医療・製薬

電子健康記録(EHR)、電子医療記録(EMR)、個人健康記録(PHR)の概要や違いについて

医療分野におけるICTの活用が進む中で、個人の医療データをまとめた「EHR(電子健康記録)」が注目されています。未来の医療を支える重要なシステムとしてEHRは世界中で導入されており、日本でも活用が期待されています。今回はEHRに焦点を当て、類似の概念である「EMR」や「PHR」との違いも含めて解説します。

電子健康記録(EHR)、電子医療記録(EMR)、個人健康記録(PHR)の概要や違いについて

先端技術とAI倫理がもたらす「より良い医療のかたち」

電子健康記録(EHR)とは

EHR(Electronic Health Record、電子健康記録)は個人のあらゆる診療情報を生涯にわたって電子媒体に記録し、その情報を各医療機関の間で共有・活用する仕組みのことを指します。

EHRにはあらゆる医療情報が含まれています。既往歴や薬歴、アレルギー、予防接種日はもちろん、検査の画像レポートなども蓄積することができます。いわば「個人の診療情報のデジタル記録」でありは、日本でも既に数種類のEHRシステムが提供されています。

EHRを導入するメリットには次のようなものがあります。

患者の診療情報を把握しやすい

まず、医師がより的確に診断や診療を行えるというメリットがあります。EHRには患者が過去に受けたすべての診療情報が蓄積されており、内容を参照することで問診にかかる時間を減らすことができます。初診の患者であっても、生年月日や年齢、既往歴などといった不変のデータについて改めて確認する労力を大幅に削減することができるので、医療現場の効率アップも期待できます。また、患者の病歴などを確認することがしばしば困難な救急医療の現場でも、EHRは強力なサポートツールとなる可能性を秘めています。

病院間で診療情報を連携できる

異なる病院間で情報を連携できるというメリットもあります。EHRにはその患者が他の医療機関で受けた検査のデータなども記録されているため、印刷など紙媒体に出力することなくデータを共有することができます。データの共有がスムーズに行われれば、連携先医療機関との情報交換、意見交換にも役立ち、病院間の役割分担をすすめ、地域医療を活性化することにも繋がるでしょう。遠隔地の医療機関との連携も比較的スムーズになることが予想され、医療ネットワークを拡充することができます。

医療の発展に役立つ膨大なデータを収集・保管できる

EHRの普及が進めば進むほどEHRに蓄積されるデータが増えて、いわゆる「ビッグデータ」として機能するようになります。こうして収集されたデータは、匿名性を担保した上で医学の研究に利活用されることが期待されています。

例えば特定の地域の疫学的なデータを解析することにより、その地域に住む人が罹患しやすい病気の傾向や特徴が判明し、対策につながるケースもあるでしょう。健康な社会を実現する上でも、EHRの普及は欠かせない要素であると考えられます。

このEHRの普及を国家政策として推進する国も2000年代以降は目立つようになっています。医療が公費負担の英国では2017年時点でEHRの普及率がすでに97%で、2020年の100%達成を目指しています。また、民間が主体の米国では医療機関に対し導入のインセンティブを実施することでEHRが急速に普及しています。

一方、日本におけるEHR政策は諸外国に比べてやや後れを取っているのが実情です。2011年3月に発生した東日本大震災では、多くの医療機関も被災し、地震や津波によって大量の紙カルテが消失しました。このため、被災された方々で慢性疾患の治療中の方は、自身の正確な病名や服用中の薬の銘柄や量がわからないまま治療を受けざるをえませんでした。このとき、治療に関するデータが紙の形ではなくクラウド上に保管されていれば、このような事態は免れ得たかもしれません。日本は世界有数の災害大国であり、今後も大規模な災害に見舞われるリスクがあります。こうした状況を踏まえ、日本でも早急なEHRの導入・普及が求められています。

電子医療記録(EMR)との違いは?

EHRと似た用語にEMR(Electronic Medical Record、電子医療記録)があります。これはいわゆる、個別の医療機関が保存している「電子カルテ」を指しています。

従来のカルテは紙で保存されていましたが、EMRはデジタル化されてデータベースに保存されます。EMRは紙カルテと比較すると、医療機関内に保管スペースを確保する必要がなく、検索性や可読性、長期保存性に優れている点が特徴で、すでに各医療機関において各種のEMRシステムが導入され、医療従事者の業務改善に大きく貢献しています。

臨床の現場ではEMRとEHRを区別しないまま運用しているケースも少なくありません。しかし、EMRとEHRには明確な違いがあります。

外部と情報が共有できるかどうか

EHRの場合、もともとの設計思想としてすべての医療機関で情報を共有するという目的があり、その前提でシステムが構築されているので、病院間での連携や情報の共有を極めてスムーズに行うことができます。

一方、EMRは、特定の基本的には医療機関内部のみで運用する前提で設計されており、外部とデータを共有することは想定されていません。ですから、複数の病院間で連携したい場合でも、それぞれの医療機関が使用するデータのフォーマットが異なるため、情報共有が困難になるなどの不具合が起きる場合もあります。

患者が情報を閲覧できるかどうか

EHRの情報は医師だけでなく、患者にも開示され患者も閲覧できることが前提になっています。EMRは専門家である医療従事者が閲覧する前提で記録されており、患者にとって読みやすい形で閲覧できる状態にはなっていないことが通例です。

個人健康記録(PHR)との違いは?

PHR(Personal Health Record、個人健康記録)は、患者自身が自分の健康を管理することを目的とした健康記録のことを指しています。病気の症状や服薬履歴などのほか、普段の体重や血圧などの身体情報や生活習慣を患者の視点で記録していく点が特徴です。

PHRにはEHRと同一の情報も含まれていますが、EHRとの違いは患者みずからがデータを管理するという点にあります。スマートデバイスなどを通した行動解析の内容なども含めたPHRを医療機関が扱うEHRと連携し、双方が互いの情報を共有することで、地域医療の効率化や活性化、医療機関と連携した在宅医療などの推進につながることが期待されています。

EHRの普及・展開に向けて

このように、EHRには多くのメリットがありますが、いまひとつ普及が進んでいないのが現状です。その理由の一つには、導入や運用・維持に相応のコストがかかり、中小規模の診療所にとっては負担が大きいことが挙げられています。

また、EHRサービスを提供するベンダー間での仕様の違いが大きく、異なるEHRシステム間で連携しようとする場合には、データを連結させるためのコストが追加で必要となるのもネックになっています。

このような課題を解消するため、総務省は「クラウド型EHR」の整備を進めています。クラウド技術を活用してシステムやサーバーなどの保守・管理を外部に委託することで、低コストでEHRシステムを利用することが可能になるとして、中小規模の診療所や薬局、介護施設などまで含めたEHRネットワークの拡大を目指しているのです。

国を挙げてクラウド型EHRの整備に取り組むことで、日本においても今後はEHRが普及する可能性が高まっています。

まとめ

医療の効率化が求められる中、患者の健康情報を一括して管理するEHRの重要性もさらに高まっていくと考えられます。導入にはコスト面の課題もあるため、低価格化が目指せるクラウド型EHRシステムの普及が待たれています。よりよい医療の実現と効率的な医療経営を目指し、EHRの導入を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。

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