小売業

マイクロソフトが目指す次世代店舗、スマートストアとは?

AIによる機械学習や通信技術の発展など、ITの技術が進歩を続ける現在、これらを活用して社会が抱える問題点の解決を試みる流れが強まっています。その一つとして挙げられるのが「スマートストア」で、テクノロジーを駆使した店舗の存在は日本でも注目されつつあります。本記事ではマイクロソフトが提唱する次世代店舗モデル「Smart Store(スマートストア)」をご紹介します。

マイクロソフトが目指す次世代店舗、スマートストアとは?

小売業におけるAI活用の最新グローバルトレンドは?

次世代店舗『スマートストア』とは

スマートストアとは、セルフレジやRFIDと呼ばれる電子タグ、さらにはAIなどといったIT技術を活用して、業務効率化や顧客データの収集をはかる店舗のことです。 現在の小売業を取り巻く環境は急激に変化しています。 新興経済圏の成長やIT技術の進歩、人口の変動による人材不足、さらにはインターネットやスマートフォンの普及による消費者の行動心理の変化など、環境変化の要因はさまざまです。 このような流れを受けて消費者のニーズも多様化しており、顧客満足度の向上や革新的なサービスの提供のためにもデジタル技術の活用が早急に求められています。

たとえばアメリカでは、2018年1月に「レジがないスーパーマーケット」であるAmazon Goの1号店がオープンしました。 Amazon Goの特徴は、事前にAmazonアカウントと専用アプリをインストールしたスマートフォンを用意しておけば、他の手続きをほとんど要さない点です。 買いたいものをカバンなどに入れ、ゲートでQRコードを読み込ませるだけで買い物が完結する仕組みです。決済はAmazonアカウントで自動的に処理されます。

また、日本では、福岡に本社を置くトライアルカンパニーが「スーパーセンタートライアル・アイランドシティ店」を2018年にオープンさせました。 この店舗では、「スマートレジカート」というタブレット端末が搭載されたカートシステムを導入しています。

スマートレジカートは、タブレットで商品タグをスキャンして購入商品のデータを読み込ませて決済を完了させることができるシステムです。 決済方法には専用のプリペイドカードを利用し、あらかじめ一定の金額を用意する必要がありますが、現金をやり取りせずキャッシュレスで購買を完結させられるメリットもあります。

また、店舗内には700台近いカメラが設置されており、年齢や性別といった特徴から購買傾向や滞在時間まで、顧客の行動をすべて記録してデータ化できるようになっています。 こうしてレジカートやカメラから集めたデータは、購買層はもちろんのこと、非購買層の特徴や行動心理を分析するのにも大きく役立ちます。

Smart Storeが求められている背景

小売業界を取り巻く急激な環境変化に対応し、顧客のニーズに沿って新たなサービスを展開すべく、世界的にスマートストアの波が広がっています。 その背景にはさまざまな要因が存在しますが、日本においては特に労働人口減少による人手不足という事情から、解決策のひとつとしてスマートストアに注目が集まっています。

また、これまで入手しにくかった非購買層のデータを、顔認識機能が搭載されたカメラによって収集できるというのも大きなメリットです。 こうした新しい技術を活用したり顧客データを分析したりすることで、人手不足の解消だけでなく、新しいビジネスモデルや、ニーズに応じたサービスの提供も可能になっていくでしょう。

ただ、スマートストアの代表例としてよく挙げられるアマゾン・ゴーは、運営にあたって設置したカメラやセンサーに多額のコストがかかっており、日本の店舗がそのまま参考にするのはあまり現実的な案とは言えません。 また、ただでさえ人手不足の現状に加え、こうした技術に対応できる人材を確保できるのかという点も問題視されています。

マイクロソフトが目指す次世代店舗の姿

企業がスマートストア展開を目指すにあたって、導入コストは少なくありません。 また、人手不足に悩まされている小売業界の中小企業にとって、開発できる技術者の確保など、さまざまな課題が立ちはだかります。

こうした問題を解消すべく日本マイクロソフトが打ち出した支援策の一つが「Smart Store」です。 これは日本の流通業の特性に合わせた小売業向けのソリューションで、その一環として日本マイクロソフトがリファレンスアーキテクチャを無償で提供しています。

このリファレンスアーキテクチャには、スマホなどによるキャッシュレス決済や在庫の一括管理、商品マスタや商品トランザクションの管理といった、店舗経営における主要な業務シナリオやサンプルアプリケーション、サンプルコードが含まれます。

こうしたプラットフォームを無償提供することによって、店舗側は業界共通のシステム導入におけるコストを最小限に抑えつつ、事業間で競合となる製品やサービスといった部分に投資できるようになります。

マイクロソフトは、資金に余裕のない企業が多い流通・小売業界であっても、スマートストア化の普及を通じて全体のイノベーションにつながることを目指しているのです。

Smart Storeの機能

それでは、「Smart Store」の具体的な機能について見ていきましょう。

まず、消費者向けの機能としてキャッシュレス決済やスマホ決済、ショッピングアプリなどがあります。消費者は店舗から提供されるこうしたアプリをスマートフォンにインストールすれば、スマートストアでの様々なサービスを受けることができます。 店舗側は、無人レジや電子タグなどのシステムが利用できるだけでなく、発注や品出しや棚卸といった作業もウェブアプリや端末を通じて行えます。

