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GX(グリーントランスフォーメーション)とは? 経済産業省の取り組みや事例も紹介

地球温暖化による気候変動や異常気象に対する解決策の一つとして、国際的な取り組みであるGXが提唱されており、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)の実現に向けて産学官が連携してこの難題に立ち向かっています。しかし、カーボンニュートラルとの違いや、GXが目指す姿と各社の取り組みについて正確に理解している方は少ないのではないでしょうか? 本記事では、GXでの取り組みや各社の具体的な取り組みについて分かりやすく紹介します。

GX(グリーントランスフォーメーション)とは? 経済産業省の取り組みや事例も紹介-01

GXとは?脱炭素社会に向けた経営戦略

「GX」とは Green Transformationの略称で、経済産業省が提唱する脱炭素社会に向けた取り組みを指します。GXはカーボンニュートラル実現のため、地球温暖化による気候変動や異常気象の加速を抑えることを目的としています。

経済産業省はカーボンニュートラルの実現を2050年までの目標としています。GXは、持続可能な社会の実現としてSDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択されたことをきっかけに、世界でも急速に取り組みが加速しました。

さらにGXでは、カーボンニュートラルによる環境保護だけでなく、これを契機とした経済成長の両立を目指す取り組みであることが大きな特徴です。

なぜ今GXが注目されているのか?

それでは、なぜ今GXが注目されているのでしょうか? ここでは、GXが注目されている4つの理由について紹介します。

  • 地球温暖化などによる環境問題
  • 国際社会のカーボンニュートラルへの転換
  • 政府の重点投資分野の1つになったこと
  • ESG投資市場の拡大

それぞれ詳しく見ていきましょう。

地球温暖化などによる環境問題

GXが注目されている理由の1つに、地球温暖化が引き起こす環境問題に対する人々の意識が高くなっていることがあります。近年では世界各国で、洪水・干ばつ・竜巻・山火事といった異常気象や自然災害が多発しており、これらが人々の生活に与える影響は深刻です。

さらに、人々の生活の安定を脅かすだけでなく、資源の損失や物流の途絶など国家の経済成長にも著しい損失を与えています。全世界で環境問題への早期解決が求められており、経済成長のためにも、環境問題の解決に注力すべきという考え方が強くなっているのです。

国際社会のカーボンニュートラルへの転換 

2015年のパリ協定で、カーボンニュートラルの実現に関する長期目標が掲げられました。これを達成するため、当時の二酸化炭素排出量が1位、2位であった中国、アメリカの協力が必要不可欠な状況であったにもかかわらず、当時の中国とアメリカは非協力的な姿勢をみせたことが原因で、施策は一時難航を極めました。

しかし、中国とアメリカが非協力的な態度をとる一方で、欧州諸国はカーボンニュートラル実現に向けて積極的に取り組み、技術力を高めながら世界をリードしていました。そして、欧州諸国にシェアを独占されることに危機感を覚えた中国とアメリカは態度を一変し、カーボンニュートラルの実現に積極的な姿勢を示すようになったのです。

こうして一時は難航を極めたものの、中国とアメリカの方針転換により、国際社会はカーボンニュートラルの実現に向けて大きく動き出しました。

政府の重点投資分野の1つに

日本国内でも2020年10月に菅首相が所信表明演説で、2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言しました。

さらに2022年6月には岸田首相が「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」 の中で、GXを「重点投資分野」の1つに位置付けたことで、GXは政府の重点投資分野の1つになりました。

GX実行会議を設置 

GX実行会議は、日本のグリーントランスフォーメーション(GX)を推進するために設置された会議で、2022年7月27日に菅義偉首相が設置を発表しました。

実行会議は内閣総理大臣が議長を務め、副議長はGX実行推進担当大臣と内閣官房長官、構成員は外務大臣、財務大臣、環境大臣、有識者です。実行会議ではGXの基本戦略や政策、投資計画などを策定します。また、GXの進捗状況を評価し、必要に応じて見直しを行います。

GXは、日本が持続可能な成長を実現するために不可欠です。実行会議は日本のGXを推進するために重要な役割を果たし、GXの成功に貢献することが期待されます。

経済産業省・環境省の取り組み 

経済産業省と環境省は、GXの実現に向けて脱炭素化を成長戦略の柱と位置付け、緊密に連携してさまざまな取り組みを行っています。

経済産業省

  • 2050年までにカーボンニュートラルを目指す「グリーン成長戦略」を推進
    この戦略では、脱炭素化に向けたイノベーションを促進するために、予算、税制、金融、規制改革など、あらゆる政策手段を総動員しています。

