
2025年10月にOpenAIが発表した「Apps in ChatGPT」は、Canva、Slack、Notion、freeeといった外部サービスをChatGPTの画面から直接操作できる機能です。従来のZapierなど外部連携ツール経由の接続とは異なり、MCP(Model Context Protocol)を基盤とした純正のアプリエコシステムである点が特徴です。便利さの一方、接続先アプリへのデータ送信という新たなガバナンス課題も生じます。本記事では、Apps in ChatGPTの基本を押さえたうえで、企業として導入する際の承認プロセスとデータガバナンスの設計ポイントを整理します。
この記事で分かること
- Apps in ChatGPTの基本的な仕組みと、外部連携ツール経由の接続との違い
- 業務での活用が見込める代表的なアプリカテゴリ
- 情シス部門が整備すべきアプリ承認プロセス
- 接続先アプリへのデータ送信という観点でのリスク管理(学習データ利用の違いを含む)
- 個人接続とEnterprise管理者による一元管理の違い
Apps in ChatGPTとは
Apps in ChatGPTは、ChatGPTのチャット画面から外部サービスを直接呼び出して操作できる機能です。OpenAIが2025年10月に発表し、同年12月にはApp Directory(アプリ一覧ページ)が公開され、開発者向けのアプリ提出受付も始まりました。2026年7月には、このApp Directoryが「Plugin Directory(プラグインディレクトリ)」へと再編されています。プラグインは、アプリ・スキル・アプリテンプレートをまとめて扱う仕組みで、外部サービスと接続する「アプリ」そのものの役割は変わっていませんが、探し方・管理の入り口が変わった点には注意してください。以下、便宜上「Apps in ChatGPT」という機能名で説明しますが、実際に画面上でアプリを探す際は「プラグイン」という表記で提供されています。
技術基盤:MCPを介した外部サーバーとの通信
この機能を支えているのは、MCP(Model Context Protocol)を基盤とした「Apps SDK」です。ChatGPTのチャット内で「@アプリ名」とメンションして呼び出すと、MCPを介して外部サーバーとリアルタイムに通信し、地図やカルーセル、プレイリストといったリッチなUIをチャット内に直接表示できます。単にテキストで案内するだけでなく、実際にその場でアプリの機能を操作できる点が特徴です。
Zapier等の外部連携ツールとの違い
本サイトの別記事では、ZapierやMakeを経由してNotionとChatGPTを連携させる方法を紹介していますが、Apps in ChatGPTはこれとは異なるアプローチです。Zapier等の連携は、ChatGPTの外側に自動化ワークフローを構築し、トリガーとアクションを組み合わせる仕組みであるのに対し、Apps in ChatGPTはOpenAIが公式に整備したエコシステムの中で、ChatGPTの会話そのものに外部アプリの機能を直接組み込みます。既存の自動化ワークフローに組み込みたい場合はZapier等、チャット上での対話的な操作性を重視する場合はApps in ChatGPT、という使い分けが基本的な考え方になります。
業務での活用が見込める代表的なアプリカテゴリ
App(Plugin)Directoryには、デザイン・音楽・旅行・学習・ビジネス生産性・ショッピングなど、多様なカテゴリのアプリが公開されています。このうち企業の業務利用という観点で特に注目すべきは、freee(クラウド会計)、Notion(ドキュメント・タスク管理)、Slack(チームコミュニケーション)、Zoom(会議管理)といったビジネス系アプリです。例えば、Slack連携では長時間のチャンネル議論をチャット内で要約でき、Zoom連携では会議の要点とアクションアイテムを自動整理できるなど、日常業務の情報整理業務を効率化できる可能性があります。
国内企業のアプリ参入という動き
2026年2月17日には、フリー株式会社が「freee確定申告」アプリの提供を開始しており、日本国内企業によるApps in ChatGPT対応の先行事例として注目されています。このアプリでは、税理士が実際に回答した相談実績1万件以上をもとに回答を生成する設計になっており、回答の出所(担当した税理士の氏名や所属)が明示される点が特徴です。今後も国内の会計・人事・法務関連のSaaS事業者が同様の対応を進めていく可能性があり、業務システムの選定基準として「Apps in ChatGPT対応の有無」が今後重視される場面も出てくることが予想されます。
情シス部門が整備すべきアプリ承認プロセス
Apps in ChatGPTは、無料プランを含む幅広いプランで利用可能であり、個々の従業員が自分の判断でアプリを接続できてしまう点が、企業にとっては統制上の課題になります(実際に使えるアプリの範囲は、アプリごと・プランごと・利用地域ごとに異なります)。
個人判断での接続がもたらすリスク
