製造業

サプライチェーンとバリューチェーン|違いや関係性を分かりやすく解説

サプライチェーンとバリューチェーン|違いや関係性を分かりやすく解説

サプライチェーンとバリューチェーンは、ビジネスの場でよく耳にする言葉です。どちらも企業の経営戦略や業務改善に関連する要素を含んでおり、共通点がある一方で、それぞれ異なる役割を持っています。

本記事では、サプライチェーンとバリューチェーンの違いと、関係性について分かりやすく解説します。

Factory of the Future

サプライチェーン・バリューチェーンの違いは?

サプライチェーン・バリューチェーンの違いは? 01

まずは、サプライチェーンとバリューチェーンがそれぞれどういうものかに触れた上で、違いについて解説します。

サプライチェーンとは

サプライチェーンというワードは日本語にすれば「供給連鎖」となります。供給業者と呼ばれるサプライヤーが連続していること、数珠つなぎになっていることを表しているのです。

これは製品の材料を調達して製造する工程から、販売されて消費されるまでの一連の流れが連続していることを示しているといえるでしょう。

例えばビールの場合、メーカーは麦芽やホップといった原材料や、アルミ缶やガラス瓶などの資材を取引先から仕入れます。その後、工場でビールを生産し、卸業者に出荷します。卸業者はさらに飲食店や小売店(スーパー、コンビニなど)に商品を流通させ、最終的には消費者が店頭で購入する。この一連の流れが、まさにサプライチェーンです。

サプライチェーン・バリューチェーンの違いは? 02

また、サプライチェーンにおいて注目すべき点は、商品または製品はサプライヤーからカスタマーに流れていきますが、使用感や商品に関する情報、口コミ、市場の動きなどの情報はカスタマーからサプライヤーに逆に戻ってきているといえるのです。

サプライチェーンにおいて次に生かすための情報は必ず返ってくること、そしてそれが次に生きてくるのがサプライチェーンといえるでしょう。

バリューチェーンとは

バリューチェーンとは、日本語で「価値の連鎖」を意味する概念で、アメリカの経営学者マイケル・E・ポーター氏によって提唱されました。

企業が製品を生産する際には、原材料の調達から始まり、製造、在庫管理、物流、販売、サービスに至るまでの各段階を経て進んでいきます。各過程では単に作業を行うだけでなく、それぞれの段階で製品に「付加価値」が加えられていきます。こうした価値の積み重ねが連続的に行われることから、バリューチェーンと呼ばれています。

サプライチェーン・バリューチェーンの違いは? 03

企業における各活動がどのようにして製品やサービスの価値を高め、競争優位を生み出しているのかを理解するためのフレームワークとして、バリューチェーンは広く活用されています。

バリューチェーンを構成する要素

バリューチェーンは、「主活動」と「支援活動」の2つの要素で構成されています。まず「主活動」とは、企業が製品やサービスを生産し、最終的に消費者に届けるまでの流れに関連する活動を指しており、商品の開発や製造、流通、販売といった活動が該当します。製造業であれば、「調達物流」「製造」「出荷物流」「販売・マーケティング」「サービス」といった工程が主活動です。

これに対して「支援活動」は、こうした主活動を間接的にサポートする活動のことです。代表例としては、「全般管理」「人事管理」「技術開発」「調達業務」などが挙げられ、これらが主活動を支えることで企業全体のパフォーマンスを高めます。

企業の活動を主活動と支援活動に整理することで、どの部分が利益に貢献しているのかを明確に把握でき、より効果的な経営戦略の立案に役立てられます。

サプライチェーン・バリューチェーンの対比

サプライチェーンとバリューチェーンは、どちらも企業運営において欠かせない考え方ですが、その目的や役割は異なります。ここからは、この2つの概念がどう異なるのかを詳しく見ていきましょう。

目的の違い

サプライチェーンの目的は、製品やサービスが顧客に届くまでの一連のプロセスを効率化し、コスト削減や納期の短縮を通じて顧客満足度を向上させることにあります。

一方で、バリューチェーンは企業が市場での競争力を高め、差別化された価値を顧客に提供し、競争優位性を確立することが主な目的です。製品やサービスの付加価値を最大化するための活動全体を最適化し、利益を生む構造を構築することに焦点が置かれています。

顧客満足と競争優位性の確立は同時に実現するものではありますが、サプライチェーンとバリューチェーンでは、それぞれが異なる観点から最適化を図っているという点で異なります。

構成する要素の違い

サプライチェーンは、主に調達、製造、在庫管理、物流、販売といった要素で構成されています。これらが目指すものは、製品が顧客の手元に届くまでの流れを効率化し、コストやリードタイムを最小化することです。

対して、バリューチェーンは主活動として製品の開発、製造、販売、マーケティング、アフターサービスに加え、支援活動として技術開発や人事、企業インフラなどで構成されます。バリューチェーンの要素は、顧客に提供される価値そのものを高めることに直結しています。