環境省

  • 脱炭素化先行地域の創出や、企業や地方公共団体の脱炭素化への支援
  • 循環経済への移行 など

具体的には、脱炭素型地域づくりのための新たな交付金の創設、プラスチックの排出抑制やリユース等の普及推進などを行っています。

ESG投資市場の拡大

ESG投資とは、

  • Environment(環境)
  • Social(社会)
  • Governance(ガバナンス)

のそれぞれの頭文字をとったもので、3つの要素から企業を評価し、個人投資家や組織がESGに配慮している企業への投資先を決める投資方法です。

このESG投資市場が、近年急拡大しています。2015年の世界全体の投資額は、662億ドルでしたが、2021年末には9,281億ドルへ拡大し、投資家の関心が高まっていることを裏付けています。

日本では2015年に、適切な情報開示など企業の行動原則をまとめた「日本版コーポレートガバナンス・コード」が策定され(2021年6月改定)、ESG投資に関してのルール整備が進められたことなどが市場拡大の要因とされています。

GXを取り入れるメリット

GXを取り入れることには、環境保護の他に企業側にもメリットがあります。ここでは、GXを取り入れることによるさまざまなメリットについて紹介します。

専門知識やスキルを持つ人材の確保

GXに取り組むことで、専門知識やスキルを持つ人材の確保が期待できます。現代の若者は環境問題に対する意識が高く、カーボンニュートラル実現に取り組んでいる企業に対する評価も高いです。そのため、就活生からも人気を得やすい傾向にあります。
就活生から人気になれば、優秀な専門知識やスキルを持つ人材が応募してくる可能性も高くなるため、企業は社員のレベルアップも期待できるでしょう。

企業ブランディングの向上

環境問題に真剣に取り組んでいる姿勢を示すことで、企業ブランディングの向上が期待できます。環境問題が私たちの生活や経済活動に与える影響は大きく、その環境問題の解決に注力すべきとの考え方が広がっています。

そのため、環境問題に取り組む姿勢をアピールすることで、国民から好印象を受けることができ、企業ブランディングの向上につながる可能性があります。

競争力の強化

GXに取り組むことで技術面における優位性が上がり、他社をけん制できる競争力強化が期待できます。GXを成功させるためには、サプライチェーン全体を巻き込んだ取り組みが必要です。

温室効果ガスの排出量を低減させるための技術力の他に、排出された温室効果ガスを除去するカーボンネガティブの技術力の向上も期待できます。これら技術は国境を超えた優位性になり、世界で戦える自社の強みになるでしょう。

コストの削減

自社の生産活動に必要な光熱費・燃料費を再生可能エネルギーなどに置き換えることで、コストの削減が期待できます。GXでは、温室効果ガス排出量の低減も重要ですが、温室効果ガスを排出しないという考え方も重要です。排出量の大きい化石燃料を、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーに置き換えることで、温室効果ガス排出量の大幅な削減が可能になります。

自社の生産活動に必要なエネルギーを再生可能エネルギーに置き換えることで、これまで他社から購入していたエネルギーを自社で賄えるようになり、コストの削減につながるのです。

企業と産学官が協働する「GXリーグ」

経済産業省は2022年2月に、カーボンニュートラル実現のための具体的な取り組みに関する議論の場として「GXリーグ」を発表しました。

GXリーグの参加者は、企業・政府・金融機関・大学といった研究機関で、産学官が一体となって協働してカーボンニュートラルを実現させることを目的の一つとしています。

経済社会システム全体の変革を目指す

カーボンニュートラルを実現するためには、産学官が一体となって連携する必要があり、私たちを取り巻く環境やライフサイクルの見直しも必要です。

そのため、現在の経済社会全体を巻き込んだ改革が不可欠であり、その観点からもGXリーグは「経済社会システムの変革」と位置付けられ、持続可能な社会と経済発展を両立させた世界の実現も目的の一つとしています。

参加企業に求められる3つの要件

GXへの参加企業には「自ら排出を削減するための取り組み」「サプライチェーンにてカーボンニュートラルを目指した取り組み」「製品・サービスを通じた市場での取り組みの実施」が求められます。それぞれ詳しく解説します。

