医療・製薬

メタバースが医療分野でも注目される理由は?導入事例や今後の課題

医療分野におけるメタバースの活用が広がっています。5Gや新たなテクノロジーの活用によって、メタバースの成長率は2030年までに30%以上という試算も出ています。
そこで本記事では、メタバースがなぜ医療分野で注目を集めているのか、また推進していくうえでの課題はなにか、現在までに行われている事例などを解説していきます。

先端技術とAI倫理がもたらす「より良い医療のかたち」

メ タバースは医療分野において2030年までに30%以上の成長が見込まれている

メタバースが医療分野でも注目される理由は?導入事例や今後の課題01

メタバースの活用は、医療分野において注目を集めています。なぜなら仮想空間を活用することで、現実世界では難しい医療行為が可能になる、アバターを活用しての健康診断が行えるなど、利用用途が多岐にわたると考えられているからです。

2021年、ヘルスケアにおけるメタバースの市場規模はそれほど大きくありませんでした。しかし医療分野では、多岐にわたってメタバースが活用できると考えられている背景から、2030年には大きく成長すると見込まれています。
実際にARスマートグラスを利用して手術を行った事例が出てくるなど、医療業界におけるメタバースの活用は拡がっています。

メタバース医療が注目されている理由

メタバースが医療分野でも注目される理由は?導入事例や今後の課題02

メタバース医療が注目されている3つの理由が挙げられます。1つずつ見ていきましょう。

導入により医療の質に関する地域格差が解消できる

昨今では日本をはじめとして、世界中で「医療格差」が起こっています。
たとえば医療機関が都市部のみに集中していて、地方では高度な医療を受けることが難しくなってしまうなどです。厚生労働省の「医師偏在対策について」によれば、医師の地域偏在は続いており、地域によっては医師不足になっているとしています。

メタバースはこうした問題の解消にも期待されています。なぜならVR空間によって、世界中の人とリアルタイムでつながれることに加え、遠隔地の患者に対する医療サービスの提供も容易になるからです。そのため、医療の質に関する地域格差の解消が期待できます。

5Gや通信技術の発達によりリアルタイムでの遠隔手術が可能になっている

デジタル医療の現場では、今後数十年のうちに紙の処方箋がなくなりメタバース空間でのデジタル治療に移行すると予想されています。
こうしたメタバース空間を活用したデジタル医療を滞りなく行うためには、高速化された通信や大容量通信を問題なく行える環境が必要です。

そこで期待されているのが5Gという通信技術です。「大容量の高速通信」「高信頼・低遅延」「多数同時接続」という特徴を持っています。
現在でも、手術支援ロボットのリアルタイムでの遠隔操作に利用されるなどの実績があります。
こうした高速化され、大容量通信が行える5Gはデジタル医療にも活用できるとされており、新たなデジタル医療の場として期待されています。

メタバース医療が患者にとっても相談しやすいシステムになっている

メタバース空間では、自分自身の分身である「アバター」を作成してコミュニケーションを取っていきます。
このアバターを使ったコミュニケーションは、患者にとっても相談しやすいシステムとして注目されています。

メタバース上での医療相談コミュニティ「メタバースクリニック」を運営する精神科医の吉岡鉱平さんは下記のように語っています。
「アバターという分身を活用するメタバース空間では、実際に顔を合わせてコミュニケーションをとる必要がないため、自己開示がしやすいと感じている」

現在は医療ではなく、相談の場としてメタバース空間を活用していますが、コミュニケーションの場とすることで、患者がより相談しやすくなるのではないでしょうか。

このようにメタバース医療は、患者に対しても、有益なものとなっています。

メタバースの活用を目指す3つの医療分野

メタバースが医療分野でも注目される理由は?導入事例や今後の課題03

メタバースの活用を目指す3つの医療分野として、具体的に以下の分野が挙げられます。

  • 医療(VRトレーニング)
  • 製薬(医療品情報の共有)
  • 創薬(時間とコストの削減)

医療(VRトレーニング)

医療においてはVRトレーニングのメタバース活用が進められています。
具体的には、外科医の執刀に関するトレーニングやソーシャルスキルに関するトレーニングです。
たとえばアメリカでは、実際の手術シナリオを用意して、メタバース空間にバーチャル手術室を作り、空間上で実際に処置を行っています。
このバーチャル手術室は、複雑な処置のトレーニングにも役立っています。また日本では、「ジョリーグッド社」がメタバース上で発達障害に関するソーシャルスキルトレーニングを実施しています。
患者に対して生活支援の推進や、就労支援を行える段階まで進んでいます。

製薬(医療品情報の共有)

製薬業界では、医療品情報の共有や医師と患者のコミュニケーションを支援する場として、メタバースの活用が進められています。
具体的にはバーチャルMRを活用した、医療品情報の効果的な情報共有です。

