ルールやマニュアルの不整備も、ポカミスが発生する原因の1つです。
業務において、誰がどのように仕事を進めるべきかを示す基準や手順が曖昧であると、作業員ごとの判断や解釈に差が生じます。その結果、誤った手順で作業を進めてしまい、ミスの発生につながります。
また、現場で使用しているマニュアルが古いまま放置されていたり、更新が適切になされていなかったりする場合も問題です。業務環境や手順が変わっているにもかかわらず、それに対応するルールが整備されていなければ、作業員は新しい状況に適応できません。特に、業務が複雑であればあるほど、判断ミスが頻発する可能性が高まるでしょう。
このように、ルールやマニュアルがきちんと整備されていない状況が続けば、ミスは繰り返され、結果として重大なトラブルにつながりかねません。
また「検査のチェック項目が多すぎる」「合格基準が不明確で、作業員の裁量に依存してしまう」など、ルール自体がポカミスを引き起こす要因となっている場合もあります。
ヒューマンエラーも防ぐポカミスの対策
製造現場においてポカミスを防止するためには、原因究明の徹底と対策の策定、そして現場への周知徹底が大切です。ここではポカミス対策のための3つの手順を紹介します。
まずは原因を解明する
まずはポカミスの原因を徹底的に解明しましょう。原因を明確化すると、適切な対策づくりに役立ち、同様のミスの再発防止になります。
ミスの原因を分析する際は、作業者のうっかりミスや操作間違いなどのヒューマンエラーばかりが注目される傾向にあります。ヒューマンエラーによるミスは、見つけやすく追求しやすいため対策も立てやすいです。そのため、ミスが発生した際は、ヒューマンエラーであると簡単に片付けられてしまうケースもあります。
しかし、正常に作業を行うためには適切な作業環境も必要です。先述のように、ポカミスが多発する背景には、作業環境や設備に問題を抱えていることもあります。作業手順の潜在的な不備や複雑な機械設計といった作業環境の部分は、普段それが当たり前と思って作業をしているため、改善点に気付くのが難しく、変えるのも簡単ではありません。そこで、作業者のうっかりミスや怠慢が明らかであるケースは除くとしても、環境面でミスを誘発しやすい要因がないのか、発生原因について必ず考えることが大切です。
作業状況を明確化する
作業の手順や方法を明確化することも大切です。
製造過程は、作業マニュアルや安全確認手順、品質検査基準など、さまざまなルールが定められています。しかし、作業をする中でいつの間にかやりやすい方法へと流れていき、マニュアルと実際の作業方法が乖離してしまうケースもあるでしょう。また、複雑で高度な作業の場合、マニュアルだけでは伝えきれない部分もあり、職人の感覚や経験といった暗黙知の部分が残るケースもあるものです。
また、新たに製造プロセスを作成する場合は、なるべく作業方法を分かりやすく具体的に記すことが重要です。作業マニュアルが存在しており、作業員もそれに忠実に作業しているのにも関わらずポカミスが根絶できない場合、マニュアルが分かりづらかったり、誤解を招く表現であったりするケースがあります。これでは作業員が理解するのが難しいだけでなく、ポカミスの要因にもなってしまうため、ただちに改善すべきです。製造過程を作業員が理解しやすいよう明確化すれば、ポカミスの原因を減らすことができます。
マニュアルを整備する
作業手順が複雑になればなるほどポカミスが発生しやすくなるため、業務フローを分かりやすくまとめた作業マニュアルの整備が重要です。
テキストや画像だけのマニュアルではなく、動画をうまく活用しましょう。テキストや画像のみのマニュアルでは情報伝達の限界があり、特に複雑な作業には対応しきれないことがあります。その点、動画であれば、作業の具体的な流れや注意点を視覚的に示すことができ、短時間で多くの情報を的確に伝えることが可能です。
例えば「部品が正しい位置に配置されたらボタンを押してください」とテキストだけで説明されても、製造現場の経験がない作業員にとっては「正しい位置」がどの状態を指すのか具体的にイメージできません。動画であれば部品がどのように配置されているべきか、その正しい状態が明確に把握できます。視覚的に確認できるため、言葉だけでは伝わりにくい細かなポイントも、動画を通じて瞬時に理解してもらえるでしょう。
周知・徹底する
ポカミスを防止するには、周知や作業方法の徹底が欠かせません。
作業方法は、日々アップデートされていきます。作業者が業務の中でよりスムーズかつ効率的な方法を発見した場合や、ミスの再発防止策として作業手順を改善する場合など、作業方法が変わるケースはさまざまです。新しい設備の導入によって作業が大幅に変更される場合だけでなく、こういったマイナーチェンジであっても、変更点があった場合は現場の作業員全体に対して積極的に周知をしていく必要があります。
また、作業方法の徹底も重要です。ポカミスの防止を目指して作業手順を定めたとしても、それを作業員が実行しなければ意味がありません。作業員は、日々の現場作業で忙しく、新しい方法を行うよりも慣れている方法を優先してしまうものです。管理者や上司が現場の作業をチェックするなど、作業内容の管理を徹底しましょう。
設備に投資する
製造業でポカミスを防ぐには、設備に適切な投資を行うことが重要です。特に、作業場や設備の不備が原因でミスが発生している場合には、老朽設備の改善や補強、設備の新設を検討しなくてはなりません。