マーケティング向けの機能としては、店舗の近くにきた利用者にスマートフォンのアプリから広告を行ったりクーポンを配布したり、といったような活用方法が可能です。 また、スマートストアを展開させるにあたっては、店舗側にとっては設置物のIoT化も欠かせません。

カメラや陳列棚、さらには照明や空調といった設備まで、ありとあらゆる設置物をインターネットと接続させる、すなわちIoT化させることでスマートストアとしての本領が発揮されます。 顔認識システムが搭載されたカメラは店舗に訪れた消費者の属性や行動パターンなどをデータとして集めることに貢献し、IoT化された陳列棚は商品管理の際に役立ちます。 カメラから得たデータをもとに現在訪れている客層の傾向を判別し、ニーズに合ったセールなどの館内放送を流すことも可能です。

また、カメラなどによって集めた消費者のデータは、今後の経営戦略を立てるうえで非常に役立ちます。 購買者のデータはこれまでもPOSレジを活用することで収集が可能でしたが、レジを通さない、つまり店舗を訪れたにもかかわらず商品を購入しなかった人たちのデータを集めるのは困難でした。 しかしIoT化されたカメラを設置することで、店舗を訪れたあらゆる客の年齢や性別、行動などあらゆるデータを集められるようになり、より踏み込んだ顧客の分析が可能となります。

このように利用者の分析を行うことで需要の予測が立てやすくなり、新たなサービスの開発にもつながります。

Smart Store Azureサービスで実現できること

Azure」とはマイクロソフトが提供するクラウドプラットフォームのことで、「Smart Store」はプラットフォームに「Azure」を採用しています。

商品管理や来客のデータのやりとりの迅速化、セキュリティ性や保守性の高さ、サーバー設置や管理におけるコストや手間の低減などといったメリットを踏まえると、クラウドの活用はもはや欠かせない時代となっているのです。

それでは、「Azure」による「Smart Store」で具体的にどのようなサービスが実現できるのかを見ていきましょう。

クラウドの活用で手軽にスマートストア化

「Smart Store」が提供するリファレンスアーキテクチャは、すべて「Azure」のクラウド上から利用することができます。 そのため、システムを利用する小売業者側は、わざわざ自社にサーバーを設置したり保守管理を行ったりする必要がなく、余計なコストを割かずにスマートストアの展開へと乗り出せるのです。

このように、マイクロソフトはコスト面の重さや開発面の難しさといった課題を抱えている店舗のスマート化への敷居を下げ、スマートストアという形態がより広く普及することを目的としています。

「Smart Box」で実現する無人店舗

マイクロソフトは、「Smart Store」とともに、「Azure」のクラウド機能を利用したスマートストア向けの決済機器「Smart Box」の導入をスタートしました。

「Smart Box」は小売業向けの機器で、ボックスの中に商品を入れるとボックス内に搭載されたカメラがその商品の情報を認識するといったシステムです。 このシステムを活用することで、たとえば無人店舗の実現が可能となります。 客はスマートフォンでアクセスしてボックスの扉を開き、中の商品を取り出して再びボックスを閉めます。

そして、ボックスに表示されたQRコードをスマートフォンで読み取って決済を完了させます。 このように、「Smart Box」を活用することで商品選択から購入までを無人で対応できるのです。 また、こうした購入データはすべて「Azure」のクラウド上に送られるので、商品マスタや在庫管理も一括して実施できます。

ローソンに設置された「Keycafe SmartBox」

実際に「Smart Box」を活用した例を見ていきましょう。ローソンは深夜帯に無人店舗の実験を行うなど、店舗のスマート化に積極的に取り組んでいる企業の一つです。 そうしたスマート化の一環として、ローソンは2018年1月に鍵受け渡しサービスを提供するキーカフェ・ジャパンと提携し「Keycafe SmartBox」を導入しました。

使い方はいたってシンプル。まず、鍵の持ち主がボックス内に鍵を入れてボックスのアクセス権を借り主に付与します。 借り主はボックスを訪れ、付与されたアクセスコードを読み込ませることでボックスを開き、鍵を受け取れば受け渡し完了です。 ボックスの開閉やアクセス権のやりとりなどはすべてスマートフォンを通じて行います。

2018年にGINZA SIX店に導入されたこのサービスは、今後さらに店舗数と地域を広げていく予定とのことです。

関連記事:小売業IT活用事例:ローソンが考える次世代店舗のキモとは?

まとめ

小売業界の人手不足が深刻化している中、こうしたスマートストアへの移行は国内でも徐々に注目されつつあります。 これまでは技術面やコスト面の厳しさが課題とされていましたが、マイクロソフトの提供する「Smart Store」を活用することで、中小企業のあいだでも、店舗のスマート化は広まっていくのではないでしょうか。
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