自ら排出を削減するため取り組み

GXに参加する企業には、自らの排出削減の取り組みが求められます。参加企業は2050年のカーボンニュートラル実現に賛同するとともに、温室効果ガス排出量の削減目標の設定と、目標達成に向けた計画の策定が必要です。さらに、中間目標として2030年での削減目標と、自社の取り組み内容の公開も求められます。

サプライチェーンにてカーボンニュートラルを目指した取り組み

自社のみならず、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルの実現に向けて取り組むことが必要です。カーボンニュートラルは社会全体で向き合うことが重要であり、自社と自社を取り巻くステークホルダーを巻き込んだ取り組みが求められます。

例えば、部品製造時の温室効果ガス排出量の低減を求めたり、消費者にはカーボンフットプリントで環境問題に対する意識醸成を促したりして、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルの実現に向き合うことが重要です。

製品・サービスを通じた市場での取り組みの実施

グリーン製品の積極的かつ優先的な購入により、製品・サービスを通じた市場のグリーン化を促進させる取り組みが必要です。幅広いステークホルダーとの対話を通して得た知見を積極的に経営に取り入れることと、カーボンオフセット商品を市場に積極的に投入することで、消費市場のグリーン化を図ることが重要でしょう。

GXとDXの密接な関係性とは

GXとDXには密接な関係性があり、GX実現にはDXが必要不可欠です。ここでは、DXの紹介とDXがGXに必要不可欠な理由について紹介します。

デジタル技術を軸に新たな産業を生み出すDX

「DX」とは、Digital Transformationの略称で、デジタル技術を用いて革新的な新たなビジネス創出に向けた取り組みのことを指します。紙資料のデジタル化によるペーパーレス化や、業務プロセスのデジタル化による業務効率の改善、自社リソースの一元管理による最適化 など、AI/IoT技術を含むデジタル技術は幅広い分野での応用が期待されています。

GXを実現させるにはDXが必要不可欠

一見すると直接関係がなさそうなGXとDXですが、GXの実現にはDXが不可欠です。例えば、GXの取り組みの一つにデジタル化によるペーパーレス化がありますが、既にある紙資料をデジタル化する場合にはAI技術の1つであるOCR技術が必要不可欠です。

さらに、これからデジタル化を進めるものにおいても、決済資料であれば決済システムの構築、技術資料の保存であれば高いセキュリティーを持つサーバー構築などの高度なデジタル技術が必要です。業務プロセスの効率化、自社リソースの最適化においても同様に、デジタル技術との組み合わせが必須で、GXとDXは切っても切り離せない密接な関係なのです。

国内企業のGXへの取り組み事例

GXへの参加企業数は徐々に増えています。ここでは、これら国内のGX参加企業の具体的な取り組み事例について紹介しましょう。

日産自動車:新型車両を全て電動化へ

自動車業界では、温室効果ガス排出量の多いガソリン燃料から、排出量の少ない電気自動車などのエコカーへの転換が求められています。日産自動車はGXの取り組みとして、自動車のライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルの実現を目標に掲げ、新型車両を全て電動化する計画で、2兆円規模の予算を投じることを表明しています。

NTT:環境エネルギービジョンを策定

NTTは2020年5月に「環境エネルギービジョン」を策定し、自社の再生可能エネルギーの利用率を2030年までに30%以上に引き上げることを宣言しました。また、2021年9月には「NTT Green Innovation toward 2040」を新たに掲げ、従来の施策に加えて温室効果ガスの45%削減を目標に追加するなど、カーボンニュートラルの実現に積極的な姿勢をみせています。

東京電力:再生可能エネルギーへ主力電源化

電力業界はエネルギーの供給元として、石炭や石油などをはじめとした化石燃料に依存した発電から、クリーンエネルギーである再生可能エネルギーへ転向することが求められています。東京電力は、特に「ゼロエミッション電源の開発」と「エネルギー需要のさらなる電化促進」の両輪でグループの総力を挙げた取り組みを展開することを宣言しました。

海外企業のGXへの取り組み事例

次に、海外企業のGXへの取り組み事例について紹介します。

Apple:2018年自社電力を100%再生可能エネルギーへ

Appleは他社に先立ち、データセンターなどの企業運営に必要なエネルギーを風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーで賄っている企業の一つです。さらに、自社事業だけでなく、製造サプライチェーン・製品ライフサイクル全てを通して、2030年までに気候への影響を実質ゼロ(ネット・ゼロ)にすることを目指すと宣言しています。

