「Power BI」を耳にすることが多くなりましたが、皆さんはこれが何かご存知でしょうか?Power BIはBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールとしてマイクロソフトから提供されている製品です。
BIツールとは企業が蓄積しているデータを分析し、その結果から得られた知見をあらゆる活動に生かすためのものです。データそのものが蓄積されるデータベースとは違い、別のツールとしてレポートを表示したり、データ分析に関するさまざまな機能を持ったソフトウェアです。
このBIツールの中でも注目されているのが「セルフサービスBI」でしょう。これは文字通りデータ分析の半分以上の作業をBIツールが自動化するというもので、効率良くデータ分析に取り組めるということで注目されています。
ただし、セルフサービスだからといって簡単に扱えるというわけではありません。セルフサービスBIは、情報システムに依頼することなく業務部門が主体になってデータ分析を実行できるようにする仕組みであり、それを運用するためにはある程度データ分析に関するスキルと製品知識が必要です。
Power BIはこのセルフサービスBIに分類される製品であり、一般的なITリテラシーがあれば比較的簡単にデータ分析ができます。今回はこのPower BIについてその概要や詳細をご紹介します。
Power BIとは?
引用:PowerBI公式サイト
Power BIはマイクロソフトが提供しているセルフサービスBIです。Power BIで出来ることを簡単にまとめると、次のようになります。
- 各種データ処理(抽出、変換、統合など)の実行
- 視覚化された分かりやすいレポートを作成
- 作成したレポートを組織内の人と共有
- 作成したレポートを定期的に自動更新
これらの機能を基本的にノンプログラミングで実行できます。ノンプログラミングとはつまり、プログラミングを必要としないソフトウェアです。通常、データ分析などの作業にはプログラミングが欠かせませんが、Power BIの場合はプログラムを記述しなくてもデータ分析作業が行えます。
レポート作成の時間を削減したいOfficeユーザーにおすすめ「Power BI」
実際にPower BIの使用感はどうなのか、Power BIの導入に携わったことのあるユーザーの声をご紹介します。使いやすさなど導入時の参考としてください。
利用ユーザーによるレビュー
実際にPower BIを使用したユーザーの声まとめ
- ExcelやPowerPointから表やグラフをすぐに作成できる
- 自分だけの利用であれば無料で開始でき、運用段階になってからチームで共有するために、有料プランに切り替えることも可能
- Microsoft製品の操作に慣れており、レポート作成の時間を削減したい人におすすめ
Microsoft製品との互換性が高いため、既に運用しているExcellなどのデータをそのままPower BIで集計・グラフの作成が簡単にできること、無料で自分の好みなデザインのレポート構築ができることが評価されています。これらを踏まえて、Microsoftの慣れた操作環境でデータを可視化し、業務を効率化したい方におすすめです。
Power BIの重要性が高まる背景
Power BIの重要性が高まった背景として企業が扱うデータ量が膨大になったことが挙げられます。製品の情報に限らず、顧客や社員の行動もデータとして収集し、分析する時代となりました。
データの加工や分析にはプログラミング技術が必要です。しかし実践レベルに対応できる技術者は少ないため、技術がなくてもデータを扱うためにセルフサービスBIが生み出されてきました。Power BIはそうした背景から生まれ、注目を集めています。
企業においてPower BIが果たす役割とは
Power BIの役割としてデータ分析に用いることができます。分析により、企業の新たなアクションを促すことになります。
分析するために、企業のデータベースに蓄積されたデータを加工、合成します。これにより使いやすい形への変換が可能です。たとえば、データをグラフやレポート形式で出力するなどがあります。
Power BIの構成
Power BIは次のような構成を持ちます。
Power BI Desktop
各種データソースを抽出・変換・結合し、さらにレポートの設計を行うためのデスクトップアプリケーション
Power BI Service
レポートを共有するクラウド基盤&ブラウザ上でデータ分析を行うためのサービス