管理する視点の違い

サプライチェーンは、調達から製品供給までの流れに焦点を当てたもので、その範囲は広いものの、企業全体から見れば経営管理の一部分に過ぎません。このため、全体の最適化ではなく、部分的な最適化にとどまりがちです。また、人事やマーケティング、カスタマーサポートといった業務はサプライチェーンには含まれません。

一方でバリューチェーンは、企業の全ての事業活動を「価値を生み出す連鎖」として捉えます。管理業務も支援活動として含まれており、事業の全要素を分析し、価値の源泉を明らかにする考え方です。バリューチェーンの最適化は、企業全体の最適化につながるため、経営視点からのアプローチが重要となります。

発想の起点の違い

サプライチェーンとバリューチェーンは発想の起点も異なります。サプライチェーンの場合、重要なのはサプライヤー(供給者)の存在です。どんな製品であっても、必要な原材料を調達できなければ、製造や供給の計画は立てられません。そのため、サプライチェーンの構築や維持においては、優れたサプライヤーを見つけ、長期的なパートナーシップを築くことが重要です。つまり、サプライチェーンの発想はサプライヤーを起点としています。

一方で、バリューチェーンの発想の起点は顧客です。顧客のニーズを出発点とし、そこからイノベーションを生み出し、開発やマーケティングを通じて事業活動全体を構築します。サプライチェーンの要素である「調達」も、バリューチェーンでは支援活動の一環として位置づけられます。

このように、サプライチェーンとバリューチェーンは、どこを起点とするかによって、アプローチや意思決定の基準が大きく異なるのです。

情報の網羅性の違い

サプライチェーンとバリューチェーンは、情報の網羅性にも違いがあります。

特に近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の重要性が増しているため、サプライチェーン上で発生した問題に対して「下請けの責任」という言い訳は通用しなくなっています。そのため、企業はサプライチェーン全体を詳細に把握し、取引先を含めた幅広い情報を管理することで、責任ある経営を求められています。

一方、バリューチェーンは、企業内部で価値を生み出す活動の連鎖を分析するフレームワークであるため、外部の取引先に関する全ての情報を網羅する必要はありません。むしろ事業全体を俯瞰し、自社の強みや弱みの他、競争力を高めるためどこに注力すべきかを見定めることが重視されます

供給最適化を図るサプライチェーン・マネジメント(SCM)

供給最適化を図るサプライチェーン・マネジメント(SCM)

サプライチェーンには多くの人員が関わっています。原材料の製造者、生産者、複数の企業、そしてカスタマーです。カスタマーに対してサプライチェーンを通して供給を最適化させる仕組みのことを、SCMと略し、「サプライチェーン・マネジメント」と呼びます。

企業とのやりとりはもちろんのことですが、企業内部の連携も最適化すること、組織全体を連携させることで管理業務を最適化することがSCMの大きな目的です。

サプライチェーン・マネジメントがもたらすメリット

SCMによって得られるメリットは、業務パターンの簡略化です。売れる見込みのある商品は見込みで生産し、見込みが薄いものは注文を受けてから生産するというモデルにすることによって、スピーディーな商品提供が可能です。

これにより、見込み生産のリードタイムが大幅に短縮され売上増加が期待できる他、余分な在庫を抱えるリスクも減少するため、コスト削減にもつながります。また、キャッシュフローの情報を一元管理できるため、SCMによる適切な意思決定は収益向上だけではなく金銭の流れを容易に把握することが可能です。

サプライチェーン・マネジメントによるデメリット

SCMにはメリットが多いように見えますが、デメリットも当然存在しています。それはマネジメントへの取り組みやソリューションを導入するためのコストや人的リソースの枯渇です。SCMは人的リソースだけではなくコストも多く消費します。導入のコストや人的コストを回収するだけの目処が立っていなければ、SCMを導入することはリスクが高いと考えてよいでしょう。

サプライチェーンの企業活用事例

サプライチェーンマネジメントを成功させるためには、調達から消費までのプロセス全体を幅広く見直す必要があります。

例えば、経済産業省が主催する「サプライチェーン イノベーション大賞2020」で優秀賞・特別賞を受賞した株式会社セブン‐イレブン・ジャパンは、食品ロス削減に向けた取り組みとして「エコだ値」や「てまえどり」を実施しています。

「エコだ値」は、販売期限が近い商品を値引きすることで、食品廃棄を抑えつつ消費者にお得な選択肢を提供する施策です。「てまえどり」は、消費者が手前の商品を優先して購入するよう促し、店頭での廃棄削減に貢献しています。こうした取り組みを通じて、セブン‐イレブンは持続可能なサプライチェーンの実現を進めています。

