日本では、諸外国に比べて後れをとっているDX(デジタルトランスフォーメーション)について、政府を挙げて推進が図られているところですが、建設業におけるDXの実態はどうなっているのでしょうか。
この記事では、DXによって建設業が抱える問題をどのように解決していけばよいのか、日本の建設業における現状の課題を挙げながら解説していきます。建設DXのメリットや実際にDXを進める上で活用する技術やツール、導入事例も紹介します。
さらに、なぜ諸外国に比べて日本のDX化が遅れているのか、この点についても併せて見てみましょう。
DXの定義
DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略称です。企業がビッグデータとAI、Iotといったデジタル技術を活用して、ビジネス改革、業務フローの改善、人々の生活をよりよくしていくための取り組みがDXです。
単にデジタルツールを導入しただけでは、DXとは言えません。デジタルツールを導入し、活用することで業務効率化やビジネスモデルそのものを変革する取り組みをDXと呼びます。
建設業のDXの現状
まずは、日本の建設業におけるDXの現状を見てみましょう。建設業に限らずさまざまな分野でDX化が進められていますが、その中でも建設業のDX化はどの程度進められているのか、その成果はどれほどなのかをご紹介します。
日本の建設業のDXは進んでいる?
各種調査が行われた結果、日本の建設業のDXは進んでいる方だということが分かりました。IT専門調査会社・IDC Japanの調査「国内CIO調査2020」によると、さまざまな業種の中でも建設業は、国内では2番目にDXが進んでいる業種ということです。
さらに、アメリカ・フランス・イギリス・ドイツ・韓国・中国などを含む12カ国における建設業の比較でも、日本の建設業のDX成熟度は1位という結果になりました。日本のDX化は遅れているといわれていますが、建設業においては非常にDX化が進められているという結果です。
また、詳細な数字では、約43%の国内企業がDXに取り組み、そのうち建設・土木を抜いて最もDXが進んでいるのが金融という結果になりました。製造業といった他の業種に比べ、建設業のDX化は想像以上に進んでいるといえます。
相対的順位が具体的な成果につながらず
日本の建設業のDX成熟度は国別ではトップである一方、順位は高くても成果は上がっていないことに注目しなくてはなりません。
先の12カ国調査では国別で1位でも、その中身となる5段階評価では下から2番目の「限定的導入」にとどまっています。この調査はDXのパフォーマンスレベルとして5段階評価がされており、日本の建設業は国別のトップでありながらも2段階目という結果でした。
また、経産省の調査によりますと、日本でDXに全面的に取り組んでいる企業は10%に満たないことも分かっています。つまりこれは、「世界的にDXが遅れている建設業の中」と、「世界的にDXが遅れている日本の中」での高順位に過ぎないといえます。
DX化が進められているとはいえ、残念ながらまだまだ高い水準とはいえないのが現状です。
建設業でのDXの浸透を阻む要因
それでは、建設業でのDXの浸透を阻む要因はいったい何なのでしょうか。ここからは、建設業が抱えるDXへの課題をピックアップし、それぞれ解説していきます。
DXを進める上で解決すべき課題とは、どのようなことがあるのでしょうか。
ビジネスモデルの不適合
まず、建設業におけるDXとの「ビジネスモデルの不適合」について解説します。
建設業は基本的に現場作業が行われること、そして一つの建造物を作り上げるのに鳶(とび)工やコンクリート業など多くの業者が関わること、それぞれの現場の構造や地形などが違うことなどがデジタル化を妨げると考えられます。
また、同じように一つの建造物を作り上げるために、企画から施工、管理運用などのバリューチェーンが縦割り化し、分断されていることがネックです。DXを用いるビジネスモデルの多くは、こうした複数の工程を一元化してデータ管理することで業務効率化を図るため、多くの違う人材が関わる建設業は残念ながらDXには不適合といえるでしょう。
新たなシステムとなるDXを建設業に広めていくためには、業界人へのDX周知だけでなく、そもそもDXを適合させる仕組み作りを行わねばなりません。
就業者の高齢化
建設業が抱える大きな課題の一つが、「就業者の高齢化」です。いわゆる職人と呼ばれる人材から、新たな世代へ技術やノウハウを引き継ぐ機会が減っています。これにより、DXに対応できるITスキルを持ち合わせた人材が少なくなっていることから、DX化が進みにくくなっていると考えられます。
