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小売業の経営を加速する電子レシートとは?その実態とメリット

ここ最近の小売業界での話題と言えばキャッシュレス対応ですが、次に来ると期待されているのが「電子レシート」です。これまで紙だったレシートを電子化することで、小売業の経営が効率化され加速すると言われています。そこでこの記事では、電子レシートの機能や導入事例、メリットとデメリットなどを詳しく紹介します。

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電子レシートとは

電子レシートは文字通り、紙のレシートを電子化したものです。買い物をした時の情報がデータとなり、会計をした後にスマートフォンなどの端末のアプリで受け取るという機能があります。近年では官民が一体となって、電子レシートの普及に向けた活動がされており、2018年に行われた経済産業省の標準化実験は、日経新聞のニュース記事などで大きく報じられました。

ところで、どうして電子レシートは多くの人の関心を集め、企業に限らず政府をも巻き込んだ積極的な普及活動がされているのでしょうか。それは、電子レシートが一般に広く浸透すれば、レシートを発行する販売者とレシートを受け取る消費者の双方に、大きなメリットが生まれるからです。

普段、会計時に受け取る紙のレシートは、多くの場合、そのままゴミになってしまいます。しかしこれを電子化すれば、ゴミになってしまうだけの紙とは違い、多くの付加価値を付けることが可能です。そもそもオンラインで何か買った場合に、紙のレシートは発行されません。ネットショップが広まり、一般の店頭でもキャッシュレス決済が増えている今、販売側にも消費者側にも、デジタルに対する後ろ向きの姿勢は薄れています。

電子レシートは、買い物をした時にバーコードを読み取り、顧客のスマホアプリにレシートを発行するという非常にシンプルな仕組みです。しかしそこには多くのビジネスチャンスの芽があるのです。

電子レシートのメリット

電子レシートのメリットと言っても、消費者側と販売者側とでは、異なる視点が生まれます。そこでそれぞれにどんな利点があるのかを説明します。

消費者側への電子レシートのメリット

消費者が感じる最大のメリットは、やはり無駄な紙のレシートを無くせることでしょう。財布の中がスッキリして、かさばることがありません。紙で受け取ってしまうと、定期的にレシートの整理が必要になります。

また情報は全てアプリの中に入ってくるので、いつでも確認することができます。クレジットカードで何を買ったかも分かりますし、家計簿につけようと思った時にレシートの紛失に気付いて慌てることもありません。そもそも紙でもらったレシートは、誰かが入力しないと家計簿に反映されません。しかしデータでスマホに入ってくれば、そこから家計簿アプリに連携させることも可能です。他にも、返品の際には買った時のレシートを求められますが、そうした場合も安心ですし、会計時にレシートの印刷で待たされる時間も減るでしょう。

これだけでも沢山のメリットがあることが分かりますが、電子化の恩恵は他にもあります。例えば、レシートに店舗やメーカーが実施するキャンペーンの方法を表示し、そこから応募するという使い方もできます。これまでは対象商品に付いているバーコードを読んだり、シリアルコードを入力したり、シールを集めたりするなど、多くの手間が必要だったキャンペーンへの応募が、レシートから簡単に出来るようになります。

同様に、クーポン機能を付けてお得な買い物をすることも可能です。これまでもSNSやニュースアプリ、店舗のアプリやLINEなどでクーポンを入手する事は出来ましたが、それよりも電子レシートに全てが集約された方が便利でしょう。もちろん、お店のスタンプを貯めるポイントカードとしても使えます。

小売業者側への電子レシートのメリット

次に、小売業者にとってのメリットについて見ていきましょう。「紙をなくす」ということは、販売者側にとっても有意義です。紙のレシートを出力するためには、専用の機械(レジ)や紙が必要になります。日本で年間に使用されるレシート用の紙の量は、実に約5.4万トンにも達します。これはA4のコピー用紙に換算すると135億枚。実際にレシート用紙として使った場合、地球をなんと378周もしてしまう長さになります。そこに掛かる経費も960億円と莫大です。もちろんレジの印字部分が故障すれば、修理代もかかってきます。電子レシートを導入すれば、こうしたコストを削減できます。

削減できるのは経費だけではありません。用紙が切れた時には手動での交換作業が発生するため、余計な時間がかかります。人件費もかかりますし、レジを止めるために顧客を待たせることになって、迷惑を掛けてしまいます。それに比べて電子レシートならば、会計にかかる時間を節約できるので、レジの混雑回避や人件費の削減などにも繋がります。

そして小売業者側のメリットとなるのは、コスト削減以上に売上を伸ばす施策を打てることです。消費者側のメリットと表裏一体となりますが、キャンペーンやクーポン、スタンプカード機能を活用することで、来客や売上を増やす施策が簡単に打てます。しかも広告などで闇雲にばらまくのではなく、来店して商品を買った人が対象ですから、反応率も高くなることが想定できます。

