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医師と患者のコミュニケーション不足の要因とサポートツールを紹介

誠心誠意を尽くして治療にあたっていても患者の症状が思うように改善しないことがあります。その場合、患者とのコミュニケーションがうまくいっていないことが原因である可能性があります。この記事では医師と患者間でコミュニケーション不足が起こる原因や、円滑なコミュニケーションのために役立つツールについて紹介します。

医師と患者のコミュニケーション不足の要因とサポートツールを紹介
先端技術とAI倫理がもたらす「より良い医療のかたち」

医師と患者の信頼関係を生むコミュニケーションの重要性

受診する病院やクリニックを選択するときに、しばしば最も重要な決め手になる要素として「医師とのコミュニケーション」があります。治療にあたる側としては、専門医としてのスキルや経験、待ち時間やプライバシーへの配慮などの要素がより重要だと考えている場合も少なくないでしょう。もちろん、的確な診断や治療を行うだけの十分な知識や技術が医師側にあることは大前提です。

しかし、患者が抱えている症状や問題を正しく把握するためには、まず患者自身に自分の状態についてきちんと説明してもらうことが非常に大切です。そのために医療の場が患者にとって話しやすい雰囲気になっていることに心を配る必要があります。

できるだけ患者の話を遮らずに傾聴する姿勢を持ち、相手が話しているときに相槌を打ったりうなずいたりすることを意識するだけでも患者は話しやすくなります。威圧感を与えない程度に相手の目を見て話を聞くことも大切です。また、診療や処方する薬の説明も丁寧に行いましょう。医師にとってはその日に対応する何十人の一人であったとしても、患者にとって医師の存在は大きく、それだけ頼りにされているのだということを念頭に置いておきましょう。

アメリカでもコミュニケーション不足が問題に

日本と比べ、米国では子どもでもしっかりと自己主張ができているというイメージがあるかもしれません。しかし、日本だけでなく米国でも医師と患者のコミュニケーション不足は問題になっています。2015年1月に米紙「ニューヨーク・タイムズ」に掲載されたコラム「Doctor, Shut Up and Listen(先生、黙って私の話を聞いて下さい)」では、患者への聞き取りが十分でないために誤診や誤った治療の原因になりうると問題提起がなされ話題になりました。このように、患者自身も自覚していないような情報をうまく引き出して、適切な治療に結びつけるためにコミュニケーションが非常に重要であることがよくわかります。

しかし、これだけ重要性が叫ばれていても、医療従事者と患者の間のコミュニケーションの質や量はなかなか改善されていないのが実情です。その原因の一つに医師の多忙さがあります。人は忙しくなればなるほど相手に共感する力が薄れる傾向にあるとされており、多忙のあまり患者の声に十分に耳を傾けるだけの状況にない場合も少なくないのが現状です。

コミュニケーション不足の主な原因とは

ここからは、医療従事者と患者との間でコミュニケーション不足が発生しやすい主な原因について見ていきましょう。

立場や知識の違い

コミュニケーションエラーを起こす原因のひとつが「立場・知識の違い」です。医療従事者側は日常的にさまざまな医学用語を使用していますが、専門知識を持たない患者にとっては医学用語を医師の意図通り解釈するのはほぼ不可能といえるでしょう。

また、日常的に使う言葉が医学用語では別の意味を持つため誤解を生むこともあります。2020年初頭、新型コロナウイルス集団感染が発生したクルーズ船に関して使われた「不潔」の表現が、一般的な意味では「汚いものがついている」であるのに対し、医学用語では「滅菌・殺菌していない」とズレがあるため、一部で混乱を招いたことは記憶に新しいでしょう。

相手の立場に立ち、できるだけわかりやすい表現を伝えるのがコミュニケーションの大前提と言えます。患者に病名を伝えたり指導を行ったりする際に、つい専門的な言い回しを用いてしまうケースがありますが、専門的な言い回しを使うと意味が正しく伝わりにくいだけでなく、ドライで冷酷な印象を与えることもあるので特に注意が必要です。

情報が患者へ上手に伝わっていない

コミュニケーションエラーを起こすもう一つの原因は「情報伝達の差異」です。

医師と患者の間において、しばしばコミュニケーションギャップが発生する原因に疾患に対する基本的な認識の差があります。

医療にも基本的に100%の正解があるわけではありません。医師は常に治療のメリットとデメリット、治療による不確定要素などを天秤にかけ、可能な限りの最善策を検討し提案しますが、疾患の要因が複雑であればあるほど、情報が込み入り判断は難しくなるでしょう。こういった難しさもあり、患者とのコミュニケーションギャップが起きやすい状況が本質的に存在していると言えます。