建設業の就業者は高齢化が進んでおり、総務省の「労働力調査」によると、2019年の時点では65歳以上の従業員が16.4%なのに対し、34歳以下の働き手は18.6%とほぼ同じ割合です。
また、OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の高齢者は年齢を重ねるほどITスキルが低くなる傾向が示されていることからも、高齢化が進む建設業ではDXに対応しきれていない部分が課題となっています。
企業規模の小ささ
「企業規模の小ささ」もDXの浸透を阻む要因です。
建設業は中小企業、そしてさらに規模の小さな零細企業の比率が高いです。建設業の7割近くは、従業員規模が4人以下という結果になっており、さらに建設業の95.9%は小規模事業者ということが分かっています。
DXの導入にはITスキルを備えた担当者がいることはもちろんですが、導入に際してコストや手間を必要とします。このため、小さな企業が多い建設業では、DXの導入を実施するだけの金銭的・時間的余力がないことがDX化を阻む大きな要因になっていると考えられます。
従業員の少なさをはじめとするリソース不足により、DXを導入するといった社内体制を新しくすることに抵抗を感じることも考えられるでしょう。たとえDXを導入したとしても、人数が少なくても全員がすぐにシステムに対応できるとは限りません。
建設業がDXで解決すべき4つのポイント
建設業においてDX化が進みにくい理由をご紹介しましたが、ここからは建設業がDXを取り入れて解決すべき4つのポイントを解説します。DXで得られるメリット、これまで多くの建設業者が抱えていた大きな課題を解決できる可能性のあるポイントを見てみましょう。
1. 労働力不足
まず、建設業が慢性的に抱えている課題として「労働者不足」が挙げられます。深刻な人手不足が続く建設業ですが、その有効求人倍率は5倍を超えるといわれています。
その要因として挙げられるのが、「3K」です。
3Kとは、「きつい・汚い・危険」という言葉をとったもので、働き手から敬遠されている業種であるといわれています。若い世代の働き手が業界に入ってこない限り、建設業界の高齢化は進み、人手不足はいつまでたっても解消されないでしょう。
そこで活用したいのがDXです。DXにより、さまざまな業務内容を効率化して少しずつ人手を不要にしていく必要があります。
建設業の多くは上述の通り現場仕事が主ではありますが、DXの導入によって自動化したり、データを活用した業務の効率化を図ったりすると、労働環境を改善できるでしょう。これが、新たな働き手の参入につながる可能性があるため、建設業が長く抱えていた問題の解決に期待されています。
2. 技術の継承
次に、「技術の継承」について解説します。
建設業では、労働者の高齢化が進むことや、若い世代の働き手が参入しにくいことで求人難に陥り、建設や土木における技術が次の世代に継承できない課題を抱えています。昔ながらの木材のみを用いた建築様式をはじめ、長年伝わってきた技術が失われてしまう可能性があるのです。
そこで、DXによって求人難を解消することができれば、新たな働き手が参入しやすくなります。DX化が進んで多くの人材が建設業界にやってくれば、職人によって技術や業務が属人化しやすいという課題を解決し、次の世代へ広くノウハウを共有できるようになるでしょう。
このノウハウ共有にもDXが活用できるため、業務のマニュアル化など作業効率を高められるようになります。
3. サプライチェーンの合理化
続いて「サプライチェーンの合理化」について解説します。サプライチェーンとは、製品を作るにあたって必要となる部品や部材を調達するところから、実際に作って販売(消費)するまでの流れのことを指します。
建設業におけるサプライチェーンは、飲食店のように同じ原材料を使って同じように作るというものではなく、部品や建材の受注生産が主なため、どうしても待ち時間が発生してしまうことがネックです。だからといって先読みして部品を発注したり製造したりすると、デッドストックの恐れがあるため、安易に作業を進めることもできません。
そこで、建物の3Dモデルを用いて設計や管理を行う「BIM」を導入するといったDX化によって、建設に関わる業者間で情報の共有や規格の標準化を進めることができます。費用・工期ともに合理化できるため、大きなメリットといえるでしょう。
4. スマートシティ対応
最後に、「スマートシティ対応」について解説します。
少子高齢化が急速に進む日本では、ICTの技術を用いて住民や企業の暮らしを豊かにするスマートシティへの実現が急務になっています。大手自動車メーカーのトヨタがスマートシティ建設を進めていることが話題ですが、同じように国外でもすでに多くの場所でスマートシティ化が進められています。