実際に蓄積された購買データと顧客を紐づければ、より効果的なマーケティング活動も可能です。これまでこうしたアプローチは資本の大きな企業が独自にシステムを構築する必要がありましたが、電子レシートならばキャッシュレス決済と同様、安い料金、場合によっては無料で使える可能性もあるでしょう。中小の小売業者にとっては大きなチャンスの到来です。

電子レシートのデメリット

とはいえ、電子レシートが普及することにはデメリットも伴います。ここでは、電子レシートが普及するデメリットを、消費者側と販売者側にわけて説明します。

消費者側への電子レシートのデメリット

まず消費者側から見た場合の電子レシートのデメリットを考えましょう。最も懸念されるのはセキュリティの問題です。電子レシートを使う場合は、自分の買った商品と値段、お店や時間の情報がネットワーク上を流れます。それが第三者に漏洩してしまうと、どこで何を買ったかの個人情報が盗まれます。

また、そうした情報をスマホのアプリで気軽に見られるのが電子レシートのメリットですが、他のアプリと同様、スマホ自体を家族や友人など、身近に人に見られてしまう危険があります。これは不法なハッキングではありませんが、むしろ誰もが注意しなければならない事でしょう。電子レシートの普及のためには、こうしたセキュリティの問題も考えていく必要があります。

小売業者側への電子レシートのデメリット

最後に、小売業者のデメリットについて取り上げましょう。小売業者が電子レシートを発行するには、電子レシートに対応したレジを購入する必要があります。データを顧客のスマホに送るためには、インターネットに接続する必要があるからです。特に増税対応などで買ったばかりのレジを使っているお店の場合、かなり負担感が強まるでしょう。

この点については、同じデジタル化で先に普及していったキャッシュレス決済が参考になるかもしれません。普及のスピードを高めるため、本来コストのかかる部分を無料や割引料金で提供し、数を増やすことで単価を下げていく施策が考えられます。また国がこれだけ力を入れているので、行政からの補助金も期待できるかもしれません。

電子レシート実験事例

冒頭で、国も電子レシートの導入に積極的であるとご説明しましたが、ここで実際に行われた実験事例について、ご紹介をしてみましょう。導入実験は2018年から本格的に始まっていますが、とくに大きな注目を集めたのが、2月に行われた町田市での経済産業省の導入実験と、東芝テック株式会社が9月に実施した沖縄での導入プロジェクトです。これらの実験では「実際に電子レシートが発行された場合に消費者がどのような行動を取るか」、「利用者のデータをどの程度有効に活用できるか」などが調べられました。

町田市での導入実験

2018年2月13日から2月28日、経済産業省と東芝テック株式会社による導入実験が東京都町田市で実施されました。この実験では市内にあるスーパーマーケットやミニストップ、東急ハンズなど27の店舗で電子レシートを発行し、期間中約2700名の協力を得て試験運用がされました。

この実験が注目を集めたのは、この実験の終了後に電子レシートの標準フォーマットができたことに理由があります。今後このフォーマットに準拠することで、メーカーや店舗が異なっても、電子レシートやレシートアプリが共通で使えるようになるからです。

また単なる技術的な問題の有無だけではなく、取得したデータをもとに、店舗側が有効な販促活動に繋げられるかどうかも試されました。また参加企業も富士通、NTTデータCCS、LINEやDNPなど、多くの企業が参画し、相互に運用できるかどうかも実験されたのです。その結果、実験後のアンケートで8割弱の人が「今後も電子レシートを受け取りたい」と回答、また7割弱が「標準フォーマットを採用した店舗で買物をしたい」と回答しました。

沖縄全域で行われた導入プロジェクト

同じく2018年、沖縄でも注目を集める導入プロジェクトが始まりました。町田の実験が2週間だったのに対し、このプロジェクトは9月12日から翌2019年の3月11日まで実に約6カ月間に渡る長期間。参加者も町田の10倍以上となる3万人を想定し、過去最大級の導入実験となったのです。

プロジェクトは町田の実験でも中心を担った東芝テック株式会社が沖縄県内の企業と連携し、県全域の47店舗で実施。「電子レシートによる沖縄主婦の生活利便性向上プロジェクト」と名付けられました。レシートは策定された標準フォーマットの規格に則り、通常の販売以外にも、イベントの集客や、店舗同士の相互送客など、多彩なキャンペーンも実施されました。

まとめ

電子レシートは導入実験が行われたばかりの新しい技術ですが、紹介したように既に規格の標準化も済んでおり、技術的な障壁は殆どありません。今後、キャッシュレス決済が進み、レジ周りのデジタル化が進むにつれ、導入する店舗や利用者が大きく増えることも予想されます。今後も注意深く動向を見守るようにしましょう。

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