現代社会では、データを活用した効率的な管理や新たな価値の創造が注目されています。その中心にある技術が「センシング」です。
本記事では、センシングとは何か、その種類や特徴、導入によるメリット、課題について解説し、具体的な活用事例を紹介します。センシング技術の導入を検討している企業は、ぜひ参考にしてください。
センシングとは何か?
センシングとは、検知器や感知器、測定器などを用いて測定対象の定量的な情報を取得する技術です。 英語で「感覚」や「感知」を意味する「sense」を現在形にした「sensing」に由来しており、日本語では「感知機能」や「センサー機能」と訳されています。電流センサー・照度センサーなど、センシングデバイスを活用して得たさまざまな情報を定量化するのがセンシングの役割です。
センシング技術の種類と特徴
センシング技術は、多様な用途に応じて発展を遂げています。その中でも特に注目されているのが 「スマートセンシング」 と 「リモートセンシング」 です。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
①スマートセンシング
スマートセンシングとは、 従来のセンサー技術にAIや IoT を組み合わせ、データ取得と同時に分析や判断が可能になる技術 です。この技術の特長は、リアルタイム性と高度な予測能力にあります。
例えば、ビル管理システムでは、温度や湿度を検知し、照明や空調を最適に調整する仕組みが広がっています。 製造業 においても、設備の異常を事前に検知するシステムが導入され、コスト削減につながっています。これにより、業務効率の向上やトラブルの防止が実現するでしょう。
スマートセンシングは、単なるデータ計測を超え、取得した情報をもとに即座に対応する仕組みが大きな強みです。
②リモートセンシング
リモートセンシングは、 物理的な接触を必要とせず、遠隔から対象の情報を取得する技術 です。代表的な例として、人工衛星やドローンを用いた地表データの収集が挙げられます。
この技術は、広範囲にわたるデータを効率よく取得できる点で多くの分野に貢献しています。農業では、作物の健康状態を遠隔で監視することで、適切な施肥や散水が行えるようになっています。さらに、気象予測や災害対策、環境保護の分野でもその価値は高いといえるでしょう。
リモートセンシングは、地球規模の課題に対応するために欠かせない技術であり、今後もさらなる発展が期待されています。
センシング技術導入のメリット
センシング技術の導入は、さまざまな分野で効率化や生産性の向上が期待できます。ここではセンシング技術を取り入れることによるメリットを解説します。
管理設備の効率化ができる
センシング技術を用いるメリット1つ目は、管理設備の効率化が大きく進むことです。例えば、建物や工場内に設置されたセンサーが、 温度や湿度、振動、電力使用量などをリアルタイムで監視 します。異常値を検知すると 自動でアラートを送信 することで、迅速な対応が可能となります。
これにより、設備の故障を未然に防ぎ、ダウンタイムを大幅な削減が可能です。また、これらのデータを分析すれば、運用の無駄を削ぎ落とし、エネルギーコストの最適化にもつながります。
設備管理の効率化は、企業の業務負担を軽減し、作業現場全体の安全性を高めることにもつながるでしょう。
生産性を向上できる
センシング技術導入の2つ目のメリットは、生産性を向上できる点です。
例えば製造業では、センサーを用いて各設備の稼働状況や生産ラインの流れをリアルタイムで把握することで、 ボトルネックの解消が可能 です。また、予兆保全システムによる設備の 異常検知 が、 計画外の停止を防ぐ 一助となるでしょう。
さらに、農業においては、作物や土壌の状態を定量化して管理することで、 収穫量の向上と品質の安定 を図ることができます。こうしたセンシング技術の活用は、人手不足や生産コスト増加といった課題に対する有効なソリューションとなり得ます。結果として、業務効率の改善とともに、企業全体の競争力が高まるでしょう。
センシング技術の今後の課題