たとえば医薬品大手企業である株式会社ツムラでは、医療従事者に対して3DバージョンMRの中で、AIがストーリーに合った内容をプレゼンテーションしてくれます。
またアステラス製薬株式会社では、バーチャルMRを活用して患者の骨格情報などを3Dで現実世界に投影する試みを始めています。たとえば骨密度が減っていく様子を見た患者が、自身の健康状態を理解しやすくなる点などがメリットです。

創薬(時間とコストの削減)

創薬には時間とコストがかかってしまうのが常です。その中で創薬にかかる時間とコストの削減を目指してメタバースが活用されています。
中外製薬株式会社では、ソフトウェア「ナノム」を活用して、研究者がメタバース空間上での創薬を行っています。
これまで2次元でしか確認できなかったものを、原子レベルの細かい部分まで3Dモデルで確認できるため、新しいアイデアの創出やメタバース空間上で実際に効果があるか試してみるなど、これまでになかったスピード感を実現しています。

遠隔医療(メタバース医療を含む)の2つの種類は5Gによりどう変化するのか?

メタバースが医療分野でも注目される理由は?導入事例や今後の課題04

遠隔医療には2つの種類があります。1つめは、離れた場所にいる医師と患者がツールを用いて、リアルタイムにコミュニケーションを取りながら行う医療のことです。
もう1つが、離れた場所にいる医師の医療を他の医師がオンラインでサポートするD to D(Doctor to Doctor)と医師が直接患者に対して医療を施すD to P(Doctor to Patient)です。
本章ではこれらの遠隔医療が、5Gによってどのように変化するのかを解説していきます。

D to D(Doctor to Doctor)

D to D(Doctor to Doctor)は、離れた場所にいる医師がオンライン技術を活用して、実際に医療を行っている医師のサポートを行うことです。
実際に医療を行っている医師に対しては、リアルタイムでのサポートが欠かせません。たとえば災害現場で医療を行っている医師に対してサポートする際は、一分一秒が患者の生死を分けてしまう場合もあります。
5Gの活用で高速通信が可能になるため、タイムラグのないサポートが行えるようになります。結果として、患者により迅速な医療を行えることにつながります。

D to Patient(Doctor to Doctor)

D to P(Doctor to Patient)は、離れた場所にいる医師が実際に患者に対して医療を行うことです。現在でもオンライン診療などが行われていますが、問診に留まっており、実際に医療を行っていることはほとんどありません。
なぜなら実際に医療を行う際には、患者のデータのやり取りが発生するからです。この患者のデータは大容量となるため、5Gの活用が欠かせません。5Gの活用でデータをリアルタイムでスムーズにやり取りし、実際の医療に役立てることが期待できます。

メタバース医療を推進するうえで解決すべき課題も2つある

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今後もメタバース医療が拡がっていくことは確実ですが、解決すべき課題もあります。2つの課題を具体的に見ていきましょう。

安全性に関する課題

まずは安全性に関する課題です。実際に医療行為を行う際には、何重にもわたるチェック体制がひかれており、それは患者の安心につながっています。
メタバース空間で医療を行う場合でも、現実と同じように安全性の担保が必要です。患者にとって安心できる環境を構築することは、メタバース医療の大きな課題といえるでしょう。

安全性の課題を解決するためには、医療従事者の連携はもちろんのこと、メタバース空間を提供している事業者との連携も必須です。
どんなに素晴らしいメタバース空間を作り上げたとしても、安全性に疑念が生じれば推進が難しくなってしまいます。

セキュリティ面に関する課題

メタバース空間はオンライン上に提供される仮想空間です。そのためサイバーセキュリティへの対応は必須です。
メタバースのセキュリティが脆弱であった場合、悪意を持ったハッカーなどに侵入される可能性があります。こうしたハッカーの侵入を許してしまえば、医療行為が止まってしまう恐れがあることに加え、患者の個人情報の流失なども考えられます。
こうしたセキュリティ面の課題を解決するためには、外部からの侵入を許さない強固な環境基盤はもちろんのこと、インシデントが起こった際の法整備なども求められます。

メタバースを医療に活用している5つの事例

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本章では実際にメタバースを医療に活用している事例を5つ紹介していきます。

順天堂バーチャルホスピタル(病院を模した仮想空間)

順天堂大学は日本アイ・ビー・エム株式会社と共同で、メタバース空間内「順天堂バーチャルホスピタル」の構築を行っています。
この順天堂バーチャルホスピタルは、医療従事者と患者の交流の場となっており、患者が来院前に医療行為の疑似体験を行えます。疑似体験を通して、患者の不安等を軽減させていくのが目的です。

VRワクチン注射シミュレーター(筋肉注射のVR)

VRワクチン注射シミュレーターとは、その名の通りVRで注射のシミュレーションを行えるものです。イマクリエイト株式会社から研修用としてサービスがリリースされており、筋肉注射のやり方をVR空間で感覚的に学ぶことが可能です。また新型コロナウイルスのワクチン接種の手順を学ぶ際にも、研修用としてシミュレーターがリリースされており、座学等で学ぶよりも高い学習効果が期待できます。