そして、スマートシティの実現を担うのは、ほかでもない建設業です。すなわち、建設業がDXを実現することでスマートシティへの対応力がつくことに直結するといえるでしょう。
建設業界に新たな人材を呼び込み、これまで培われた技術を継承しながら、DXを使いこなせる人材の確保・育成から始めることが急務になっています。
建設業にDXがもたらすメリット
建設業界の解決するべき課題を踏まえて、ここからは建設業のDX化がもたらすメリットを3つ紹介します。
安全性の確保
建設業のDXによる1番のメリットは、安全性の確保につながることです。「きつい・汚い・危険」の3Kの1つにも挙げられていますが、建設業は、高所作業や危険な環境での作業が多いです。
厚生労働省の調査によると、建設業はほかの業種と比べても労働災害が多いという現状があります。特に、労働災害の約3件に1件が「転落・墜落」によるものというデータもあります。
DXの一環としてドローンを使った点検で、高所作業をできるだけ減らす取り組みも行われており、これらは安全性の確保につながっています。
業務の効率化と生産性の向上
建設業でDXを行うメリット2つ目は、作業効率と生産性の向上が期待できる点です。
建設業界では、従来は大量にある建築資材の数をカウントする際、人の目で一つひとつ数えていました。AI画像分析の導入で、このカウント作業の正確さと効率の向上ができます。
また、社内データをクラウド化することで、現場にいるときでも資料を確認したり、リモートで現場を監視したりといったことも可能です。建設業界でも、人手不足が深刻化しているため積極的にDXを進めていきましょう。
ノウハウのデジタル化
建設業界の解決すべき課題として、「技術の継承」を挙げましたが、DXによってこの課題も解決に導きます。
具体的には、熟練の技術を持ったベテランの技術をAIが分析し、画面上でその動きを再現させることが可能です。これにより、ベテラン人材が退職により不在となった後でも、長年培われてきた技術の継承ができるようになります。
AIを活用して技術継承を行えることもDXの大きなメリットです。
建設DX推進のための国の取り組み
近年、建設業界においてDXが急速に進展していますが、日本政府もこの重要な課題に対し、積極的な取り組みを行っています。建設DX推進のための国の取り組みを2つ紹介します。
公共工事におけるBIM/CIMの原則適用
まず1つ目は、公共工事において、3次元モデルを活用したBIMおよびCIMの原則適用です。国土交通省が、「2023年までに小規模を除く、全ての公共事業にBIM/CIMを原則適応する」と発表しています。
- 計画
- 調査
- 設計
この3つの段階から3次元モデルを活用することによる、生産性の向上がBIM/CIMの目的です。これにより、その後の工程である施工や維持管理でも3次元モデルを使った情報連携が可能になります。
BIM/CIMを活用すると、人的ミスや手戻り作業の減少、単純作業の負担軽減、現場の安全性向上といった効果が期待できます。i-Construction
2つ目の建設DXのための国の取り組みは、i-Construction(アイ・コンストラクション)です。これは、建設現場で「ICTの活用」のために国土交通省が行っているプロジェクトです。
以下の施策3点を柱として掲げています。
- ICTの全面的な活用
- 規格の標準化
- 施行時期の標準化
主な取り組みとしては、ドローンを用いた3次元測量、検査の実施や規格を標準化することによる業務の効率化、繁忙期と閑散期の差を埋めるための計画の標準化が挙げられます。
建設DXで使われる技術・ツール
デジタル技術を使って業務改善やビジネス改革を行うことがDXの定義であるため、ツールの活用は欠かせないものです。そこで、建設業界でのDXに欠かせない主な技術やツールを5つに分けて紹介します。DXを導入予定の企業はぜひ参考にしてください。
1.「SaaS」
SaaS(クラウドサービス)の特徴は、リアルタイムなやり取りができることと、インターネット環境があればどこでもツールを使えることです。
建設業界のDX化におすすめのSaaSサービスをいくつか紹介します。
- Salesforce
- Microsoft製品(Excel、Wordなど)
- kintone
これらのツールを利用することで、建設の進捗確認やスケジュール確認がスムーズになります。
また、作業手順や建築方法をデータ化しておくことで現場でも資料を確認できるため、作業効率向上も期待されます。
2.「AI」
主に建築デザイン、建築計画の策定についてDXを進めるときに、AIが活用されています。
AIが過去の建築事例をもとに分析し、顧客の求める条件と組み合わせて要件を満たすデザインの生成をしてくれます。また、大量の資材の個数チェックに課題を感じている企業も、AI活用を検討するとよいでしょう。
