クラウド移行(インフラ・DB)

SAPワークロードをAzureに移行するメリット

本記事は、2020年に開催されたオンラインイベント 「Business Uninterrupted:SAP Solutions on Microsoft Azure」でのSAP社 Joerg Bruch氏(VP ITオペレーションズ)とMicrosoft 社 Hans Reutter氏(プリンシパル・ソフトウェア・エンジニアリング マネージャー)とのセッションを要約したものです。

MicrosoftとSAPは、お互いにパートナーであると同時に顧客でもあるという関係にあります。ビジネスアライアンスプログラムを締結し、SAPのワークロードをAzure上のSAP S/4HANAにおいて “最高の状態“で稼働させることに取り組んでいます。今回は、SAPワークロードのAzure移行について、SAP社内とMicrosoft社内の事例から、ベストプラクティスや学びを解説します。

クラウド移行 まるわかりガイド

SAP社内におけるAzure移行

SAPでは、開発環境、テスト環境、本番環境からなるシステム構成を「ランドスケープ」と呼びます。

SAP自社の約130のビジネスランドスケープは、データベースサーバーとアプリケーションサーバーを含む約4,000台のサーバーで運用されており、その中の一部を現在、Azure IaaS上に移行しています。

SAP社内システムのクラウド移行を振り返ってみると2012年に買収したSuccessFactorsを自社内で利用するためSaaS利用を始めました。その後SAP Cloud Platformの展開、IaaSへの移行をすすめてきました。

SAP社のIT部門はMicrosoftと提携し、社内のSAPシステムをAzure上で運用することを決定しています。一方で、オンプレミスやレガシーなシステムも数多く残っています。つまりオンプレミスから、SaaS、PaaS、IaaS、そして自社データセンター内で稼働するオンプレミスシステムまで、どれが最適なのか判断し、常にハイブリッドなランドスケープを目指しています。

Azureに移行する4つの目的

SAP社内におけるAzure移行には、4つの目的がありました。

第1に、クラウド移行の機会を利用して、類似した命名規則やサービスサイズ、パラメータセットなどを標準化することです。

第2に、自動化によるアジリティ(俊敏性)の実現。SAP LaMaとAzureの自動化機能を組み合わせて実現します。

第3に、アプリケーションの重複をなくすこと。重複している場合は、データとビジネスプロセス双方を考慮して主要なシステムを見極め、絞り込みます。

第4に、ランドスケープの健全性を監視します。かつては複数の監視ツールを使用していましたが、MicrosoftとSAPのツール連携により統合されたツールを目指しています。

Azure移行のプロセスと獲得したナレッジ

Azure移行の実証実験は2017年に開始され、2つのランドスケープの移行を決定しました。この時は手作業が多く、自動化はほとんどされていませんでした。

その後、実証実験での知見に基づいてSAP社内で移行戦略を定め、2018年には17のランドスケープについて4月から移行プロジェクトを開始しました。大部分は第三四半期には移行が完了、2018年末にはすべての移行が完了しました。さらに2018年の年末には、クリスマス直前から2月上旬までという短期間で新規SAP S/4HANAシステムを導入するという緊急プロジェクトも経験しました。私たちはMicrosoft Azureのスピードとアジリティを最大活用するとともに、先の移行プロジェクトで構築した自動化を利用しスムーズに移行できました。

この移行によって、セキュリティとネットワークが重要というナレッジが得られました。ランドスケープ、社内外のデータセンター、独自のネットワーク接続によって安全性と透明性を確保する必要性が生じるからです。

コスト面では、ライトサイジングとタイトサイジングの考え方で必要なサービスを選択して費用を削減できます。レスポンス面においては、標準化と自動化によって従来実現してきたプロビジョニングのスピードを維持した上で、データベースとSAPスタックを実装しました。

コストとスピードを実現した上で最終的に重要になるのは、やはり従業員のスキルに対する投資です。従業員のセキュリティ意識を向上させ、Azure管理者やクラウドアーキテクトのトレーニングを受けることで社内外の評価を高められます。

Azure3つのメリット

Azureのメリットは3つありました。

第1にMicrosoftのエンタープライズ対応力です。大企業では、課金プロセスや顧客対応といったレガシーシステムも含めて、要望に応じて多元的な対応が求められます。Azureには大企業の顧客対応で培った実績があります。

第2にアジリティ(俊敏性)。注文処理や業務に必要なデータをスピーディーに提供できる環境が整いました。

第3は、コストメリットです。クラウドに移行すればすべて安価になるわけではありませんが、大きなメリットを得られます。組織で達成しなければならないコスト削減の目標を理解しておくとよいでしょう。

Microsoft社内におけるAzure移行

続いてMicrosoft側でSAPワークロードをAzureに移行した事例です。

MicrosoftではSAPのSaaSを利用して最新のエンジニアリングカルチャーに切り替えていきたいと考え、数年前にDevOpsアジャイルを導入しました。ビジネスプロセスにおける多数のダッシュボードを作成してAzure上で実行しています。

