クラウドの利用拡大にしたがって、豊富な機能やサービスが提供されています。クラウド移行は、以下の3つのフェーズで進めると効率的です。
- Phase1 : サイロ基盤を仮想集約基盤へ、ムリやムダの排除
- Phase2 : 仮想集約基盤からIaaSのマルチクラウド化、ノンコア業務からの解放
- Phase3 : SaaSとPaaSレベルでクラウド活用の最大化
ここでは、これからAzureで本格的なクラウド移行を進める企業を対象として、Phase1を中心に、移行の第一歩を進めるにあたって検討すること、移行を支援するツールについて解説します。
クラウド移行を阻害するサイロ化
経営陣からトップダウンで「クラウドを利用するように」と要請され、情報システム部門や現場が別々に必要なサービスを選択すると、企業内でマルチクラウド化が進行します。
このとき、システムの「サイロ化」が大きな課題です。
サイロは家畜の飼料や穀物などを貯蔵する建物をあらわす言葉であり、転じて縦割りの組織化によって部門が孤立し、それぞれの部門の活動が他の部門から見えにくくなった状態を呼びます。サイロ化が進行すると、同じ部門であってもプロジェクト単位でまったく別のソリューションを使っているケースさえ生じます。
このようにサイロ化した企業では、経営陣はもちろん情報システム部門が全体を見渡すことが「ムリ」な状態にあり、企業全体で「ムダ」が生じています。そこでクラウド移行の前に、社内の業務とそれぞれの部署の役割分担を見直すことから着手しなければなりません。
クラウド移行は、組織面とシステム面から検討
クラウド移行の第一歩として、サイロ化された組織とシステムを検討し、方向性を決定することが重要です。組織の側面とシステムの側面から検討のポイントを解説します。
情報システム部門とユーザー部門で、役割分担を見直す
一般的に情報システム部門では、ハードウェアやOS、ネットワークなど仮想化環境の構築と運用および保守を担っています。業務を行う各部門では、開発部門であればミドルウェア、営業や生産などの部門であれば業務用アプリケーションなど、それぞれの部門で必要なソリューションを活用します。
ところが開発部門でデータベースの構築や監視を行うなど、情報システム部門の領域まで担当して保守コストを高めているケースや、「ノンコア業務」に膨大な時間を費やしている場合があります。ノンコア業務とは、高度な判断が不要で難易度が低く、定型化できる仕事です。
したがって、実際に業務を行う開発部門、営業部門、総務や人事や経理などのスタッフ部門などで、サイロ化している「壁」を取り除き、共通基盤と共通機能を定義することが必要です。クラウド移行以前に業務の仕分けを行い、組織の役割を明確化します。
情報システム部門は、とかく各部門からの問い合わせや障害対応に追われがちです。しかし、組織を横断してシステム全体を俯瞰、統括するミッション遂行に特化した役割に変更します。
この役割変更によって、情報システム部門は複数ベンダーから調達可能なデファクトスタンダード(業界標準)のソリューション、プロトコルの情報を集約し、複数ベンダーに要件を提示して、価格競争力や優位性のあるベンダーを選定する役割を担います。戦略的な意思決定権を持った部門にシフトする、ということです。
こうして、全体を統括する情報システム部門、部門間を横断して活用できるPaaS、SaaSを選定して、サイロ化の壁を取り払います。
クラウドサービスを最大限に活用することを前提にシステムを見直す
組織の見直しとともに、システムに関しては「プラットフォームの統合」「共通機能の定義」「水平分業型運用」の3つのポイントから見直します。
プラットフォームの統合
すべてのシステム基盤のアーキテクチャー、採用するソリューションや製品群は、可能な限り一元化します。AzureであればIaaSの仮想マシンからPaaSを中心に豊富なサービスを備えているため、あらゆるニーズを網羅した統合基盤を実現できます。
共通機能の定義
アプリケーションベンダー間で共通のプラットフォームと機能を定義して、個別の設計を可能な限り抑えます。Azureの豊富なサービスは常に新しい機能が追加され、アップデートしていることが大きなメリットです。Azureの進化に追従することにより、業務マニュアルのようなドキュメント作成に時間を費やさずに、自動化などの機能を活用します。
水平分業型の運用