資材のカウントは人の目で行われ、自動化が難しいといわれてきました。しかし、AIによる画像処理を行うことで、自動化が可能になっています。
3.「ドローン」
建設業界のDXにおいて、ドローンは欠かせないツールです。
ドローンを活用することで、高所の点検作業を安全かつ費用効果の高い方法で実施できるため、建設業界におけるメンテナンスコスト削減や効率的な点検が可能となります。
橋や鉄塔、送電線などの多くのインフラは定期点検を必要とし、老朽化の前に修繕することで長寿命化が図られます。これらの作業には足場の組み立てが必要であり、予算不足や人手不足が課題でした。しかし、ドローンの活用により少ない人員で安全かつ経済的に点検が可能となり、建設業の働き方改革にも貢献しています。
4.「ICT」
建設DX推進のための国の取り組みとして、BIM/CIMの原則、i-Constructionを紹介しましたが、この取り組みに欠かせない技術が「ICT(情報通信技術)」です。
「BIM/CIM」や「i-Construction」などの取り組みにおいて、3次元データの活用が必要不可欠です。計画や設計だけでなく、3Dプリンターを使った建造物モデルの制作や、現実空間を仮想空間で再現する「デジタルツイン」など、3次元データは多岐にわたる用途で活用されます。
ICTの進化により、建設現場においてもより効率的で精度の高い作業が可能となり、建設業界のデジタル化と効率化に大きく寄与しています。
5.「RTK測位」
RTK(Real Time Kinematic)は「相対測位」とも呼ばれており、高精度の位置情報取得を可能にする測定方法です。
衛星を利用して自動航行や農業機械の自動運転をするなど、正確な位置情報が要求されるさまざまな分野で活用されています。
建設現場においても、RTKを導入することでドローンの飛行がより正確で安定し、リスクを低減できます。
建設DXの成功事例 3選
建設DXで使われる技術やツールの紹介をしてきましたが、実際にどのように使われているか気になるところではないでしょうか。最後に、実際のDX成功事例を3つ紹介します。
大成建設株式会社:遠隔巡視システムを開発
大成建設は、安価でコンパクトな4足歩行ロボット「T-iRemote Inspection」を開発し、遠隔地での現場監視に役立てています。
遠隔地での操作、映像撮影、相互通信など複数の機能が備わっており、監視業務の効率化を図っています。また、現場作業者の安全確認にも利用可能です。
ICTの技術や独自開発した広範囲のWi-Fi環境「T-BasisX」と連携し、地下や高層階でもロボットを動かすことができます。
参考:大成建設株式会社
東急建設株式会社:施工状況の共有をDX化して業務の効率化
東急建設株式会社は、都市全体のBIM/CIM化を掲げ、施工状況共有のDX化を目指して「THETA 360.biz」を開発しました。THETA 360.bizは、360度カメラを使ったバーチャルツアー作成サービスで、360度カメラで撮影した画像を3次元的に再現する「3Dモデリング」も可能です。360度カメラで撮影した画像をアップロードするだけで、簡単にバーチャルツアーを作成できます。また、作成したバーチャルツアーはWeb上で確認し、リモート環境でも共有可能です。
このバーチャルツアーや3Dモデリングを活用して、現場確認作業の効率化を実現しています。
参考:東急建設株式会社
清水建設株式会社:DX銘柄に3年連続で選定
清水建設株式会社は、2021年から3年連続でDX銘柄に選ばれました。また、経済産業省の定める「DX認定取得事業者」にも選ばれ、建設業界で注目を集めています。
清水建設株式会社が提供している具体的な建設DXのサービスは、「Shimz DDE」と「Shimz One BIM」です。
「Shimz DDE」は、屋外気流や大空間の空調シミュレーターなどを使いながら、デザイン設計の企画を行う際に利用します。そして「Shimz One BIM」は、設計、施工、製作、運用を自動化・連携させ、業務の効率化を図るためのプラットフォームです。
これらのサービスによって、AI技術を活用したシミュレーターを利用したり、ロボットや3Dプリンターなどを活用したDX化が進められています。
参考:清水建設株式会社
まとめ
建設業が抱える課題解決、そして継続と発展のためには、DXの実現が鍵となるといえるでしょう。DXが今以上に進められれば、慢性的な人手不足の解消や、技術の安定した継承、業務の効率化などさまざまなメリットが得られると考えられます。
自社で開発が難しい場合は、事例で紹介したツールやサービスを利用することも有効です。
あらゆる物事のデジタル化が進められている今、DX導入を検討してみてはいかがでしょうか。