Amazon:TheClimatePledgeを設立

AmazonはAppleと同様、2040年までの気候への影響を実質ゼロにすることを目的に、「The Climate Pledge」設立に調印しました。The Climate Pledgeはカーボンニュートラルによる気候変動ゼロを目指す最先端組織として、IBMなどのグローバル企業とともに世界をけん引しています。

Microsoft:カーボンネガティブを掲げる

Microsoftは温室効果ガス排出量を低減する他に、温室効果ガスを除去するカーボンネガティブの開発に取り組み、これらを組み合わせてカーボンニュートラルを実現しようとしています。カーボンネガティブに関するテクノロジーの開発や加速に向けて、2020年からの4年間で10億ドルの投資を表明しました。

企業がGXに取り組む際に活用できる2つの補助金

GX(グリーントランスフォーメーション)とは? 経済産業省の取り組みや事例も紹介-02

GXに取り組む企業は、設備投資や技術開発に多額の費用がかかりますが、国や地方自治体では、GXを支援する補助金制度を用意しています。

ここでは、企業がGXに取り組む際に活用できる2つの補助金について紹介します。

ものづくり補助金(グリーン枠)

「ものづくり補助金」は、中小企業の環境負荷を軽減する製品やプロセスを開発するための支援制度で、環境省が実施しています。「グリーン枠」と呼ばれる部門では、環境負荷を軽減する取り組みに対して補助金を支給することが可能です。

具体的には、省エネルギー技術や再生可能エネルギー技術を利用した製品やプロセスの開発に取り組む企業が対象となります。補助金は最大で2,000万円まで支給され、補助率は最大で3分の2です。

補助金の申請には事前審査があり、プロジェクトの内容や計画書の提出が必要です。ものづくり補助金を活用することで、企業は環境に配慮した製品開発に取り組み、市場拡大につなげることができます。

項目 要件
概要
  • 温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービス開発または炭素生産性
  • 向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備等を支援
補助金額
(スタンダード)
5人以下・・・1,000万円以内
6~20人・・・1,500万円以内
21人以上・・・2,000万円以内
補助率 2/3以内
補助対象経費 機械装置・システム構築費(リース料含)、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費など

参考:ものづくり補助金

事業再構築補助金(グリーン成長枠)

「事業再構築補助金」は、中小企業の事業の転換・再生を支援するための補助金制度で、経済産業省が実施しています。「グリーン成長枠」と呼ばれる部門では、企業が環境負荷を低減するための投資や施策に取り組む場合に、補助金を交付します。

例えば、省エネルギー施設や再生可能エネルギーの導入、環境負荷を低減する設備投資や製品開発に対して支援が受けられます。補助金の支給額は最大で1億5,000万円で、補助率は最大で3分の2です。

事業再構築計画の提出や事前審査など、申請には一定の条件があります。この補助金は、企業が環境に配慮した事業の転換・再生に取り組むための財政支援を受けることができるため、環境に配慮した事業戦略を展開する上で有用です。また、環境に配慮した取り組みは、CSR活動においても重要なポイントとなります。

項目 要件
概要
  • 事業計画について認定経営革新等支援機関の確認を受けること
  • 付加価値額を向上させること
  • 取り組む事業が、過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上拡大する業種・業態(※)に属していること
  • 事業終了後3~5年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させること
補助金額
(スタンダード)
中小企業・・・上限1億円
中堅企業・・・上限1.5億円
補助率
  • 【中小企業】
    1/2
    (大規模な賃上げを行う場合 2/3)
  • 【中堅企業】
    1/3
    (大規模な賃上げを行う場合 1/2)
補助対象経費 機械装置・システム構築費(リース料含)、技術導入費、専門家経費、運搬
費、クラウドサービス利用費など

参考:事業再構築補助金

まとめ

本記事では、GXが環境保護と経済成長の両立を目指した国際的な取り組みであることと、国内外を通してさまざまなグローバル企業がカーボンニュートラルの実現に向けた活動を実施していることについて、具体的に紹介しました。

パリ協定でのカーボンニュートラルの実現は2050年としていますが、計画前倒しで取り組む企業もあり、環境保護に対する意識は年々高くなっています。

しかし、重要なのはこれを人ごととは思わずに私たちにできることを日々考え、行動することです。これからの私たちの行動が、数十年後の地球の運命を握っているといっても過言ではありません。より良い環境と経済の恩恵を受けるために、これからもカーボンニュートラルについてアンテナを高く持って行動していきましょう。

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