「Azure OpenAI Service」とは、Microsoftと最近話題のOpenAIが共同開発した、強力な言語モデルをREST APIとして利用可能なサービスです。テキストの生成、言語の翻訳、コードの作成、質問への回答など、さまざまな用途に使用できます。本記事では、その基本情報や機能を詳しく紹介します。
Azureの概要やメリットについては、下記の記事で解説しています。ぜひ本記事と併せてご覧ください。
Microsoft Azureとは|何ができる?入門内容からわかりやすく解説
1. Azure OpenAI Serviceとは?
Azure OpenAI Serviceとは、Microsoft Azureと呼ばれるクラウド上で、最近話題のChatGPTなどOpenAIのサービスを利用できるサービスです。
会社で利用する場合は、セキュリティ面などでChatGPTの利用を制限されることも多いですが、このAzure OpenAI Serviceは外部との通信を管理することができるため、組織利用の点で注目されています。
Azure OpenAI Serviceの概要
Azure OpenAI Serviceは、AIの専門知識がなくても、アプリ構築が可能な開発者向けサービスの1つです。
AI技術を活用してビジネスプロセスの改善や新しいビジネスモデルの創造、社会的課題の解決など、多岐にわたる分野で活用できます。
- 顧客からの問い合わせに自動的に回答するチャットボットを作成する。
- 製品の説明書を自動的に翻訳する。
- 新しいソフトウェアを自動的に開発する。
- 病気の診断を自動的に行う。
これらを可能にし、ビジネスや社会をよりよくするための強力なツールです。
Open AIのサービスを比較
Azure OpenAI Serviceが優れている点は、ガバナンスやセキュリティをMicrosoft Azureによって高水準に管理できる点です。
後ほどそのメリットや注意点を詳しく紹介しますが、可用性とセキュリティ面、コンプライアンス面で優れています。
一方で、OpenAIのサービスの方が優れている点を紹介します。
- 最新モデルが発表された場合、OpenAIのサービスの方が早く利用できる
- クラウドインフラの構築コストがかからない
- 運用コストもかからない
- 参考記事や使い方動画が多いため学習しやすい
費用を安く抑えたい、スピード感を持った構築がしたい、最新モデルを早く使いたい方には、OpenAIのサービスが向いています。
Azure OpenAI Serviceの料金は?
利用料金は従量課金制となっており、OpenAIのAPI利用料金と同じです。クラウドサービスの特徴でもある、使った分だけ料金を支払う仕組みです。
ChatGPTプランの月額20ドルの料金を知っている方は多いですが、Azure OpenAI Serviceも20ドルということではありません。OpenAIを使ったアプリ開発をする際に利用するAPIの利用料金と同じなので注意してください。
使用するモデルによって料金体系が異なるため、詳しくはAzureのHPから料金体系をご確認ください。
Azureを初めて利用する方は、30日間または200ドルの無料クレジットが配布されます。OpenAIのAPIサービスにも3カ月または5ドルの無料クレジットがあります。無料期間内に利用してみて、企業の戦略に合うものを選ぶのも一つの戦略です。
2. Azure OpenAI Serviceを利用する6つのメリット
ここまで概要について解説しましたが、ここからは利用する際のメリットを6つに分けて1つずつ分かりやすく紹介していきます。
メリット1.高い可用性
障害などでシステムが停止することなく稼働し続けるサービスを、可用性が高いサービスといいます。
Azure OpenAI Serviceは、OpenAIのAPIサービスに比べて可用性の高いサービスです。99.99%の可用性を保証しており、0.01%以上システムが停止した場合は、クレジットがAzureから配られる仕組みとなっています。
一方のOpenAIのAPIサービスには、何%の可用性といった情報は発表されていません。公式HPには、近日公開予定との記載があります。
高い可用性を考えた場合、企業での利用は向いているといえるでしょう。
メリット2.セキュリティ面で優れている
Azure OpenAI Serviceには、OpenAIのAPIサービスにはできない3つのセキュリティ機能があります。
- 仮想ネットワーク内での利用制限
Azureの機能に仮想ネットワークがあります。仮想ネットワークを利用すると外部のネット上からモデルの利用を制限することも可能です。 - アクセス制御や不正アクセスの監視
Azureの機能を使ってアクティブディレクトリの監視やアカウントの権限設定を行うことで、誰が利用しているのか監視できます。このアカウントであればサービスを利用してもいい、といった管理も可能です。 - プロンプトインジェクション対策