一般的なBIツールではレポートを行うデザイナーツールと、実際にレポートの分析・閲覧するためのツールが分かれていることが多く、Power BIも同様の構成となります。Power BIは一部の機能が無料で提供されており、お試しとして利用することができます。無料で使える範囲については後述します。
Power BIの特徴はMicrosoft Officeなど、マイクロソフト社製品との相性が抜群に良いことです。マイクロソフト社内ではメールよりも使用されているITツールであり、多くの社員がPower BIの愛用者です。BUSINESS INSIDER JAPAN(マイクロソフトでメール以上に使われているツール「Power BI」とは)ではPower BIについて以下のように紹介しています。
ナデラ氏の右腕で、クラウド部門を統括するスコット・ガスリー(Scott Guthrie)氏は、出社するとまずPower BIをチェックし、同社のクラウドビジネスの状況を確認する。CFOのエイミー・フッド(Amy Hood)氏は1580億ドル(約17兆円)に上る同社の資産をPower BIで管理している。Surfaceのハードウエアチームはサプライチェーンのチェックに使い、Office部門はアクティブユーザーの状況確認に使っている。カスタマーサービス部門もPower BIを活用し、問題の解決状況を管理している マイクロソフトがこれほどまでにPower BIを使っているという事実は、実は同社の営業努力の賜物だとフィリップス氏は語った。同氏は最近ビル・ゲイツ氏に対して行った2時間のPower BIの進捗報告ミーティングを振り返り、ゲイツ氏に一般的な使い方ではなく、彼自身がいかにPower BIを使用しているかを見せ、そのインパクトの大きさを伝えた。 「彼はとても気に入ってくれた。Power BIの大ファンになった」とフィリップス氏は語った。
Power BI モバイルアプリ
Power BIモバイルアプリをパソコンやタブレット、スマートフォンにインストールすることで、場所や時間を選ばずにアクセスできます。Windows、Android、iOSの3つのOSにインストールが可能です。
モバイルアプリからPower BIサービスにアクセスして、レポートを閲覧・分析ができます。
Power BIの特長
Power BIの特徴として以下の6点があります。
- 如何なるデータにも接続可能
- 簡単にデータを作成し、モデル化する
- Excel のわかりやすさで高度な分析を提供
- さまざまなデバイスで利用可能
- 高度なセキュリティ
- ノンプログラミングのセルフサービス
如何なるデータにも接続可能
クラウドでもオンプレミスでも、アクセスさえできればデータがどこにあっても調べることができます。ファイルはもちろん、データベースやHadoop や Spark などのビッグ データも含まれます。
簡単にデータを作成し、モデル化する
データの作成には、多くの時間が費やされます。しかし、Power BI Desktop のデータ モデリングを使用した場合、そのような必要はありません。数クリックで複数のソースのデータを消去、変換、および組み合わせることができます。
Excel のわかりやすさで高度な分析を提供
クイック メジャー、グループ化、予測、およびクラスター化などの Power BI の機能を使用して、ビジネス ユーザーがデータを深く掘り下げ、見落とす可能性があったパターンを見つけることができます。
さまざまなデバイスで利用可能
Power BIはデスクトップアプリに限らず、SaaSやモバイルアプリが用意されています。そのためデバイスやOSを限定することなく、Power BIの利用が可能です。
モバイルアプリの場合はWindows、Android、iOSの3つのOSに対応しています。
高度なセキュリティ
Power BIは高度なセキュリティがかけられています。Power BIのサインイン時にはAAD(Azure Active Directory)で認証がされます。またPower BIには監視機能が用意されているため、ログイン情報や利用状況の確認が可能です。
またPower BIはMicrosoftが運営するSaaSです。ハードウェア等、低レイヤーの故障やセキュリティはMicrosoftに管理されています。
ノンプログラミングのセルフサービス
Power BIはノンプログラミングで利用できます。データの加工や分析にはデータサイエンスや機械学習の専門知識、プログラミング技術が必要なイメージがあるかもしれません。しかし、Power BIを利用するための専門知識や技術は不要です。最低限のITリテラシーがあれば、誰でも簡単にデータの加工、分析をPower BIを用いて行うことができます。
Power BIには使いにくい点もある?
