小売業

小売業の課題とは?現状や解決策、変革をもたらす次の一手を紹介

小売業の課題とは?現状や解決策、変革をもたらす次の一手を紹介

人手不足の常態化や価格競争の激化、ネット消費の拡大など、経営環境が大きく変化する中で、多くの小売業者がさまざまな課題に直面しています。

本記事では、小売業を取り巻く環境の変化を整理し、業態別に見た現状や代表的な課題を分かりやすく解説します。あわせて、近年注目されるAI活用やDXなど、変革をもたらす次の一手を紹介します。

小売業を取り巻く環境と課題

小売りの現場では、人材不足や消費者の購買行動の多様化などにより、従来どおりの販売手法だけでは安定的な事業運営が難しくなっています。

慢性的な人手不足とその対策のため生じている瀬戸際の人員配置

小売業界では、少子高齢化の影響により人材の確保が年々難しくなり、慢性的な人手不足が続いています。現場では長時間労働になりやすい運営体制が敷かれている場合も多く、職場環境が厳しいという印象を持たれやすいことが、人材の定着を妨げる一因となっています。

また、こうした人手不足は今後も進行することが見込まれており、小売業各社にとっては労働生産性の向上が避けて通れない課題となっています。

働き方改革の影響で人員配置が限界に近づく中、生産性を高める手段を見出せない店舗では、事業の継続自体が難しくなるケースも少なくありません。

時代と共に変化する消費者のニーズ

近年、消費者の価値観は大きく変化しており、価格競争の激化やニーズの多様化が、思うように売り上げを伸ばせない要因になっています。特に現代の消費行動は、モノを「所有」することから、必要なときに「利用」するという考え方へとシフトしています。

また、経済の停滞や将来への不安を背景に、高額な買い物を避ける傾向も強まっています。その結果、定額制で商品やサービスを利用できるサブスクリプション型のサービスが広がり、「モノを買う」という発想自体が薄れつつあります。

多くの小売業者は、こうした消費者の嗜好の変化に十分対応できておらず、効果的な施策を打ち出せていないのが現状です。変わり続けるニーズを捉えるには、データに基づく意思決定と、組織全体での意識改革の両立が欠かせません。

リアル店舗のショールーム化

インターネットでの購買行動が一般化したことで、世界的にEC市場が拡大し、日本の小売業界でもネットを活用した集客が進んでいます。

その一方で、消費の中心がオンラインに移行したことにより、実店舗は「商品の現物を確かめる場」として利用され、購入は別の販売チャネルで完結する傾向が強まっています。従来は来店から購入までが自然な流れでしたが、現在では店頭で商品を確認した後、価格を比較してより安価なサイトで購入する、といった行動も珍しくありません。

その結果、集客には成功しても売り上げにつながらず、価格競争の場として利用されることで、店舗側が不利な立場に置かれるケースも増えています。こうした状況を踏まえ、実店舗の役割を再定義し、オンラインと連携しながら収益に結びつける仕組みづくりが、今後の経営における大きな課題となっています。

なかなか進まないデータ活用

売り上げ拡大を阻む要因のひとつとして、データに基づく意思決定が十分に浸透していない点が挙げられます。特に顧客データの活用においては、技術面の問題よりも、人材不足や体制の未整備といった組織的な課題が大きく、AI活用の取り組みはおろか基本的なデータ運用すら定着していない企業も少なくありません。

その結果、部門ごとに情報が分断されたままとなり、全社でデータを共有・活用できないことが、業務効率の低下や戦略立案の足かせとなっています。こうした基盤が整わない状況では、AI活用の効果も単なる省力化にとどまり、需要予測や顧客理解の高度化といった、AI本来の価値を十分に引き出せないままとなってしまいます。

業態別 小売業界の現状と課題

経済産業省は例年、小売業の動向に関する統計データを発表しています。日本における小売業の課題を業態ごとに探るために、「2023年小売業販売を振り返る」という資料で数字を追っていきましょう。

