「デジタルマニュファクチャリング」や「スマート工場」など、製造業にデジタル技術を取り入れる取り組みについて耳にすることが多くなりました。古くは2011年、ドイツ政府によるインダストリー4.0政策に始まり、翌年には米GE(ゼネラル・エレクトリック)からインダストリアル・インターネットが打ち出され、2015年には中国政府の「中国製造2025」が発表されています。そしてその2年後には、日本政府がデジタル技術を取り入れた製造業のあるべき姿「コネクテッド・インダストリーズ」政策について発表しました。
こうしたデジタルマニュファクチャリングの重要性は声高々に叫ばれているものの、その実情について知るものは意外と少ないでしょう。本稿では、デジタルマニュファクチャリングとは何なのか?どのようなメリットがあるのか?などの基礎知識を解説します。
デジタルマニュファクチャリングとは?
デジタルマニュファクチャリングをシンプルに言い表すと、「製造工程におけるデジタル技術の取り入れ」です。具体的には、各製造工程からさまざまなデータを収集・分析することにより、本来は熟練の作業員にしかできなかった製造工程などを機械に代替して、組織全体の生産性を向上させるための取り組みです。
具体的にどのようにして実現するのか?そのカギになるのがIoTであり、AIが補助します。IoTとは生産設備等にセンサーを取り付け、従来は得られなかった新しいデータを収取するための技術およびプラットフォームです。AIはIoTから収集されたデータを自動的に解析して、それを有効な情報へと変換します。そうすることで、生産設備の稼働状況をリアルタイムに可視化したり、設備同士が互いに制御し合う製造工程を構築できたりします。
デジタルマニュファクチャリングが最終的に目指すのは、大幅な生産性向上とデジタルデータ活用により、消費者1人1人の要望に沿ってカスタマイズされた製造です。フロスト&サリバンの調査『アジア太平洋地域のインダストリアルIoT市場:2022年までの展望』によると、アジア太平洋地域のデジタルマニュファクチャリング市場は2017年から2022年にかけて年平均成長率17.9%と大きく成長する見通しです。
デジタルマニュファクチャリングのメリット
デジタルマニュファクチャリングを実現するにあたり、IoTやAIといった新しい技術を取り入れるため一定以上のコストがかかります。技術的課題もありますし、そうした課題を乗り越えてデジタルマニュファクチャリングを導入するメリットとは何でしょうか?
1. 製品ごとに最も効率よい製造工程の確立
デジタルマニュファクチャリングを導入した製造工程では、設計から生産にいたるすべての工程においてさまざまなアプローチで効率化できます。設計時点から生産工程のシミュレーションをコンピューターで実施することにより、機械化や自動化を含めた最も効率的な製造工程を確立して、生産性の大幅向上に貢献します。
2. 製造現場からのフィードバックを受けて設計プロセスへ反映
製造現場からはIoTを通じて常にデータが収集され、プラットフォームに集約されたデータをAIが情報へ変換します。これを通じ、設計チームは製造現場からのフィードバックをリアルタイムに受けることになり、設計プロセスへの反映が可能です。製造現場のデータをより詳細に知ることができれば、新しい製品を開発するにたり効率的な製造工程を意識しながら設計にあたることができ、製造の上流工程から下流工程まで一貫した生産効率化が実現できます。
3. 検査工程の自動化による属人化の排除と製造コスト削減
IoTおよびAIを駆使すると、これまで難しかった検査工程の自動化が実現します。高性能カメラを搭載した監視システムを設置することにより、生産ラインを流れる製品の1つ1つをつぶさにチェックした不良や欠陥を見つけ出します。これをAIが解析することで良品・不良品の判断を自動化でき、さらに運用を続けることで精度を向上できます。
4. モニタリングシステムの高度化による安全性向上
製造現場に設置した、3Dカメラ等を使ったモニタリングシステムは映像データがAIによって解析され、現場の安全性向上に強く貢献します。製造における事故を防げれば、作業員の安全を確保したコンプライアンスを維持できるだけでなく、事故ゼロを実現した大幅な生産性向上が見込めます。
5. 作業に必要な情報・変更点のリアルタイムな共有
近年では、製造業および建設業において眼鏡型ウェアラブルデバイスを取り入れるケースが増えています。たとえばマイクロソフトが開発した「HoloLens(ホロレンズ)」はAR(拡張現実)技術により、半透明レンズに様々な情報を投影して、リアルとデジタルを融合した情報処理が可能になります。HoloLensのようなデバイスがあれば、作業に必要な情報や変更点をリアルタイムに今日して、作業の正確性と効率性向上が同時に実現されます。
6. 現場と経営が繋がることで迅速な意思決定を促進
デジタルマニュファクチャリングを導入することで、現場と経営がリアルタイムに繋がります。経営層は現場から打ち上げられるデータを閲覧しながら経営戦略と照らし合わせて、迅速かつ正確な意思決定を促せます。
デジタルマニュファクチャリングの課題
素晴らしい効果ばかりのデジタルマニュファクチャリングですが、導入にあたり課題が多く残されていることも確かです。最も大きな課題となるのは、やはりAI技術・IoT技術の導入でしょう。
新しい技術を取り入れるにあたりIT人材の強化が必要になりますが、日本は現在深刻なIT人材不足に悩まされています。そのため、新しいIT人材を確保するには獲得コストが依然よりも高くないっていますし、AI技術・IoT技術について教育を実施するのにもコストがかかります。また、AI技術とIoT技術に関するIT人材が確保できても、それらの技術をどのようにして製造工程へ取り入れるか?という問題もあります。
そしてもう1つの課題が、IoTおよびAIを管理するためのプラットフォームです。選択肢として有効なのがクラウド型プラットフォームであり、マイクロソフトではDynamics 365と連携可能なプラットフォームを提供しています。
Dynamics 365とIoT・AI基盤を連携することにより、生産システムだけでなく販売・調達・原価・営業・会計・顧客などあらゆる業務システムが繋がることで、デジタルマニュファクチャリングの効果をさらに拡大できます。
今後、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが重要とされる中、製造業におけるデジタルマニュファクチャリングが必須となっていく時代がやってきます。デジタルマニュファクチャリングの導入する際は、同時にDynamics 365もご検討ください。