SAP S/4HANAの移行時によくある課題と対策

SAP S/4HANAの移行時によくある課題と対策

SAPのクラウド移行を検討しているIT部門担当者の多くは、「経営陣に必要性を伝えるシナリオがない」「マイグレーション方式がわからない」などの課題を抱えています。適切な移行シナリオにより、リスクのないクラウド移行が可能になります。本記事では、SAP S/4HANAへの移行時の課題や、特に必要な対策について解説していきましょう。

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DXに対応するためにSAPのクラウド移行は必須

経済産業省が2018年末に発表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進ガイドライン」によれば、DXは「企業がデータとデジタル技術を活用して、顧客や社会の課題に対応し、商品やサービスのビジネスモデルを変革するだけでなく、組織や業務プロセスそのものを変革する」とあります。

社会のIT化により、企業は情報技術やツールを取り入れてきましたが、データとデジタル技術を活用するために、さらなる変革が求められています。組織や業務プロセスそのものを変革していくには、自社の企業情報や顧客情報など、あらゆるデータを統一したデータ基盤で管理することが前提条件です。

多くの企業で導入されている「ERP(統合基幹業務システム)」が、その役割を果たしていますが、未だオンプレミスで運用している企業も少なくありません。しかし、働き方改革やテレワークの推進といったビジネス環境の変化もあり、社内データはオンプレミスよりクラウド移行させたほうが、利便性や業務効率が高まります。もちろんERPをクラウド移行させても、社内データをクラウド上のデータベースに蓄積し、ほかの社内システムやデータと連携することは可能です。

国内企業のERPで主流とされているのが「SAP」です。2,000社以上が導入しているSAP ERPは、2027年にメインストリームのサポート終了が予定されています(オプションにより2030年まで)。自社のSAP ERPをオンプレミスで運用している場合は、正規保守を受けるために、またDX推進に対応するためにも、いずれクラウド移行を検討しなければなりません。

SAP S/4HANAの移行時の課題

SAP ERPのクラウド移行の必要性は高まっていますが、サポート期間が延長されたこともあり、じっくり検討したいというIT部門担当者の方も少なくないでしょう。実は、オンプレミスをクラウド型のSAP S/4HANAにデータ移行するには、いくつかの課題をクリアする必要があります。今のうちからクラウド移行時の課題について、しっかり検討しておくことが大切です。

クラウド移行するシナリオがない

自社のERPのクラウド移行を決定するのは、IT部門担当者ではなく、経営者または経営陣です。新たにERPを導入すると多額の投資が欠かせず、全社の業務に影響が及ぶため、どのような導入方式であっても、経営層の決裁が必要になります。クラウド移行について経営層で議論してもらうには、「クラウド移行するための経営合理的な理由」を共有できるシナリオを用意せねばなりません。

しかし現在、SAP ERPの国内ユーザー企業の多くが導入後10年以上経過し、財務と管理の会計機能を中心とした個別モジュールで、安定して成果を上げています。そのため「なぜ今、SAP ERPをクラウド移行しなければいけないのか」を示すシナリオを立てづらいのです。シナリオを上手く提示できないまま、安易にSAP S/4HANAの移行を提案すると、SAP側の都合に合わせていると受け取られかねません。「既存システムのままクラウド移行するのか・機能を拡充したクラウドシステムに移行するのか」といった議論も、シナリオがなければ進まないでしょう。

加えて、SAP ERPのサポート期限は発表されましたが、2027年までまだ時間があります。新しくSAP S/4HANAを導入しても移行期間は1年程度なので、「すぐにクラウド移行する必要性は少ない」と感じる経営者・経営陣も多いかもしれません。

SAP移行の人的リソースがない

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の年次レポート「企業IT動向調査報告書2019」によれば、システムを導入しているユーザー企業のIT予算の内訳は、現状のシステム維持管理(ランザビジネス)が約8割、新規システム開発(バリューアップ)が約2割を推移しています。加えて、最近ではAIやRPA(定型業務の自動化)など、DXで求められるシステム改変に取り組む必要もあります。そのため、「現状ではSAP ERPをクラウド移行に注力できる社内リソースがない」という企業が多いのです。

もともとIT業界は、慢性的な人手不足の問題を抱えています。SAP ERP市場は特に人材が不足しており、SAP ERP導入を経験したIT人材は社内にいないか、ごく一部に限られています。人材不足でSAP ERPの導入が遅れたり、クラウド移行に詳しいSAPコンサルタントの費用が高騰したりするほどです。中には、SAP ERPのサポートを期待して導入したのに、移行について相談できるベンダーが見つからないケースもあります。今日では、SAP技術者のリソース不足解消と、システム移行の作業効率化に特化したツールも少なからず公開されているので、それらの導入も視野に入れるとよいでしょう。