参照元:経済産業省「2023年小売業販売を振り返る」

百貨店

2023年の百貨店全体の販売額は5兆9,557億円(前年比8.1%の増加)でした。そのうち、もっとも売り上げに貢献していたジャンルは「飲食料品」です。次に、「婦人服・子供服・洋品」が売り上げの多くを占めており、百貨店における主戦力だったことが分かります。一方で、「紳士服」は「婦人服・子供服・洋品」の3分の1程度の売り上げにしかなっていません。

百貨店業界の傾向として、ブランドイメージなどに後押しされ、百貨店全体の顧客数が急激に失われることは考えにくいでしょう。ただし、変化がないわけではなく、大手と中小企業の差が明確になっていくことが予想されます。

オンラインショップに対抗できるほどの知名度や宣伝力を持った大手が有利な立場にあるのは変わりません。さらに、外国人の顧客も増えている中、今は日本人にしか通用しないブランドであっても、これから国際的に高めていくことは大きな課題です。

スーパー

2023年、スーパーマーケット業界全体では15兆6,492億円(前年比3.3%の増加)の販売額が記録されました。依然として、日本人の消費生活の中心にはスーパーがあります。中でも、12兆円以上は飲食品の売り上げでした。

安くて新鮮な食材が簡単に手に入るスーパーは、食生活に欠かせない存在となっています。ただし、衣服や日用品などの売り上げは飛び抜けたものがありませんでした。 スーパーマーケットの顧客は、調理の手間を惜しまない高齢者が中心になっている可能性があります。「料理は家でするもの」という考えが浸透している高齢者は、肉や魚、野菜を買って持ち帰ることが当たり前になっています。一方、若者世代にはそもそも「自分で料理をしなくてはいけない」という発想が必ずしもありません。

そのため、若者世代を顧客にすることはスーパーにとって今後の課題です。 「ブランド化」の促進もスーパーに求められているテーマでしょう。単純な価格競争になってしまうことが多い業界なので、商品そのもののクオリティが語られる機会がそれほどありませんでした。しかし、顧客の世代交代を進めていくには、安さだけでない魅力をどこまで訴求できるかが鍵でしょう。

コンビニエンスストア

2023年、コンビニエンスストア業界は12兆7,321億円(前年比4.4%の増加)もの販売価格を記録しました。内訳としては、日配食品、加工食品、非食品のバランスがとれているのが特徴です。

幅広い顧客が通いやすい立地にあり、多種多様な需要に応えられるだけの品ぞろえがあるのは、コンビニエンスストアの強みといえるでしょう。各メーカーがオリジナルの商品、サービスを展開して特色を押し出しているのも、業界全体の活性化につながっています。

ただし、あまりにも店舗数が増えすぎて市場が頭打ちになっているのは課題です。新規店を増やして売り上げを伸ばすのがコンビニエンスストア戦略の基本だったものの、同じメーカーの店舗同士が顧客を奪い合うという事態を招いてしまいました。成長率という点で、コンビニエンスストア業界は停滞しています。

今後は、「気軽さ」を押し出すだけでなく、より深いニーズに応えられる店舗となっていけるかが重要でしょう。

家電大型店

2023年度、家電大型店は4兆6,324億円(前年比1.1%の減少)でした。

特に、生活家電は40%以上の販売額を記録しました。次いで、情報家電が売り上げの多くの割合を占めています。このデータは、パソコンやスマートフォンが当たり前になった世の中を象徴するものです。それぞれ単価が高い商品であることも、売り上げの伸びに反映されています。

ただし、家電業界全体としては、市場が縮小傾向にあります。大きな要因として、パソコンやスマートフォン・タブレットなどの浸透により、テレビやラジオといった製品を買う必要がなくなったことが挙げられるでしょう。

パソコンかスマートフォン・タブレットが家庭にあれば、多くの家電の機能を代用できてしまうので、他の製品を買う必要性が薄れたのです。例として、スマートフォンがあれば、ニュースやドラマなどテレビ番組の視聴が可能です。アプリのみで配信される番組も続々と登場しており、テレビの需要が減ってきたと考えられます。