機械の老朽化が進んでいると、不具合が頻発し、作業の効率が低下するだけでなく、ミスや事故のリスクも高まります。また、部品や部材が多いにもかかわらず、整理整頓が不十分では、ピッキングミスや誤出荷が起こりやすくなるでしょう。
設備投資には多額の予算が必要となりますが、作業環境を整えることは安全性の向上と、効率的な生産体制の確立に直結します。安全面を最優先に考慮し、必要な設備改善を行うことで、ポカミスを減らし、より安定した生産を実現しましょう。
システムを導入して作業を自動化する
製造業におけるポカミス対策として、システムを導入して作業を自動化する方法も効果的です。人間の作業にはどうしてもミスがつきものですが、システムによる自動化を進めることで、そのリスクを大幅に削減できます。
例えば、検査工程に自動検査装置を導入すれば、目視での見落としや確認ミスを防ぎ、品質管理の向上が図れます。また、データ入力や記録作業を自動化すれば、入力ミスや漏れも減少するでしょう。人手での作業に頼らないことで、作業の標準化が進み、誰が操作しても同じ品質の結果が得られるというメリットもあります。
ただし、全ての工程を自動化するのは現実的ではありません。人にしかできない作業もあるため、具体的にどのような工程を自動化できるか、導入による効果はどの程度見込めるかなど、個々の企業の状況に合わせて検討することが必要です。
作業者のスキル向上施策に取り組む
作業者のスキル不足によってポカミスが頻発している場合は、スキル向上に向けた教育体制を整えることも重要です。
例えば、安全対策研修や実践的な業務トレーニングを導入し、実際の作業で起こり得る問題やミスをシミュレーションすることで、作業者の対応力を高められます。
特に、現場経験の浅い作業員が作業に当たる場合、ルールの理解不足や機械操作の訓練不足などが要因でポカミスとなるケースも少なくありません。そのため、研修やトレーニングの際は、「なぜそのルールになっているのか」という背景や、「そのルールを守ることでどのように効率化が図れるか」といったメリットを丁寧に説明する必要があるでしょう。
また、経験豊富な先輩社員からの指導や、チーム内での知識共有も重要な施策です。現場でのスキル向上は、個々のミスの減少だけでなく、全体的な生産効率や品質の向上にも寄与します。
リスク管理を徹底する
製造現場には、さまざまなリスクが潜んでいます。このリスクを放置すれば、思わぬ事故や品質不良につながる可能性があるため、リスク管理の徹底が欠かせません。
リスク管理にあたっては、まずリスクアセスメントを実施しましょう。各工程のリスクを洗い出し、その発生確率と影響度を評価することで、優先的に対策すべきリスクが明確になります。そして、標準作業手順書を整備し、作業員に周知することも重要です。作業員が正しく手順を理解し、実行することで、ヒューマンエラーの防止につながります。
なお、リスク管理は1度実施すれば終わりというものではありません。常に変化する状況に対応するため、継続的な見直しと改善が必要です。
定期的なチェックを怠らない
マニュアルの整備や設備投資、システムの導入などの対策を実施したからといって、それで終わりではありません。大切なのは「これらの対策でポカミスが本当に減ったのか」を定期的に検証することです。
もし改善が見られない場合は、新たな対策を検討する必要があるかもしれません。また、1度ポカミスが減少したとしても、新たな作業体制やシステムに慣れてくると別のミスが発生する可能性もあります。そのため、定期的なチェックを怠らず、問題が再発する前に対処できる状態にしておくことが重要です。
人間が関わる作業でミスを完全になくすことは簡単ではありませんが、改善を繰り返すことで、ミスの発生を限りなくゼロに近づける努力が必要です。
製造業のポカミスにはDXも有効な手段
製造業におけるポカミス対策には、デジタルトランスフォーメーション(DX)も有効な手段の1つです。DXとは、デジタル技術を活用して業務プロセスやビジネスモデルを変革し、企業の競争力を高める取り組みを指します。製造業においては、作業の効率化やミスの削減が期待できます。
例えば、製造ラインにIoTセンサーを導入することで、リアルタイムで機械の状態や異常を監視でき、問題が発生する前に対処することが可能です。また、クラウドベースの管理システムを活用すれば、データの一元管理が実現し、作業員が最新の情報を常に確認できるため、ミスや確認漏れを防げるでしょう。
DXの導入は、ミスの発生率を減らすだけでなく、業務全体の透明性を高め、作業効率も向上させます。ポカミスの削減には、こうしたデジタル技術の活用が今後ますます重要になってくるでしょう。
まとめ
本記事では、製造業におけるポカミスの具体例と、ポカミスが発生する原因・対策について詳しく解説しました。
ポカミスはヒューマンエラーや作業環境などさまざまな原因によって発生するものです。そのため、ポカミスを分析する際は、単に人的ミスとして終わらせず、作業状況や設備面も点検しながら、ミスを誘発しない仕組みづくりを行っていきましょう。
また、マニュアルの整備や設備投資、システムの導入など、ポカミス対策を実施した後も「それらの対策でどれだけ効果があったか」を定期的に検証し、再発防止に努めることが重要です。