センシング技術の進化は目覚ましい一方で、解決すべき課題も残されています。
特に「古いデータの収集」と「データを活用できる人材の不足」については、今後の重要な課題となっています。
古いデータの収集
センシング技術の有効性を最大化するには、高品質で適切なデータの蓄積が不可欠です。しかし、多くの業界で課題となっているのが「古いデータの収集と統合」です。
従来のセンサーやアナログ方式で収集されたデータは、新しいデジタルシステムと互換性がない場合が多く 、活用が進みにくいのが現状です。例えば、製造業では旧型の設備が生成するデータを十分に収集できず、デジタル化に対応できないケースが散見されます。
データを活用できる人材が不足
センシング技術の普及が進む中で、収集したデータを的確に分析し、具体的な価値を引き出せる人材の不足が深刻な課題となっています。
高度な解析には、データサイエンスやAIに関する専門知識が求められる ため、これに対応できる人材の育成が急務です。例えば農業や医療分野では、センシングによって得られる情報を効率よく処理し、現場で活用できるスキルを持った人材が不足しています。
企業や教育機関が連携し、データ活用を担える人材育成の取り組みを加速させることが重要です。
センシングの活用事例を紹介
実際に、センシング技術はどのような分野で活用が進んでいるのでしょうか。ここでは、農業・自動車産業・製造業界・医療機関・ロボット工学の各領域におけるセンシング技術の導入事例を紹介します。
農業におけるセンシング
テクノロジーの進歩に伴いさまざまな産業が発展していく一方で、農業の分野においてのデジタル化は断片的にしか進んでいません。農業従事者数は年々減少し続け、国内の農業構造そのものが衰退傾向にある中で、生産体制に大きな変革をもたらすスマート農業に注目が集まっています。
農業の分野では、時間と労力の削減を目的にセンシング技術の導入が進められています。 自宅や事務所から現地の温度・湿度・照度を定量化して判断につなげれば、いくつもある田畑へ足を運ぶことなく素早く状況を確認できるでしょう。作業の効率化が推進されれば、 将来的な省人化も実現に導けます。 農作物や土壌の過去のデータを分析して得た結果から、 効率よく品質の高い農作業を行うことも可能です。 農林水産省は、このような生産体制を「農業DX構想」と定義しています。
自動車産業におけるセンシング
ガソリン車の新車販売終了の方針策定や、2050年カーボンニュートラル宣言によるEV化の推進、運転支援システムから自動運転システムへの進化など、自動車産業には大きな変革が訪れようとしています。自動車の自動運転を実現する上で、重要な役割を担っているのがセンシング技術です。
自動運転に使われるセンシング技術には、 目の機能を果たすカメラをはじめ、対象までの距離と方向を測定・検出するミリ波センサーやLiDARといった高度なセンシング技術が用いられています。 自動運転の実用化が進めば、 市場や経済の活性化だけでなく、運送業におけるドライバー不足の問題も解決できるかもしれません。
製造業におけるセンシング
2012年にドイツ政府主導のもと「 インダストリー4.0 」が提唱され、製造業界ではIoTやAIの活用による生産体制のデジタル化が進展しています。 生産設備とIoTやAIといったテクノロジーが融合した工場は「 スマートファクトリー 」と呼ばれ、さまざまなセンシング技術が取り入れられているのです。
製造ラインや、生産設備などの稼働状況を把握するためにセンサーを設置し、各生産プロセスのデータを収集することで、工場全域のプロセス管理を最適化します。スマートファクトリーの実現は、 設備保全の省人化や検品・検査の高度化、人員配置の合理化やヒューマンエラーの減少により、業務効率化と品質の向上による顧客満足度アップ などのメリットが期待できるでしょう。
医療におけるセンシング
人生100年時代といわれる現代では、病気の早期発見が重要となりつつあります。体表に装着する ウェアラブルデバイスにセンシング技術を搭載し、健康状態を可視化できるようにしておけば、心拍数や血圧、血糖値などの連続測定が可能です。 搭載されたセンサーが身体の異常を検出して病気を早期発見できるようになると、早期に治療を開始できます。