そして、大手家電量販店が市場を独占し、中小企業は苦戦を強いられています。規模の小さい店舗ほど、オンラインを意識して宣伝戦略を立てられるかどうかが課題となっていくでしょう。

ドラッグストア

日本ではドラッグストア業界も大きな市場を持っています。外国人観光客の「爆買い」と呼ばれる消費行動では、しばしばドラッグストアの商品が人気を集めてきました。一時期はコロナの影響で外国人観光客は激減しましたが、外国人観光客の客足が戻ったこともあり、2023年度には、前年比8.2%プラスの8兆3,438億円の販売額を記録しています。

そのうち、特に食品や家庭用品、ビューティー用品などは大きな売り上げとなってきました。ドラッグストアで取り扱われている商品が、さまざまなバリエーションを見せるようになったことを象徴しています。

ドラッグストア業界の成長には、インバウンドマーケティングが貢献しています。国内のみならず国外の消費者にも目を向けたことが功を奏して、安定した市場を手にすることができました。しかしながら、同業界では低価格競争がし烈を極めてきています。決して利益率は高くないだけに、今後はどのようにして売り上げと利益を両立させていくかが課題でしょう。

ホームセンター

家庭用品やDIY用品を購入する場所として、ホームセンターは重宝されてきました。そのほか、園芸用品やペット用品なども人気です。2023年のホームセンター市場の販売額は3兆3,411億円であり、前年度からほぼ横ばいでした。

日本におけるホームセンター業界は、郊外を中心として店舗を展開していき、地方の顧客を掴むことで成り立ってきました。しかし、近年では少しずつ市場規模が縮小してきています。ホームセンター業界にとって向かい風となったのは、店舗数が増えすぎたことによる競争の激化でした。また、戸建て住宅の着工件数が徐々に減少してきたこともあり、家庭用品の需要そのものが少なくなっています。しかし、2023年度は店舗数が若干増加傾向にあり、ホームセンター業界の巻き返しが期待されている状況です。

どの企業も飲食品を増やすなどの工夫をして対応しているものの、決定的な効果には結びついていません。一方で、他社を吸収合併しながらさまざまな事業展開を図る企業も出てきました。郊外以外のエリアで、どれだけ顧客を集められるかがホームセンター業界に課されている試練です。

その他(自動車小売店や専門販売店)

衣服など、そのほかの専門販売店は、年々苦境に追い込まれています。全体の売り上げが急落こそしていないものの、部分的にはゆるやかな下降の傾向が現れているといえるでしょう。消費者のライフスタイルの移り変わりは市場に影響を与えました。かつて、衣服といえば「紳士服」「婦人服」というように、明確なジャンル分けがなされていました。だからこそ、ブランドの商品が愛され、固定ファンを生み出していたのです。

しかし、現代では低価格の「ファミリー服」で満足する消費者も少なくありません。 全体的に価格重視の消費活動が目立つ中、リアル店舗での売り上げが伸びているといえるのが自動車販売です。自動車は信頼できるディーラーから直接話を聞いて購入したいという層も根強く存在するので、オンラインショップの台頭も店舗を脅かすまでにはなっていません。

そのかわり、車の周辺機器などはネットで購入する顧客が増えています。 ただし、車を買う消費者自体は減っていなくても、日本メーカーも安心は禁物です。海外メーカーの情報を集めやすくなった時代では、「安くて耐久力がある」日本車の魅力が絶対的なアドバンテージにならなくなりました。

そして、デザインやブランド力で車を選ぶ傾向が強くなることも考えられます。アパレルや自動車では純粋なものづくりの視点に立ち返ることが、今後も存続していく条件になりえるでしょう。

小売業は今後なくなるのか?