SAPのNetWeaverのランドスケープでは、SQLとWindowsによる約55テラバイトのERPインスタンスを運用しています。さらにSAP S/4 Central Financeを含む4つのHANAシステム、SAP BWやAriba, IBP, SuccessFactors, ConcurなどのSAP SaaS製品を使用中です。

Microsoft社内のSAPシステムは2018年2月に100%をAzureに移行しました。ちなみにMicrosoft社のITシステムは98~99%がクラウド上にあります。

Azure移行を成功させた水平と垂直のハイブリッド戦略

Microsoft社内におけるAzure移行のきっかけは、ライトサイジングとタイトサイジングによるコスト削減の実現でした。しかし、最大のメリットはビジネスのアジリティが革新的に向上したことです。Azureは災害復旧に応じられる99.99%という高可用性を提供し、さらに豊富な認証方法やツールで運用負荷を軽減します。

クラウドへの移行方法は、ハイブリッド戦略を採用しました。

基本的には水平戦略で、サンドボックス、開発システム、テスト環境から本番環境に至るまで、レイヤーごとにローエンドから本番環境に移行する典型的なアプローチです。

一方、特定のシステムを選択して、開発から本番までの完全なスタックを一度に本番環境に移行させる垂直戦略も行いました。本番環境の管理や災害復旧の方法と高可用性を実現するノウハウを迅速に得るためです。

このような水平方向と垂直方向のハイブリッド戦略がうまく機能しました。

さらにAzure移行のポイントとして、SAPシステムでは、データベース、アプリケーションサーバー、セントラルインスタンスをまとめてクラウドに移行しなければなりません。したがってERP、Global Trade、SAP BW などの相互依存性の確認が重要ですが、クラウド上の統合テストで検証しました。

上流と下流のシステムを把握すること、リージョンの確認など移行のポイント

上流システムと下流システムの把握も必要です。上流のデータプロバイダや、下流のSAPのデータを必要とする利用者が存在する場合、パフォーマンスに影響を与えない移行を検討する必要があります。

Azureのリージョンを確認することも大切です。大多数の利用者から近い場所にあるか、必要な製品が揃っているか、Mシリーズや特定の機能があるか、これがチェックポイントです。Azureでは、すべての本番環境を特定のリージョンに設置して、レスポンスの遅延やネットワーク障害が発生しないことを保障しています。

また、SAPシステムは多くのサードパーティ製品によって、請求や消費税の処理、バッチなどのエコシステムを構成しているので、Azure上での稼働についての認証やテスト済みであることの確認が必要です。Microsoftではコンプライアンス担当者を早期から配置して対応しました。

クラウドに移行すると使用量に合わせてコストが発生しますが、データのアーカイブや削除、圧縮を検討する絶好の機会です。また、アプリケーションの大部分がオンプレミスにあるときはトラフィックが増加しますので、完全に移行してトラフィックが減少したとき、スループットテストを実施して適切なネットワークのサイズを確認するとよいでしょう。

追加機能などによるAzureの活用

Azureには多彩な追加機能があります。Azure Monitorによる監視や、PowerAppsとのシームレスな統合が実現できます。Azure Data LakeやPower BIによって、インサイトの発見、機械学習人工知能などの機能を追加可能です。シングルサインオンによって他の製品や別のSaaSとシームレスかつ安全な統合を実現することもできます。

Microsoftでは、PowerAppsで簡単なアプリを開発し、システム管理者、開発者、プログラマーなどが、普段は使用していないスヌーズ状態のシステムを必要な時だけ自分で起動し作業できるようにしました。これにより費用を節約しながら作業を行えるようになりました。

SAPのシステム関連では、SAP S/4 Central Financeに約8割の会社コードが移行済みです。SAP Master Data Governance(SAP MDG) on SAP S/4HANAはスケールアップする可能性があります。ビジネスプロセスプランニング関連では、NetWeaverからSAP S/4HANAへのスタック移行は、Azure上で優れた拡張性を発揮しています。

SAP S/4HANAに関するベストプラクティスや学び

SAP S/4HANAのベストプラクティスや学びもありました。データセットを小さくして2~3年分のデータだけ保存しておき、不要時には即座にアーカイブする目標を立てたこともそのひとつです。

データベースサーバーはSUSE Linux、アプリケーションサーバーはWindowsの構成で順調に稼働しています。アプリケーションサーバーをWindowsにすることで、既存のスクリプトを再利用できました。

システムの構成は、ハードコードされた値ではなく計算式を介して行います。システムの拡張やメモリの追加時に、自動的に適切なシステムのサイズと構成を確認できます。

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まとめ

SAPとMicrosoftはお互いに顧客として、社内でそれぞれの製品やソリューションを導入し、そのノウハウを顧客に提供しています。こうしたアライアンスによってAzure上で稼働するSAP S/4HANAをはじめとしたシステム稼働の信頼性を高めています。

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