先述の通り、Power BIは使いやすい特長が備わっていますが、使いにくく感じる点もあります。主に以下の2点です。
- 機能が豊富すぎて何を使ったら良いのかわかりにくい
- Power BIに関する知識やノウハウがゼロだと操作が難しい
機能が豊富すぎて何を使ったら良いのかわかりにくい
Power BIが使いにくい、と感じてしまう原因として機能が豊富すぎる点があります。Power BIはユーザーからの多数の要望を受けて改良してきた結果、多くの機能を備えています。しかし、その結果Power BIに慣れていないユーザーやデータ分析自体行ったことがないユーザーは、何を使ったら良いのかがわからず不便に感じてしまうことがあります。
Power BIに関する知識やノウハウがゼロだと操作が難しい
Power BIはノンプログラミングで扱えますが、スムーズに扱えるようになるには知識や操作の習熟が必要です。よってITに関して最低限のリテラシーを備えているというだけの人は、時間がかかってしまいます。
原因として、指標や機能名などがエンジニアやデータアナリストなどある程度専門知識がある人向けになっていることが挙げられます。最低限のITリテラシーを備えると同時にPower BIに対する習熟をしないと使いこなすことはできません。
Power BIの3つの料金プラン
Power BIを利用するためにはライセンスが必要です。ライセンス契約には以下の3プランが用意されています。
ライセンス | 金額 | 高度なAIとの連携 | 最大ストレージ容量 |
---|---|---|---|
Power BI Pro | 1ユーザーにつき1,090円/月 | なし | 1ユーザーあたり10 GB |
Power BI Premium ユーザー単位 | 1ユーザーにつき2,170円/月 | あり | 100TB |
Power BI Premium 容量単位 | 543,030円/月~ 営業担当と相談 |
あり | 100TB |
Power BI Pro|1,090円/月・ユーザー
Power BI Proは個々のユーザーにライセンスを与えるプランです。Power BI ProはMicrosoft 365 E5にも含まれています。表を見ていただくとわかる通り、Premiumプランと比べると高度なAIとの連携機能がありません。またPremiumプランよりも最大ストレージ容量が小さいです。ただし、Power BI無料版ではできないレポートの共有やアクセス制御が可能となっています。
Power BI Premium|2,170円/月・ユーザー
Power BI Premiumのユーザー単位のプランです。
Power BI Proプランではできない、高度な AI 分析やビッグ データから取り出したデータの加工ができます。接続データの自動更新回数や1レポートに含められるデータソースの容量もProより優れています。それ以外にもProプランでできることは全て実施可能です。
後述するPremiumのストレージ容量単位のプランとはストレージの合計容量が異なります。全ユーザーでの合計容量が最大で100TBまでです。
Power BI Premium|543,030円/月・組織
Power BI Premiumのストレージ容量単位のプランです。1組織が100TB単位でプランを契約することができます。つまり契約によっては100TBを超えるストレージ容量も実現可能です。
それ以外の点ではPremiumユーザー単位プランと大差はありません。よってどちらかを選択する場合は、必要なストレージ容量と料金を比較して決めることになります。
【簡単3ステップ】Power BIの使い方
Power BIの利用を開始するための使い方を紹介します。以下の3ステップで実施可能です。
- Power BIをインストールする
- 「Excelからデータをインポートする」からファイルを読み込む
- レポート作成画面でグラフを作成する
1.Power BIをインストールする
Microsoftの公式サイトにあるPower BIの無料版をインストールします。Microsoftのダウンロードセンターへ進み、言語を選択してダウンロード、インストール作業を行ってください。
インストール時にはMicrosoftアカウントが必要になります。
なおこちらはPower BIのデスクトップアプリとなるため、MacOSではダウンロードできてもインストールができませんのでご注意ください。
2.「Excelからデータをインポートする」からファイルを読み込む
Power BIをインストールできたらExcelファイルを読み込んでみましょう。以下の手順でファイルのインポートを実施できます。
- 上部バーの「ファイル」を開く
- 左の列から「インポート」 をクリック
- 右側のウィンドウに「インポート」と表示されたら「Power Query、Power Pivot、Power View」をクリック
- ウィンドウが立ち上がるので、インポートしたいファイルを選択
- 「Excelブックコンテンツをインポートする」の画面で開始をクリック
- 「移行が完了しました」と表示されたらインポートが完了、「閉じる」をクリック
3.レポート作成画面でグラフを作成する
Excelの読み込み完了後は、空のレポートウィンドウが起動します。読み込んだデータを利用してグラフを作成してみましょう。
ウィンドウの右側にある視覚化ツールから好きなグラフを選択し、ドラッグ&ドロップしてください。グラフアイコンの下には「軸」や「値」などメトリクスを入れるボックスがあります。任意の文字列を入力するとグラフに入力が可能です。
ほかにも複数のグラフをセットしたり、ポイントを解説するメモを入力したりすることでレポートが完成します。
【活用例】Power BIを導入した企業の事例4選
Power BIを導入した活用例を以下の4つの企業について紹介します。
- 集英社
- 鹿島建設
- パソナ
- 経済産業省
集英社