医療分野におけるセンシングは 身に着けるタイプのウェアラブルデバイスだけでなく、心臓疾患を抱える患者に植え込むペースメーカーにも使われています。 また、X線やCT、MRIの画像検査においてもセンシングは活用されており、肉眼では捉えられない情報を定量化してより鮮明な画像を生成し、質の高い医療サービスの提供につなげているのです。
ロボット工学におけるセンシング
製造業では、ロボット工学の領域でセンシング技術を取り入れる事例が増えています。 近年メーカーの製造現場では、無人搬送車や工業用ロボットなどを導入して業務効率を上げる取り組みが進められています。ロボティクスで精密機器の部品を組み上げるには、振動の制御や位置の補正といった細かい動作性能が不可欠です。これまで オペレーターの経験に依存してきた稼働中の微調整も、センシングで定量化すればスムーズに最適化が図れるでしょう。
また、 AI技術の進化とともに普及していくと予測されているのが家庭用のロボットです 。すでにロボット掃除機のようなハイテク家電が普及しつつあり、将来的には人々の暮らしを支えるあらゆるモノが、IoTやAIとつながる未来が到来するかもしれません。こうした技術革新が進むとともに、センシング技術の需要はますます拡大すると見られています。
広告業界におけるセンシング
センシング技術は、広告分野でも導入が進んでいます。その 一例として挙げられるのが、ディスプレイなどを設置して情報を発信するデジタルサイネージの領域です。 商業施設や店頭に設置したデジタルサイネージにセンシング技術を用いると、 時間帯や天候などに合わせて最適化された広告を表示できる ため訴求効果の高い広告を打ち出せます。
センシング導入における代表的な課題
センシング技術を導入する際、データの収集から活用に至るまでさまざまな課題が存在します。ここでは、3つの代表的な課題を解説します。
データの収集方法
センシング技術を効果的に運用するためには、適切なデータ収集方法を確立することが重要です。 課題としてよく挙げられるのが、センサーの設置場所や数の最適化 です。
例えば、工場内で設備の状態をモニタリングする場合、 センサーの配置が不十分だと、必要なデータを網羅的に取得できない 可能性があります。一方で、 センサーの数が多すぎると運用コストが膨らむ という問題も生じます。また、収集データの質を担保するには、外部環境の影響を最小限に抑えるような設置方法が求められるでしょう。
こうした課題に対応するためには、導入前に十分なシミュレーションや環境調査を行うことが欠かせません。
収集対象のデータは何か
センシング技術を導入する際には、収集対象のデータを明確に定義することが必要です。しかし、 どのデータを取得すべきかが曖昧なままでは、無駄な情報を蓄積してしまい、分析にかかる負担が増える リスクがあります。
例えば、農業分野では作物の健康状態を判断するために、気温、湿度、日照時間など複数のデータが求められますが、これらの中で 特に重要な指標を絞り込むことが課題 となります。
また、業界や用途に応じて必要なデータは異なるため、目的に応じた収集項目を正確に特定することが不可欠です。このプロセスを慎重に進めることで、効率的かつ価値の高いデータ運用が実現するでしょう。
収集後のデータはどう生かすか
収集したデータをどのように活用するかは、センシング技術の導入成功を左右する重要な要素です。課題としてしばしば挙げられるのは、 収集したデータの膨大さに対処するための適切な分析手法の選定 です。
データを分析するためには、 AIやビッグデータ解析ツールを導入する必要があります が、それに対応できる体制を整えるのは容易ではありません。
例えば製造業では、センサーから得たデータを活用して設備のメンテナンスを最適化することが可能ですが、これには分析結果を現場で適切に反映するためのプロセス設計が欠かせません。
センシング活用にあたるポイント4選