AIチャットボットに対する攻撃をプロンプトインジェクションと呼びます。コンテンツフィルターが初期搭載されているため、悪意のある攻撃からサービスを守る対策がとられています。
メリット3.データプライバシーやガバナンス管理
データをMicrosoftのクラウド上に保管できる点もメリットの1つです。
大企業ではデータを保管できるサーバーの制約が厳しい企業も多く、OpenAIのサーバーへのデータ保管が認められていない場合もあります。一方でMicrosoftのクラウド上へのデータ保管は許可されていることが多いため、大企業ほどAzureのサービスを利用する傾向が高いといえます。
メリット4.サポート体制が充実
OpenAIのAPIは、無料サポートのみの提供です。
一方でAzure OpenAI Serviceは、Microsoftが有料でサポートをしています。Microsoftの専門のサポートチームが用意されており、何時間以内、何日以内のサポート保証など、サポートプランを選択することも可能です。
何か障害が発生した場合など、より手厚いサポートが期待できます。
メリット5. Azure上でさまざまな言語モデルを利用できる
以下の5つの言語モデルを使用できます。
- GPT-4
- GPT-3
- DALL-E
- Codex
- 埋め込み
ChatGPTだけでなく、PythonやC#などさまざまな言語にも対応しています。この柔軟性により、開発者は自分の得意な言語やフレームワークを使用して、AIアプリケーションの開発やデプロイを容易に行うことができます。
OpenAIのこれらのサービスについてこちらの記事でより詳しく解説していますので参考にしてください。
メリット6. クラウドで容易に導入できる
Azure OpenAI ServiceはAzureのクラウドサービスなので、利用の際オンプレミスのような物理的なサーバーを構築するといった手順はいりません。
特に、ChatGPTのような大規模言語モデルを利用したチャットボットは、利用する際に多くのサーバーやアプリケーションが必要になります。サービス自体をクラウドで提供しているため、大規模なシステムやサーバーを構築する手間がかからないことが特徴です。
さらにクラウドを利用することで、スケーラビリティやパフォーマンスの向上、リソースの効率的な利用など、多くの利点もあります。
Azure OpenAI Serviceの導入方法
ここからは、利用する際の手順について解説します。利用する際は利用申請をする必要があり、申請には最大10営業日かかるので注意してください。
Azure上でサブスクリプションを作成
まずは、Web上で「Azure」と検索します。
Azureのアカウントを作成またはログインを行います。
Azureのアカウントを持っていない方は、作成してください。
ここで、アカウントを作成する際にサブスクリプションを作成します。
すでに、サブスクリプションを作成済みの方は、次の「Azure OpenAI Serviceの利用申請をする」に進みます。
アカウント作成時は、クレジットカードの情報や電話番号、メールアドレスが必要です。
従量課金制の契約に移行しない限りは、料金が発生することはないので安心してください。
アカウント作成が完了したら、Azureポータルサイトにサインインします。
Azureサブスクリプションについて、こちらの記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
利用申請をする
ポータルサイトにログインしたら、リソースグループを作成します。
このリソースグループを作成する際、先ほど作成してくださいと説明した「サブスクリプション」が必要です。
リソースグループを作成したら、Azureポータル内の検索バーで「OpenAI」と検索します。
「Azure OpenAI サービスへのアクセスを要求するには、ここをクリックしてください」というメッセージをクリックし、質問項目を入力していきます。
クリックすると新たなページが開き、自分の名前や会社名、会社住所など組織の情報を入力します。
ここではGmailやOutlookのメールアドレスではなく、組織のメールアドレスが必要なので、準備してください。
必須項目に全て答えて送信すれば、リクエスト完了です。
しばらく(最大10営業日)待つと申請完了のメールが届くので、メールを確認したら、再度AzureコンソールのOpenAIサービスページに戻ります。
GPT-4の利用申請をする(利用する場合)
GPT-4モデルを利用する場合はさらに、ここで紹介する申請を行う必要があります。それ以外のモデルでは、ここから先の申請は不要です。
GPT-4の申請を行う場合は、「Azure OpenAI Serviceの利用申請をする」の申請が完了し、Microsoftから承認メールが届いた後で操作してください。
1つ目の質問に対しては、すでに利用しているため「Yes」を選択します。