小売業は今後なくなってしまうのでしょうか。決してそんなことはありません。ネットショップやECサイトでは提供できないような、実店舗ならではの強みがあるのです。

例えば、服飾を扱う店舗であれば、実物を見ないとWeb上で見える色や形が違う場合があり、試着できないとサイズも分かりづらい場合があります。服飾以外にも直接商品を見てから購入したいと思うことは少なくありません。

このように、消費者のニーズを掴める実店舗はこれからも存続するでしょう。そのためには、適切なマーケティングが求められます。実店舗を存続させるには、このような課題解決が求められるのです。

課題に対応した課題解決のヒントになるのは、以下のポイントです。

  • 慢性的な人手不足とその対策のため生じている瀬戸際の人員配置 →DXによる業務効率化
  • 時代と共に変化する消費者のニーズ →細やかな顧客ニーズへの対応
  • リアル店舗のショールーム化 →オンラインとオフラインの融合

それぞれの課題に対する具体的な解決策を次項で解説します。

小売業が取り組みたい3つの課題解決策

小売業を取り巻く環境が急速に変化する中で重要となるのが、業務の効率化と売り方の見直し、そして店舗自体の付加価値を高める取り組みです。ここでは、小売業が押さえておくべき以下の3つの取り組みについて解説します。

  • DXによる業務の効率化
  • 販売方法の多様化
  • 店舗や売り場の高付加価値化

DXによる業務の効率化

小売業では人手不足が常態化する中、店舗運営を支える手段として、DXによる業務の自動化が重要性を増しています。在庫管理や品出し、レジ業務などをデジタル技術で省力化することで、限られた人員でも安定した運営が可能になります。

また、モバイルアプリなどを活用し、販売情報や顧客情報をデータとして蓄積することで、日々の業務効率を高めるだけでなく、経営判断の質も向上します。

このように、業務の可視化と標準化を進めるDXは、作業負担の軽減と経営改善を同時に実現する施策として有効です。

販売方法の多様化

小売業では昨今、来店前提の販売だけでは需要を取りこぼす場面が増えており、販売手段の見直しが求められています。そのため、実店舗とECを組み合わせることで、地域に依存しない受注体制を整え、機会損失の低減や業務の省力化につなげる動きが進んでいます。

また、定期的に商品を届けるサブスクリプション型の仕組みは、利用者の利便性を高めると同時に、安定した売り上げ確保に寄与します。

このように、複数のチャネルを活用した販売構造の構築は、変化する顧客行動への適応策として重要性を増しています。

店舗や売り場の高付加価値化

通信販売の広がりによって、実店舗で商品が選ばれにくくなる中、顧客の来店意欲を高める工夫がより重要になっています。実際に商品を手に取って試せる体験や、専門的な説明を受けられる環境づくりは、店舗ならではの価値として注目されています。

さらに、店舗限定のサービスやきめ細かな接客、地域と連動した取り組みは、価格以外の魅力を高め、顧客との関係性を深める要素となります。

このように、オンラインでは得られない体験や交流を提供することが、実店舗の存在意義を高める鍵になります。

小売業に変革をもたらす次の一手「AI活用」

現状、AIを活用している小売企業はまだ一部にとどまり、導入を検討していない企業も約4割にのぼるなど、取り組み状況には大きな差があります。また、業務の自動化や効率化を目的としたDXも、多くの企業にとってはAI活用の初期段階にすぎないのが実情です。

こうした中で次の一手として注目されているのが、蓄積したデータや顧客行動をもとに需要や購買傾向を見通す「予測型マーケティング」です。従来の課題解決型の施策から一歩進んだ判断が可能になります。

このような変革を実現するには、単なるツール導入にとどまらず、データの整備や活用体制の構築が欠かせません。

具体的な取り組み方については、下記資料「【アンケート調査】300人の声から描く小売の未来」にて詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。

まとめ

本記事では、人手不足の深刻化や消費行動の変化、実店舗の役割の転換といった小売業を取り巻く環境を整理し、DXによる業務の効率化や販売チャネルの見直し、来店価値を高める売り場づくりといった対応策を紹介しました。あわせて、今後の競争力の鍵として、AIを活用したより高度な取り組みの重要性にも触れています。

日々の業務に追われ変革に踏み出せていない場合こそ、現状をデータで可視化し、将来を見据えた手立てを検討することが欠かせません。調査資料などを参考にしながら、自社の課題を客観的に整理し、次に取り組む施策を具体化していくことが、安定した成長への足がかりとなります。

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