しかし、事前のコミュニケーションが上手くいっていないと「治療法が変更になるが、まったく良くならない」など患者の不満が増幅することもあります。治療法の決定や変更には患者側の了承(インフォームドコンセント)が必要で、これがスムーズに得られないと治療が適切に進められない原因にもなりかねません。

情報を伝達するには言語だけのコミュニケーションでは不十分なこともあります。必要に応じて、画像データなどを用いながら、視覚的に情報共有していくことも大事です。

医療現場でのコミュニケーションをサポートする様々なシステム

インターネットの普及に伴い、電子データを介在させた情報の共有が可能になり、オンライン診療も広がりを見せるなど医療現場におけるコミュニケーションのあり方が多様化しています。ここからは、患者と医師のコミュニケーションをサポートする最新のシステムについて紹介していきます。

オンライン診療や組織内コミュニケーションを円滑にする「Microsoft Teams」

Microsoft Teams」はマイクロソフトのOffice365ビジネスユーザーに向けた情報共有アプリケーションです。このツールではチーム内でのチャットやオンライン会議を行うことができます。もちろんファイルサーバーとしても使えますし、スケジュール管理機能も備わっています。医療従事者と患者間でコミュニケーションをとるには、まず医療者間で適切に情報が共有され、申し送りなどが正しく行われることが必要ですが、このツールを使えば多忙な現場でもスピーディーに情報を共有することができます。

モバイル医療アプリ「EASE(Electronic Access to Surgical Events)」

「EASE」は患者の家族とのコミュニケーションにも配慮して開発されたモバイル医療アプリです。手術を行うとなると患者本人はもちろん、家族にも大きな不安が生まれるものです。こういうケースでEASEを使えば現場から家族に手術室内の最新の情報をテキストや写真、動画などで共有することができます。また、EASEでは医師が手術室を出るタイミングを家族に連絡できるので、医師の話を聞くためだけに待合室であてもなく長時間待つ必要はなくなります。家族が受け取ったメッセージは表示から1分後に自動的に消滅するなど、プライバシー保護にも十二分に配慮されています。

医師同士のコミュニケーション時間を短縮する「Whytlink」

「Whytlink」は医療関係者同士のコミュニケーションをサポートするツールです。チャット形式により一度で複数の医師と情報共有ができます。また、テキストだけでなく画像データのやりとりも可能です。

このツールで事務的な連絡や引き継ぎにかかる時間を大幅に短縮できるので、患者への説明など、本来手厚く行うべきコミュニケーションに時間を割くことができます。また、チャット形式で手軽に連絡できるので、他科や他院の医師との連携強化にも役立ちます。ネットワークへのアクセスは医療関係者に限定されており、セキュリティにも配慮されています。

SNS的コミュニケーションツール「ここのーと」

「ここのーと」はSNS的な要素を持つコミュニケーションツールです。このツールでは患者や家族が作成した日記やつぶやきを、医師や看護師など医療従事者と共有することができます。日々の状態を患者自身に記録しもらい、その情報を共有することで、限られた診察時間内では気がつくことができない体調の変化などを医療側が把握できます。

また、診察に先立って患者の情報を把握することで、治療の効果を確認したり別の治療法を前もって検討することも可能になります。在宅療養中の患者や家族から医師に個別相談することもできるので、日常的な不安や疑問の解消にもつながると考えられます。

AIを搭載したサービスへの取り組みも

医療現場においては人手不足も懸念されており、AIを組み込んだコミュニケーションツールの導入が今後加速化していくことが予想されています。たとえば、AIチャットボットに受付業務や簡易診断、アフターケアなどを代行してもらうことで、現場の業務負担を軽減させることができます。また、待ち時間の予測や順番の通知などを行う機能をAIチャットボットに搭載すれば、待合室に長い列ができることもなく、患者同士の感染リスクも軽減できるでしょう。このようにAIの活用は、医師と患者の双方にとって大きなメリットがあると期待されています。

まとめ

何らかの不調や痛みがあるからこそ患者は医師のもとを訪れています。病気や検査への不安から、いつもよりネガティブな考えになっている可能性もあります。医師としては、まずこうした患者の心に寄り添い、不安を取り除いてあげることが大切です。その上で、コミュニケーションツールも活用し、よりよい治療に役立てていきましょう。

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