差別化戦略の構築を実現させるバリューチェーン分析

差別化戦略の構築を実現させるバリューチェーン分析

競争が激化する市場では、単に商品の品質やサービスを向上させるだけでは、他社との差別化が難しくなっています。顧客に選ばれるためには、自社の強みや課題を正確に理解し、競争優位性を把握することが不可欠です。こうした分析に役立つのが「バリューチェーン分析」です。

バリューチェーン分析は、企業の事業活動を「顧客に価値を提供する一連のプロセス」として捉え、各プロセスでどのように価値が創出・付加されているかを明らかにするもの。この分析を通じて、企業は競争優位性の源泉や改善の余地を発見できます。

バリューチェーン分析を行うには4つのステップがあり、現状把握、コスト計算、弱み・強みの洗い出し、経営資源の評価に分かれています。このうち経営資源の評価において活用されるのが「VRIOフレームワーク」です。VRIOは、経営資源の「価値(Value)」「希少性(Rarity)」「模倣困難性(Imitability)」「組織的活用(Organization)」を評価するもので、企業が持つ資源や能力が持続的な競争優位にどれだけ貢献できるかを厳密に判断できます。

バリューチェーン分析のメリット

バリューチェーン分析には、次の3つのメリットがあります。

  • 自社の強みや弱みを明確化できる
  • 競合他社の提供価値を把握できる
  • 経営資源の再配分によりコスト削減と利益の最大化が可能

バリューチェーン分析を行うことで、自社の製品やサービスの魅力、課題が明らかになります。これにより、強化すべき点や改善すべき領域が把握でき、経営戦略に活かせるようになります。

また、この分析は自社に限定されず、競合他社に対しても実施することで、競合の強みや弱点を把握し、今後の市場戦略予測が可能です。こうして得られた情報をもとに自社の戦略を練り直すことで、より効果的な対策を打ち出せるでしょう。

さらに、バリューチェーン分析では、どの活動が高い付加価値を生み出しているか、逆にリソースを削減すべき活動がどれかを明確にします。高付加価値の活動には経営資源を集中的に投入し、優先度の低い活動に関してはコストを削減・再配分することで、全体の利益最大化が期待できます。

【補足】デマンドチェーンとは

【補足】デマンドチェーンとは

サプライチェーンでは、サプライヤーが持っている情報を管理し、原材料の仕入れやカスタマーへの供給プロセスを行っていました。対してデマンドチェーンとは、カスタマーから得られる情報、POSデータや口コミ、市場などを起点に商品の開発や生産、流通を最適化する仕組みであるといえるでしょう。

日本ではデマンドチェーンよりサプライチェーンに注力していた関係から、デマンドチェーンへの対応が遅れているのが現状です。

サプライチェーンとバリューチェーンの関係性

サプライチェーンとバリューチェーンの関係性

サプライチェーンとバリューチェーンについては一見関係がないように思えます。しかし、サプライチェーンによって生み出された供給はバリューチェーンの分析対象として大きく影響を与えることは明白です。

バリューチェーン分析をする際はサプライチェーンも加味しながら分析しなければなりません。逆にサプライチェーン・マネジメントを実行する際にも、バリューチェーンとの意思疎通を行いながら改善に取り組む姿勢が必要です。

サプライチェーンとバリューチェーンを統合するメリット

サプライチェーンとバリューチェーンを統合することで、企業は効率と価値創造を同時に最大化することが可能です。サプライチェーンの最適化によりコスト削減や供給の安定化が実現され、一方でバリューチェーンの活用によって各プロセスでの付加価値を高め、競争優位性を強化できます。

両者の統合により、供給から価値創出までの一貫した管理が可能となり、効率化と顧客満足度の向上を同時に達成するための基盤が整います。結果として、企業全体の競争力をより持続的に高めることができるのです。

DXの実現にはバリューチェーン分析が重要

DXの実現にはバリューチェーン分析が重要

近年、企業にとって重要課題となっているDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、単にITを導入して業務を効率化するだけではありません。DXはデジタル技術を活用してビジネスモデルそのものを変革し、競争優位性を確立することを目指しています。つまり、業務の進め方や組織の構造、さらには企業文化までを見直し、新しい価値を創出することで競争力強化を図ることがDXの本質です。

このような変革を実現するには、自社の全ての事業活動を包括的に見直し、バリューチェーン全体の効率化や付加価値の向上、コスト削減を実現する必要があります。バリューチェーン分析は、こうしたDXの実現に向けた重要な手段として、企業にとって不可欠な要素といえるでしょう。

まとめ

まとめ

本記事では、サプライチェーン、バリューチェーンの違いから、各チェーンの解説と、関連性について紹介しました。事業を行う上では、これらの連鎖の違いについて理解しておくことや、分析した結果を利用していく必要があります。

DX化などで情報が一元化できる今だからこそ、このような関係性についての理解をより深めて活用することでカスタマーに対する供給が最適化されていくことでしょう。

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