OS、ミドルウェア、データベースなど共通のインフラストラクチャーを採用して、水平分業型の運用にします。Azureでは権限を設定して責任を明確化できるため、統合されたプラットフォーム上で水平分業が可能になります。
クラウド移行に重要な現行調査、ロードマップ設計
クラウド移行に関して着手すべき概念的な解説をしましたが、実際に移行を進めるには「現行調査と仕分けルールの作成」「ロードマップの設計」を行います。
現行調査と仕分けルールの作成
Azureのクラウド移行に備えて現行調査を行います。最初に着手することは「Active Directory配下のマシンを列挙してリスト化すること」です。
Microsoft Assessment and Planning(MAP) Toolkitを使って、Active Directory配下のWindowsマシンについて、ハードウェアのスペック、Windows OSのバージョンなどを含めた一覧を作成します。その他のマシンに関しては、やや煩雑ですがExcelのフォーマットなどでヒアリングシートを作成して社員に問い合わせます。
続いて「クラウド移行が簡単か困難か?」という観点から、制約に関する仕分けルールを作成します。定量的な判断を可能にするためです。
たとえばネガティブな要件から挙げると、OSが古いバージョンのマシン、アプリケーションとハードウェアの適合性、ミドルウェアやアプリケーションのライセンス体系などはクラウド移行が不可能な条件になり得る可能性があります。保守や監視の必要性、運用サービスの内容、クラウドが停止したときのユーザーに対する影響は、クラウド移行の阻害要件です。
一方、ポジティブな要件としては、BCP(事業継続計画)やDR(災害対策)が急務であれば、クラウド移行が必要です。ストレージの容量を柔軟に変更したい、サービス時間の制限をなくしたいなどのニーズもクラウド移行の条件になります。
このように「クラウド移行で何を重視するのか?」を明確なルールにします。
ロードマップの設計
クラウド移行が急務でも、いきなりオンプレミスで運用していた状態から「パブリッククラウドでSaaS、PaaSレベルで活用」を実現することは困難です。3年後に実用化、その後パブリッククラウドの利用領域を拡大するようなロードマップの設計が必要になります。
パブリッククラウドの移行では、データベースやアプリケーションのライセンス体系がボトルネックになったり、業種や企業規模に関係なく3割~6割程度は移行できないシステムが存在したりすることがあります。
しかし、クラウド移行にはさまざまなパターンが存在します。アプリケーション構成を残したまま移植する「リファクタ―」、既存のアプリケーションのコードを書き換えて機能を一部利用する「リアーキテクト」、クラウドネイティブな環境にゼロから構築する「リビルド」など方法を検討するとよいでしょう。
クラウド移行ツールはAzure MigrateでPoCを
Hyper-VやVMwareによる仮想マシンをクラウド上で稼働させる場合の移行ツールとしては、「Azure Migrate」による簡易移行PoC(Proof of Concept:概念実証)が効率的です。パートナー製のツールと組み合わせると移行の実現を強化できます。仮想マシンの移行検証や月額料金の算出も可能です。
Azure Migrate は、Windows ServerだけでなくLinuxのサーバー、SQL などのデータベース、Webアプリケーションなどの主要な移行をサポートしています。物理サーバー、クラウドからクラウドの移行まで包括的にサポートします。
Azure Migrate以外のサードパーティー企業ならびにソリューションには以下があります。
- Archive 360
- Attunity
- Cloudamize
- CloudAtlas
- The CloudLab
- CloudPhysics
- Corent
- Datometry
- Informatica Cloud
- Intigua
- Ispirer
- Morphis
- Movere
- QuerySurge
- Striim
- Turbonomic
- Zerto
まとめ
Azureのクラウド移行では、パートナー企業のサービスを利用すると、PoCの期間中にハンズオンの講習やセミナーを受講できる特典があります。また、組織の問題を含めて、クラウド移行の実績が豊富なパートナー企業にはノウハウが蓄積されています。プロフェッショナルからのアドバイスも考慮するとよいでしょう。