マイグレーション方式の選択

マイグレーション(移行)方式は、自社のシステム環境の現状を把握したうえで選択することが重要です。SAP ERPからSAP S/4HANAに移行する方式は、大きく分けると「新規導入(グリーンフィールド)」と「システムコンバージョン(ブラウンフィールド)」の2種類です。システムコンバージョンは、さらに「一括方式」「分割方式」に分かれます。

こうしたマイグレーション方式については後述しますが、企業は「現行システムを見直して新たなERPを導入するのか・あくまで現行システムを活かしてSAP S/4HANAへの移行を目指すのか」を選ぶ必要があります。しかし各方式の概要と、自社のシステム環境がわかっていなければ、経営陣に適切な方式を提示することはできないでしょう。こうした点にも、SAP技術者やSAP ERP導入を経験した人材の不足が影響してくるのです。

SAP S/4HANAのマイグレーション方式の種類

SAP S/4HANAへの移行に際して、どうしてもマイグレーション方式の選択は課題となります。以下では事前の検討事項として、マイグレーション方式の2種類の概要について解説します。

新規導入(グリーンフィールド)

マイグレーション自体は、現行のシステム設定を基にデータ移行を行うものですが、グリーンフィールドは現行のERPを見直して、新たにSAPシステムを再導入する方式です。SAP社では、SAP S/4HANAにクラウド移行する方式として、グリーンフィールドを想定しています。データ処理のプロセスや単純化モデルはそのまま使用し、現在の設定環境の変換はせずにクラウド移行させます。

そのため、アドオンで大きく変更した場合、そのままでのクラウド移行はできません。一方、破損や不正確、無用なデータを特定し、データの整合性と関連性を向上させる「データクレンジング」を支援するプロセスやツールは移行可能です。データ処理の改善は継続できるため、経済的な面で見ると好ましいクラウド移行方式とされます。

システムコンバージョン(ブラウンフィールド)

ブラウンフィールドは現行のERPを活かしつつ、SAP S/4HANAへの変換を実施する方式です。「現状、特に業務プロセスに大きな変更はないけれども、今後の業務変革やソリューションのために、今からSAP S/4HANAへの移行を進めたい」というユーザーに適しています。

ブラウンフィールドは初期データの移行が不要で、過去のデータを保持し、業務プロセスの変更は最小化します。さらにクラウド移行時のリスクを低減するために、SAP社が提供している各種データ移行支援ツールの利用も可能です。実行結果に基づくSAP S/4HANAへの移行計画立案を支援しているので、プロジェクトの開始から終了までを具体的にイメージできます。

SAP S/4HANAのマイグレーション方式の選定ポイント

では、SAP ERPをSAP S/4HANAに移行する場合、マイグレーション方式をどのように選定すればよいのでしょうか?大きくは「自社のマイグレーション方針」と「SAP S/4HANAの標準導入の付加価値」がポイントになります。

企業が掲げるマイグレーション方針

マイグレーション方式の選定にあたっては、業務改善とシステム環境の両方の観点から、自社の方針を構想する必要があります。業務改善では、運用課題の洗い出し・作業環境の向上・業務プロセスの見直しが挙げられます。一方、システム環境では、各機能の利用状況調査・アドオン機能のコンパイルチェック・周辺システムとの連携による影響などです。

SAP S/4HANAは、従来のSAP ERPと同様のイメージでアプローチができません。システム基盤のコストが増大するリスクや移行期間、追加機能などの拡張性といった観点を踏まえ、最適なマイグレーションを選択しましょう。

SAP S/4HANAの標準導入の付加価値

SAP S/4HANAをリビルド方式で構築し標準導入した場合は、3つの付加価値が得られます。1つ目は、リアルタイム会計で日次決算が可能になり、経営の効率化が図れます。2つ目は、各オートメーション機器を接続し、相互の情報活用を行う垂直統合による、基幹システムと製造現場のデータを連携した付加価値の創出です。3つ目は、垂直統合で競合他社との差別化ができます。将来的な経営戦略に照らし、SAP S/4HANAの標準導入によるメリットも検討しておきましょう。

まとめ

ビジネスのDXが進む中、企業の統合基幹業務システムであるERPは、クラウド化への流れを避けられません。また、多くの企業が導入しているSAP ERPも、メインストリームのサポート終了が決まっています。激変するビジネス環境に対応するためにも、オンプレミスからSAP S/4HANAにクラウド移行することをおすすめします。

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