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ガラスに映画を保存? Project Silicaの長期保存技術

マイクロソフトはワーナー・ブラザースと共同で映画「スーパーマン」の全編を約75mm × 75 mm× 2 mm大の石英ガラス(シリカガラス)製プレートに収めることに成功しました。「プロジェクト・シリカ」の一環として行われたこの実証テストの成功により、デジタルデータの長期保存技術は新たな展開を迎えようとしています。

ガラスに映画を保存? Project Silicaの長期保存技術

ガラス片に映画全編のデータを保存&読み出しに成功

マイクロソフトとワーナー・ブラザースは共同でクリストファー・リーヴが主演した大ヒット映画「スーパーマン」(1978年)の全編を、飲み物のコースターとほぼ同じわずか約75mm × 75 mm× 2 mmサイズの石英ガラス(シリカガラス)製プレートに書き込んで読み出すことに成功しました。これは両社が共同で手掛ける「プロジェクト・シリカ」における初の実証テストでもあり、この成功でデジタルデータの保存技術が新たな一歩を踏み出そうとしています。

映画会社のワーナー・ブラザースは映画や劇場フィルム、1940年代のラジオ番組の録音など歴史的資産を保護するストレージ技術を長年にわたり模索していました。数百年のスパンの長期保存を低コストで安全に行うためのストレージ技術に求められる要素として、洪水などの自然災害や太陽光による劣化に耐え、細かい温度管理なども不要な堅牢さを持ち、定期的なデータの載せ替えが不要であることが挙げられます。石英ガラスは純度が極めて高いガラスで、熱や薬品に強く化学実験器具や光ファイバーなどに使われていますが、次世代ストレージに求められる厳しい条件を満たせると技術として、両社はこの石英ガラスを使ったプロジェクト・シリカに期待を寄せています。

Project Silicaとは?

プロジェクト・シリカ(Project Silica)はマイクロソフトとワーナー・ブラザースが共同で進めているプロジェクトで、超高速レーザーとAI技術を組み合わせて硬質な石英ガラス(シリカガラス)にデータを保存するというものです。

データのうち、頻繁にアクセスされよく使われるデータを「ホットデータ」、アクセス頻度が低いデータを「コールドデータ」と呼ぶことがありますが、プロジェクト・シリカで扱うことを想定しているデータはこのうち長期保存用の「コールドデータ」です。

コールドデータには映画や各種資料のアーカイブなどアクセス頻度は低くても非常に価値のある内容のもの、金融データや契約情報などコンプライアンス上企業が保管を義務付けられているデータなどがあり、全データ量の75%がこのコールドデータであるという見方もあります。この膨大なコールドデータの最適な保管先として注目されているのがプロジェクト・シリカに使われる石英ガラスです。

Project Silicaのストレージ設計技術

プロジェクト・シリカでは石英ガラスに超高速レーザーで「ボクセル(voxel)」データを書き込んでいます。ボクセルとはコンピュータ画像の最小単位を表すピクセル(pixel)に高さの情報を付加した3次元の概念で、3Dデータの解像度を表す場合などに使われる単位です。ボクセル状にエンコードしたデータを超高速レーザーでガラスプレートにナノメートル(1メートルの10億分の1)単位の細かさで刻み込みます。厚さ2mmのガラスプレートには100層以上のボクセルを書き込むことができ、ガラスプレート1枚に約75.6GBのデータを保存できます。

データ読み出しは、ガラスプレートを通した時に現れる特定の偏光パターンについて機械学習の技術を使ってデコードして行います。

石英ガラスを使う利点には、取り出したい内容が収められている任意の位置の情報に絞って取り出すことができるので、テープのような媒体に比べ短い時間での読み出しが可能になることが挙げられます。

また、石英ガラスは熱や薬品、腐食に強く耐久性に非常に優れているのも特徴です。樹脂製の磁気テープや金属が主原料の磁気ディスク、樹脂と金属で作られた光ディスクは水没や摩耗、強い磁気などに弱く、保存媒体の劣化で読み出しが不能になる恐れが常に存在していました。
石英ガラスは丈夫で割れにくく環境の変化に非常に強いため、貴重な文化財や史料のデータを数百年単位で保存するための媒体に非常に向いていると言えます。

