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地域DXの推進が注目されている理由とは? 定義から事例までわかりやすく解説

岸田内閣の「デジタル田園都市国家構想」に示されるように、昨今では地方創生事業においてもICT活用を重視する流れが加速しています。そこで本記事では、地域DXの定義、目的、事例、国が推進している取り組みなどについて解説します。本記事を参考に、どのような形で自社のサービスや商材が地域DXに貢献できるか検討してみましょう。

地域DXの推進が注目されている理由とは? 定義から事例までわかりやすく解説

いま注目の「地域DX」とは

そもそもDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、2004年にスウェーデンの大学教授エリック・ストルターマン氏によって初めて提唱された概念です。ストルターマン教授は論文において、DXを「デジタル・テクノロジーが人間生活のあらゆる側面に引き起こす変化」と定義しています。

その後、DXという言葉は、社会の中で広く使われるようになり、個別分野におけるデジタル改革を「自治体DX」「製造業DX」のように表されるようになりました。地域DXもそのひとつであり、内閣府は「地域経済のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」を、「リモート対応や分野関連系をはじめデジタル技術の力を徹底的に活用し、新たな地域経済づくりに取り組む」ことと定義しています。より簡単に言えば、地域DXとは「デジタル技術の活用を通して、地域の市民生活や経済活動を変革すること」と言えるでしょう。

地域DXの推進が注目されている理由

地域DXが注目されている背景にあるのは、現在深刻化している地域格差への問題意識の高まりです。

現代の日本においては、都心部や大都市圏への人口一極集中が長年続いた結果、地方の高齢化や過疎化が進み、産業の空洞化、医療格差、教育機会の不平等、交通・物流インフラの衰退などの問題が顕在化しています。他方で、都心部においても極端な人口集中により、住宅価格の高騰、通勤ラッシュ、交通渋滞などが発生し、ゆとりある生活が困難になっています。

このように種々の問題を引き起こしている地域格差問題を改善するために、岸田文雄首相は2021年の所信表明演説において、「デジタル田園都市国家構想」を打ち出しました。同構想は、「地方からデジタルの実装を進め、地方と都市の差を縮め、都市の活力と地方のゆとりの両方を享受できる」社会の実現を目指すものです。

デジタル田園都市国家構想を推進していくことで、地方の雇用や成長産業の創出、交通・物流の確保、教育・医療・福祉などの公共性の高い事業の充実、スーパーシティの実現などが期待できます。そして、「デジタルの実装」、つまり地域DXは、これらの地方創生事業を実行していく強力な手段として注目されているのです。

地域DXの推進を加速する「地方版IoT推進ラボ」とは

地域DXの推進を加速するために、経済産業省は独立行政法人情報処理推進機構(IPA)と連携して、「地方版IoT推進ラボ」を設立しました。地方版IoT推進ラボとは、IoT・AI・ビッグデータなどのICT活用やデジタル人材の育成などを通して、地域の課題解決や経済発展を目指す取り組みを支援する組織です。

地方版IoT推進ラボに認められたプロジェクト団体は、「地域ラボ」として情報支援をはじめとする各種サポートを受けることができます。2022年4月時点で、地域ラボは全国に106か所存在します。

地域DXの事例

地域DXはすでに多くの地域において実行されています。続いては、先述の地方版IoT推進ラボで紹介されている中から、地域DXの事例を取り上げて紹介します。

DXで漁業活動を活性化

初めに紹介するのは、東北大学をはじめ、仙台市・宮城県の自治体や漁業関係者、そして仙台市内を拠点とするIT関連企業から構成されたチームによる取り組みです。
もともと人口減少が問題視されていた東北地方ですが、2011年の東日本大震災以来、水産業を中心に人手不足はより深刻化しています。

そこで同地域では、東北大学の研究センターを中心に産官学連携で「ITペアリング復興」と銘打ったプロジェクトチームを結成し、被災地域の課題解決や地域経済の活性化、雇用創出などに取り組んでいます。たとえば同チームは、水産業の人手不足問題に対処するためにAIやロボットなどを活用して、水揚げした魚種の自動選別装置を開発しました。従来、手作業だった魚の選別作業を自動化することで、人手不足の穴埋めになるだけでなく、さらなる生産性の向上にも期待できます。

製造業におけるDXで生産効率が大幅アップ

次に、群馬産業技術センターや公設試験研究機関、大学や高専、産業支援機関などからなるチームによる地域ラボの取り組みを紹介します。

同ラボは、群馬県太田市の鈴木工業株式会社における自動車用プレス金型工程のデジタル化に成功しました。
同社では、作業工程ごとに別々の担当者が付いてプレス金型を製作していて、自分以外の担当箇所の進捗状況を確認するため、頻繁に電話連絡を行っていました。このような状況確認の手間が生産性を下げていたことを受け、同社は個々の部品にQRコードを発行し、どの部品がどの場所、どの作業工程まで進んでいるのか可視化できるシステムを開発しました。これによって現場作業員は煩雑な電話連絡から解放され、本来の作業に集中できるようになりました。

DXで水害対策強化を実現

続いて紹介するのは、福岡県の直方市役所を中心とした地域ラボのDX事例です。近年、九州は集中豪雨や台風などの被害が増加しており、洪水などの水害対策が喫緊の課題となっています。そこで同ラボはIT企業や製造企業、大学と協業して、洪水から住宅地を守る樋門の制御・監視を遠隔から行うシステムを研究開発しています。

従来、樋門の開閉操作は手動で行われており、大雨の中で作業することから、作業者の安全性が懸念されていました。また、樋門の操作タイミングは予測しにくく、待機する担当者が長時間にわたって拘束されることも課題でした。
同ラボは樋門に水位などを計測するセンサーや監視カメラを設置すると共に、通信で遠隔操作できるシステムを実装することで、効率的かつ安全に地域住民を水害から守る仕組みを実現しました。

地域DXを推進するときの注意点

最後に、地域DXを推進する際の注意点を解説します。

目的を明確にし関係者と共有する

まず大切になるのは、地域DXを実施する目的を明確化し、その問題意識を関係者間で共有することです。
システムの導入は手段であって、目的ではありません。また、地域に内在する課題やニーズは、地域ごとに異なるものです。したがって、地域DXを実施する際には、自地域の解決すべき課題とは何なのか、そしてその課題はどのような技術によって解消できるのか、事前に目的と戦略を明確にしてから計画を進めることが大切です。

DXに精通した人材を確保する

DXに精通した人材を確保することも重要です。地域が抱える問題解決にはどのような技術が効果的なのか検討し、導入するシステムやツールを効果的に使いこなすためには、ITやDXに通じた人材が欠かせません。
こうした専門的な人材が揃っていない場合、DXを効率的に実施するのは困難になるでしょう。したがって、地域DXを推進するには、DXに精通した人材を積極的に雇用したり、組織内で技術者を育成したりする必要があります。

まとめ

地域DXとは、デジタル技術の活用によって地域の抱える課題を解決し、市民生活や地域経済を改善するための取り組みです。地域格差が深刻化している現在、地域DXを原動力とした地方創生事業は日本の将来にとって非常に重要になっています。自社の事業が地域DXや地域の活性化にどのように寄与できるか、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

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