Mediverse OCD(セミナーなどの仮想空間)

MediVerse OCDとは、医療従事者同士、 または医療従事者と企業をメタバース空間上で結びつけるプラットフォームを構築し、新しいサービスの創出などを目的にしたものです。
症例の情報共有はもちろんのこと、医療従事者の研究に関する知見の収集、簡単な勉強会や研究会の開催など用途は利用者によってさまざまです。

Holoeyes(医療教育のVRソフトウェア)

Holoeyesとは、医療教育または臨床診療を学ぶためのVRソフトウェアです。
医療教育が目的のため、人体の3次元情報を正確にVRで再現でき視覚的に学ぶことが可能です。さらに、実際に手技のシミュレーションなどにも活用できます。また遠隔地にいる他の利用者と、アバターを介してリアルタイムでコミュニケーションできます

今後のメタバース医療を知るうえで役立つ5つの論文を紹介 

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本章では今後推進されるメタバース医療の知見を深めていくうえで役立つ論文を5つ紹介していきます。

循環器学に関する論文

循環器学でのメタバースの活用は、カーディオバース(CardioVerse)と呼ばれています。
循環器学では、このカーディオバースを活用することで、「遠隔地にいる場合でも3D空間において専門性のあるサービスを受けることが可能」「手術ロボットやナビゲーションシステムが統合されることにより医療の質が上がる」という効果が発表されています。

さらに本論文についての詳細は以下をご覧ください。
CardioVerse: The cardiovascular medicine in the era of Metaverse

眼科学に関する論文

眼科学では主にARやVRに関するものが多くなっています。
たとえば「ARやVRを活用して、患者が視覚異常に気づきやすいようにする」「医療関係者に向けて、検眼や手術のトレーニングを行いやすくする」などです。
ARやVRの活用により、遠隔地にいる患者が、検査のために病院まで行くかどうか判断するのに役立ちます。他にもトレーニングシミュレーターとして、EyeSiシミュレーター(VR Magic)、MicroVisTouch(Immersive Touch)等が紹介されています。

より詳細な情報を知りたい場合は、以下をご覧ください。
Metaverse and Virtual Health Care in Ophthalmology: Opportunities and Challenges

医療教育に関する論文

医療教育の分野では、メタバースを4つのタイプに分類して、タイプごとの活用方法について論述しています。医療教育における4つのタイプとは、「拡張現実」「ライフログ」「ミラーワールド」「バーチャルリアリティ」です。
それぞれのタイプについては、以下のように論文で触れられています。

  • 拡張現実では、人体内部を調べる拡張現実Tシャツを活用する
  • ライフログでは、蓄積された生体情報に関して医療分野で活用が行えるサービスの導入
  • ミラーワールドでは、ゲームを通して科学研究へ貢献するプラットフォームの開発
  • バーチャルリアリティでは、アバターサービスやプラットフォームの活用

こちらもより詳細に知りたい場合は、以下をご覧ください。
Educational applications of metaverse: possibilities and limitations

消化器学に関する論文

消化器学では、実際にメタバース空間で行った内視鏡トレーニングの臨床結果についての論文が発表されています。
具体的には、メタバース空間で内視鏡機器を用いての手術トレーニング、上級医によるメタバース空間での治療、メタバース空間で専門家による手術手順の議論をアバターを介して行うなどです。
メタバース空間にて、トレーニングやディスカッションが行われたことにより、医師の経験値の向上、手術時間の短縮、合併症発生率の低下などの成果につながっています。

より詳細な内容は以下をご覧ください。
Gastroenterology in the Metaverse: The dawn of a new era?

身体変容の研究事例の論文

身体変容とは、VR空間において自身の身体から別の身体に変容することで、感情や認識、行動が変わる現象のことです。この身体変容の研究が日本で進められています。
具体的には以下のような事例が報告されているとしています。

  • 白人が黒人のアバターを使うと差別意識が軽減される
  • 子供のアバターを使うと、物体の大きさを過大評価し、態度が幼くなる
  • スーパーヒーローになって人助けをすると、利他的な行動を取りやすくなる

つまりVR空間で別人格のアバターを活用すると、現実世界の自分の身体や考え方にも影響が出るとしています。

より詳細な論文は以下からご覧ください。
VRにおける身体変容と精神疾患治療の動向

まとめ

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医療におけるメタバースの活用は、市場規模も大きくなってきており、さらに発展していくことは間違いないと言っても過言ではありません。5Gの活用によって、メタバースが医療に与える影響は大きくなっていきます。遠隔医療や医師と患者のコミュニケーションがリアルタイムで行えるなど、活用の幅は医療のさまざまな分野で発展していくでしょう。
今後は課題を認識しつつ、メタバースの推進を行っていくことが求められています。

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