このプロジェクトではデータを保存した石英ガラスプレートを煮沸したり、250℃のオーブンで焼いたり、電子レンジで加熱したり、磁場にさらしたり、スチールウールでこすったりしても保存したデータが無事に取り出せることが確認されています。

Project Silicaによって長期保存のコスト問題が解決する可能性

生命にかかわる医療データから可愛いネコの動画まで人間が保存しようとしているデータの総量は爆発的に増加していますが、ストレージ技術の進化はそれに追いつくことができていないのが現状です。

現在のストレージの主力であるハードディスクドライブ(HDD)の寿命は約3~5年で、磁気テープも5~7年程度しかもたないとされています。ワーナー・ブラザースでは保有するデジタルアーカイブを3年ごとに新規媒体に移し替える作業を行っていますが、この作業を繰り返すと膨大なコストがかかりますし、ストレージの物理的な劣化を防ぐためには室温や湿度の適切な管理も必要です。

しかし、石英ガラスを使うこの方法なら頻繁にデータを移し替える必要はなくなりますし、室温や湿度の細かい管理も不要になり、保存のコストを大幅に下げられる可能性があるのです。

ワーナー・ブラザースがProject Silicaに寄せる期待

1923年に設立されたワーナー・ブラザースは100年近くにわたって映画やテレビ作品を送り続けています。ワーナー・ブラザースではこれらの世界最大級の映像資産を新しいフォーマットで再リリースしたり、昔の作品を見たことがない人々に向けて新たに発信したりすることがビジネスにおいて非常に重要であると考えています。

また、同社の技術最高責任者、ビッキー・コルフ氏は「文化を守り伝えるという点でも、世界的に愛されている作品を長期間保存するという重大な責任がある」と語っています。

ワーナー・ブラザースは1つのアーカイブにつき、オリジナルを物理的にコピーしたものを1つ、デジタルコピー2つの合計3種類のコピーを作成し、地理的に距離がある別々の場所に格納して保管することを目標に掲げています。

フィルム映画のネガフィルムは、適切な状態で保存されれば何百年も持たせることができますが、1970年に撮影された番組など初期のテレビ番組データの保存期間はそれより短くなります。また、デジタルデータの保存に使われるハードディスクなどの媒体は移行サイクルが数年単位と非常に短いため、長期的な管理という点で大きな課題を抱えています。

ワーナー・ブラザースがデジタル撮影された映画を保存するために現在行っている方法は、映画をアナログ方式に変換してシアン、マゼンタ、イエローの3 色に分割した上で、各色のデータを白黒のフィルムネガに焼き付けて保存するというものです。白黒フィルムネガはカラーと異なり色あせることがないためデータの保存に適しているのです。

こうして作られたネガは所定の保管庫に収められます。この保管庫は温度と湿度が厳格にコントロールされており、フィルムの劣化のサインとなる化学変化が起きていないかどうか常時センサーで監視を行います。こうして白黒フィルムネガの形で保管したデータから元の映画を再現したい場合には、この手順を逆にたどることになります。

このプロセスでデジタル撮影されたテレビ番組すべてについてアーカイブ用の白黒フィルムネガを作成しようとすれば、膨大なコストがかかるのが大きな欠点です。

こういった状況の中、ワーナー・ブラザースは、白黒フィルムネガに分割して保存する方法に比べ、はるかに低コストで高品質、かつ耐久性に優れたデータ保存方法として「プロジェクト・シリカ」に大きな関心を寄せているのです。

まとめ

石英ガラスにコンテンツを保存する「プロジェクト・シリカ」は開発の初期段階であり、データの書き込みと読み出しの速度と密度の改善が当面の課題となっています。それでもマイクロソフトとワーナー・ブラザースはこのプロジェクトは将来的に多くの企業が利用する技術になると確信しており、さらなる研究を進めています。

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