「次へ」を選択すると7つの質問が出てきます。1つずつ回答し、送信ボタンを押してください。
Azure OpenAI Service利用時の注意点
利用する際は、いくつか注意点があります。ここからはスケジュール感や利用前の事前学習、APIの処理速度について解説していきます。
利用制限について
Azure OpenAI Serviceは、さまざまなタスクに使用できる強力なツールです。ただし、利用制限や時間がかかる場合があることに注意してください。
利用制限の一部を紹介します。
- 1分当たりのトークン数:12万トークン
- 1リソース当たりの学習させられるジョブの合計:100
- 1リソース当たりの管理するファイル数:30(合計1GBまで)
利用制限の詳細については、AzureのWebサイトをご覧ください。
利用申請について
先述しましたが、利用する場合は申請が必要です。
Microsoftからのメールでは最大10営業日かかると記載がありますが、早ければ申請した当日に承認されることがあります。
GPT-4モデルを利用する場合は、さらに時間がかかる場合もあるためスケジュールに余裕をもって申請をしましょう。申請をするだけであれば無料なため、今後利用する可能性がある場合はあらかじめ申請をしておくこともご検討ください。
申請には、企業の住所や電話番号、会社のメールアドレスが必要なのでご注意ください。
現在は日本リージョンでは使えない
Azure OpenAI Serviceは利用可能になって間もないということもあり、使用できるリージョンに制限があります。2023年6月現在、日本のリージョンで利用できません。
企業によっては、コンプライアンスの観点から日本のリージョン以外でリソースを作成することを禁止している場合もあります。自社のコンプライアンスとMicrosoftのページを確認し、利用前に利用しても問題ないか一度確認が必要です。
プログラミングやAI技術の知識が必要
基本的にAPIの操作は、PythonやC#といったプログラミング言語の知識が必要です。Azure OpenAI Serviceは、OpenAIのサービスを利用するための基盤の構築は簡単で、専門的なAIの知識がなくても開発が可能という特徴がありますが、言語が不要というわけではありません。
最低限のプログラミング言語とAIに関する知識は必要、という点には注意しましょう。
パフォーマンスはネットワーク環境にも左右される
あるWeb上の記事では、Azure OpenAI Serviceの方が、OpenAIのAPIサービスよりも応答速度が早いという調査結果を出しています。しかし実際は、利用している環境や設定方法によって変化があるため、必ずしもAzure OpenAI Serviceの方が早いと誤解しないようにしましょう。
日本のリージョンが利用できないため、ほかのアプリケーションと組み合わせたときに処理速度が遅くなるということも起こり得ます。
Azure OpenAI Service活用事例
最後に、活用事例を紹介します。利用を検討されている方は、他社事例を見ることでより具体的なイメージが持てるようになるため、ぜひご参考ください。
米中古車販売会社のCarMaxの事例
アメリカで1993年から1,000万台以上の中古車の販売実績を持つ、CarMaxの事例を紹介します。
AzureのOpenAI Serviceを利用して、車の情報ページのテキスト要約を作成する手順を効率化することに成功しました。これにより、SEOで上位表示を可能にし、売上を伸ばしています。
アメリカ内で常に4万5,000台の車を用意しているため、テキストの要約を作るだけでもかなりの手間がかかっていました。5,000台の紹介ページの要約に通常11年かかると予想されていましたが、Azure OpenAI Serviceの利用によって数カ月で達成でき、質も上がったと効果を実感しています。
参考:Microsoft
三井住友フィナンシャルグループ
三井住友フィナンシャルグループが、Azure OpenAI Serviceを利用した「SMBC-GPT」の導入に向けて実証実験を行うことを、2023年4月に発表しました。
SMBCグループの専用ネットワーク内でのみ利用できる環境を構築するサービスです。この記事でも紹介したMicrosoftの高いセキュリティを確保しながらChatGPTを利用できるため、この開発が注目されています。
今後、日本総合研究所やNECといった企業と協力しながら開発を進めていくということです。
参考:impress
まとめ
今回はAzure OpenAI Serviceについて、特徴や注意点を紹介しました。
OpenAIのサービスをMicrosoftのセキュリティで利用できるということで注目が集まっており、企業でChatGPTを利用することも増えてくることが予想されます。ただし、企業向けのサービスのため利用申請が必要な点や、現在は日本のリージョンでは利用できない点など注意点がいくつかあるため、利用前に必ず確認してください。