センシング技術を最大限活用するために抑えておくべき4つのポイントについて解説します。
センシングの目的を明確にする
センシング技術を導入する際には、まずその目的を明確にすることが重要です。目的が不明確なままでは、 適切なセンサーの選定やデータ活用の方向性が定まりません 。
例えば、工場の生産効率を向上させるために導入する場合、生産ラインのボトルネック特定をゴールに設定するのが効果的です。
目的を具体的に設定することで、データ収集から分析、活用までのプロセスがスムーズに進むため、初期段階での計画が成功の鍵を握ります。
適切なセンサーの選定
目的に合ったセンサーを選定することは、センシング技術の活用効果を左右する重要な要素です。
例えば、温度や湿度を測定したい場合には、耐環境性の高いセンサーが必要です。また、自動車の自動運転システムにおいては、LiDARやミリ波レーダーなどの高精度センサーが求められるでしょう。
一方で、 選定を誤ると、収集したデータが目的に適さない結果となり、無駄なコストが発生 します。
センサーの精度、感度、耐久性、コストのバランスを考慮し、使用環境に応じた選定を行うことが、成功への第一歩です。
良質なデータ収集
センシング技術を効果的に活用するには、良質なデータ収集が欠かせません。そのためには、 センサーの設置方法やデータ収集頻度などの環境構築が重要 です。
例えば、製造業では、振動センサーを設備の適切な位置に取り付けることで、機器の稼働状況を正確に把握できます。また、データの収集頻度を設定する際には、リアルタイム監視が必要か、定期的なモニタリングで十分かを判断することが求められます。
データの質を確保するためには、収集プロセスでのノイズ除去や、データ損失を防ぐシステムの整備も重要です。
効果的なデータ解析
収集したデータを活用するためには、効果的な解析プロセスの構築が必要です。 ビッグデータ解析やAI技術を導入することで、大量のデータから価値ある情報を抽出できます。
例えば、製造業では、収集したデータをもとに予兆保全を実施し、設備の故障リスクを未然に防ぐことが可能です。また、医療分野では、患者の健康データをAIで分析し、診断の精度向上につなげています。
データ解析は単なる技術だけではなく、適切な分析スキルを持つ人材や明確な目標設定が必要です。これにより、収集データが実際の課題解決に直結するでしょう。
センシング技術で新たなイノベーションを創出する未来
デジタルテクノロジーの進展に伴い、ロボットやIoT、AIといった先進技術がさまざまな場面で活用されるようになりました。第4次産業革命を迎えた現代では、 経営層が生産性の向上といった課題にいかに取り組んでいくかが経営力に直結してくる と考えられています。日本社会の人口減少と少子高齢化による影響は、避けて通れない課題です。このような時代の中で、 企業がイノベーションを創出し、市場における競争優位性を確立するためには最先端テクノロジーの活用が不可欠 といえるでしょう。
IoTやAIの発展により、これまで手間を必要としてきたあらゆる作業が簡単に自動化できるようになっています。次々と新たな常識が生み出されるようになると、従来では思いつかなかったような発想を得る機会もあるかもしれません。 急速に進化する最先端テクノロジーが、社会にどのような影響を与えるかをよく学んで模索すれば、新規事業や新たなビジネスモデルが見えてくるはずです。
まとめ
センシング技術は、データの取得・分析を通じて効率化や生産性向上を実現する重要な手段です。本記事では、センシング技術の種類や特徴、導入のメリットから課題までを詳しく解説しました。
スマートセンシングやリモートセンシングをはじめとする技術は、製造業や農業、自動車産業、医療など多くの分野で活用されています。一方で、データ収集方法や人材不足といった課題を解決する必要性も指摘されています。
センシング技術を効果的に導入するには、目的の明確化、適切なセンサー選定、良質なデータ収集環境の構築、そして解析能力の強化が重要です。これらを踏まえ、センシング技術を活用することで、企業や社会全体のイノベーション創出が期待できるでしょう。