集英社はPower BIを用いてAzureのデータベースに蓄積したデータを分析し、今後の取り組みに活かすことを目指しています。紙の書籍であれば販売数を集めるべきデータは限られていました。しかし電子書籍やオンライン書店など、インターネット上のサービスが増えた結果、無料キャンペーンの効果など集めるべきデータも増えています。
集英社は以前からMicrosoft製品を利用していました。そこでAzureとPower BIを導入、連携させ、以前から利用していたツールを活かして、データの分析、今後の取り組みにつなげられています。
参考:Microsoft
鹿島建設
鹿島建設はPower BIを用いて、社員との情報共有にかかる時間を大幅に削減しました。
建設業は1000人規模の社員や作業員が同じ現場で働くこともあります。大人数がいる現場で「言った、言わない」が問題になると作業に大きく影響するため、Teamsでの情報共有を取り入れました。さらに図面の作成や進捗確認は、Teamsと連携させたPower BIにより、作業員の入力に合わせて自動で可視化できるシステムを構築し利用しています。
オフィスワークで利用されるイメージが強いPower BIですが、作業現場でも利用されており業務効率化に貢献しています。
参考:Microsoft
パソナ
パソナはPower BIを用いてDX人材の育成プログラムを実践しています。パソナでは従来、事業の継続性を高めるためにDXを重要視していました。人材の経歴やスキルに関わらず、DX人材を育成する必要性を感じプログラムを取り入れています。
プログラムにPower BIを用いた理由はノンプログラミングであることでした。文系出身の営業職の社員でも利用しやすいこと、またMicrosoft側のサポートが手厚いこともPower BIを選択した理由となりました。
多くの社員が満足する結果となり、プログラムの中で作成したツールが現場に活かされるなど成果も少しずつ出てきています。
参考:Microsoft
経済産業省
経済産業省は膨大な数の行政手続きをスムーズに運用するためにPower BIを取り入れました。行政手続きは数多くあるため、一つひとつに対するシステムを個別に開発することは困難でした。その理由として、1つのシステム開発に1年近くかかるなど、時間がかかりすぎてしまうことが挙げられています。
Power BIを導入以降は、システム化をノンプログラミングで行えています。そのため、開発技術を持ち合わせていない担当者でも比較的簡単に開発できるようになりました。結果としてオンライン行政手続のプラットフォーム である「gBizFORM」などを利用できるようになりました。
参考:Microsoft
Power BIを有効活用するためには?
すべてのBIツールを活用するにあたって共通していることは、まず分析するためのデータを用意したり、データの信頼性を担保することが大切です。データ分析には当然データが必要なわけですが、これを収集するだけでもかなりの労力でしょう。実際にデータ分析に取り組んでいるのはよいものの、データ収集に時間がかかってしまい何週間も前のデータを参照したレポートを読んでいる、というケースは少なくありません。
その点を考えるとPower BIは非常に優秀です。Power BIはExcelや会計システムはもちろん、SalesforceやOracleなどのソフトウェアまで、どんなデータもチャートやグラフに変換し、今この瞬間会社がどうなっているかを教えてくれます。つまり経営者は、常に最新のデータを見つつ会社の舵切りができるというわけです。
ただし1つ問題があります。それは、部門ごとに分断化されたシステム環境ではやはりデータ収集や加工に時間がかかるため、Power BIの分析スピードを活かしきれないということです。
総務・人事部門には財務会計システムや人事管理システム、経理部門には会計システム、営業部門には顧客管理システム、製造部門には生産管理システムといった具合に、昨今のシステム環境は部門ごとに最適化されており、それ故にシステム同士が連携を取れていないケースが多いでしょう。
こうしたシステム環境は各システムが分断されているため、データの統合が難しく必然的にデータ収集のスピードが遅くなります。そのためPower BIの分析スピードを活かしきれない可能性があるのです。
そこで検討していただきたいのが「統合的なアプリケーション環境」です。これを一般的にERP(Enterprise Resource Planning)と呼びます。ERPはもともと人やモノやカネといった全体的な経営資産を管理して、経営の最適化を図るための概念です。ただしこれをシステム化したものもERPと呼ばれています。
ERPを導入することで企業は統合的なシステム環境を構築したことになります。データベースは統一されてすべてのシステムが1つに繋がるので、わざわざデータ収集をする必要もデータを加工する必要もありません。そこにPower BIが接続されていれば瞬時にデータ分析を開始できます。
ERPやCRMを検討する際はぜひ「Dynamics 365」にご注目ください。マイクロソフトが提供するクラウド型ERPであり、Power BIとの親和性によって企業のデータ活用ビジネスをさらに促進させます。Dynamics 365とPower BIがあれば経営者だけでなく従業員も会社の状況を常に把握して、日々のビジネスを遂行できます。
まとめ
Power BIはMicrosoftが提供するBIツールです。Power BIを用いることで、連携させたデータベースやファイルからデータを加工、分析し、企業として次のアクションを促しやすくなります。またノンプログラミングで利用できることから、技術者でなくても比較的簡単に利用することが可能です。多くの企業で「ノンプログラミングであること」や「Microsoft製品との連携がしやすいこと」を理由にPower BIが導入されており、私たちユーザーが利用する多くのサービスの裏で活躍しています。