Directoryに公開されているアプリは、OpenAIの審査を通過したものですが、審査を通過しているからといって、そのアプリに機密情報を送信してよいことにはなりません。従業員が個々の判断で、会計アプリや社内コミュニケーションツールをChatGPTに接続し、業務データを流し込んでしまうと、情シス部門が把握しないままデータの流れが広がっていくリスクがあります。
承認済みアプリのリスト化と周知
組織として安全に活用するには、業務利用を許可するアプリをあらかじめリスト化し、それ以外のアプリの接続は原則禁止とするルールを設けることが基本的な対策になります。特に、会計・人事・顧客管理など機密性の高いデータを扱う業務系アプリについては、法務・情報セキュリティ部門を交えた個別の審査を経てから許可することが望まれます。
接続先アプリへのデータ送信という観点でのリスク管理
Apps in ChatGPTを利用する際、入力した情報はChatGPTだけでなく、接続先のアプリ提供元のサーバーにも送信される仕組みになっています。
データが複数の事業者に渡ることへの理解
例えば、freeeアプリで確定申告の相談をすれば、その内容はOpenAIのサーバーだけでなく、freee側のサーバーにも渡ります。このように、Apps in ChatGPTを利用するということは、実質的に複数の事業者のプライバシーポリシー・セキュリティ基準が関わってくることを意味します。接続するアプリごとに、提供元企業のデータ取り扱い方針を確認し、自社のセキュリティ基準に照らして問題がないかを判断する必要があります。
アカウント種別によって異なる学習データの扱い
見落とされがちですが、接続アプリから得られた情報がOpenAIのモデル学習に使われるかどうかは、契約しているプランによって扱いが異なります。Free・Plus・Go・Proといった個人向けプランでは、「みんなのためにモデルを改善する」という設定がオンになっている場合、アプリ経由で得られた情報がモデルの学習に利用される可能性があります。一方、Business・Enterprise・Eduのワークスペースでは、接続アプリの情報は標準設定で学習に利用されません。個人向けプランで機密性の高いアプリに接続する場合は、この学習利用設定がオフになっているかを必ず確認する運用を徹底してください。
業務データの分類と送信可否の整理
すべての業務データを一律に「送信禁止」とするのではなく、公開情報や機密性の低い情報は積極的に活用しつつ、顧客の個人情報や契約金額など機密性の高い情報は、承認されたアプリであっても送信を避けるといった、データの機密レベルに応じた運用ルールを整備することが実務的です。
個人接続とEnterprise管理者による一元管理の違い
Business・Enterpriseプランを契約している企業では、管理者が組織全体のアプリ接続状況をコントロールできる機能を活用できる場合があります。
管理者による許可・制限の一元化
個人アカウントでの接続を許容する運用では、誰がどのアプリを接続しているかを情シス部門が把握しづらくなります。Enterpriseプランの管理機能を使えば、組織として許可するアプリをあらかじめ設定し、従業員は許可された範囲内でのみアプリを利用できるよう制御することが可能になります。なお、Businessワークスペースではアプリが既定で有効になっているのに対し、Enterprise・Eduワークスペースでは既定で無効になっており、管理者が個別に有効化する仕組みです。全社でChatGPTの活用を広げる際は、こうした既定値の違いも踏まえたうえで、アプリ接続のガバナンス設計を進めることが望まれます。
定期的な接続状況の棚卸し
一度許可したアプリも、事業内容やセキュリティ要件の変化に応じて、定期的に見直す必要があります。半期に一度など、組織で接続されているアプリの一覧を棚卸しし、不要になった接続を解除する運用を組み込んでおくことで、無秩序な接続の拡大を防ぎやすくなります。
アプリの回答精度を過信しないことも重要
Apps in ChatGPTを通じて得られる情報や処理結果は、AIによる生成物である以上、必ずしも常に正確とは限りません。特に、会計アプリでの税務判断や、旅行予約アプリでの料金情報など、実務上の意思決定に直結する操作については、最終的な確認を人間が行う運用を徹底することが重要です。接続先アプリのデータが常に最新とは限らない場合や、ChatGPTがユーザーの意図を誤って解釈する場合もあるため、重要な判断に関わる情報は、アプリの公式画面や一次情報でダブルチェックする習慣を、利用者への注意喚起として周知しておくとよいでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q. Apps in ChatGPTとは何ですか?
ChatGPTのチャット画面から、Canva、Slack、Notion、freeeといった外部サービスを直接呼び出して操作できる機能です。2025年10月にOpenAIが発表し、MCPを基盤とした公式のアプリエコシステムとして提供されています。2026年7月からは、アプリの一覧・管理画面が「Plugin Directory」として再編されています。
Q. Apps in ChatGPTと、ZapierなどでNotion等を連携する方法はどう違いますか?
Zapier等は、ChatGPTの外側に自動化ワークフローを構築する仕組みです。一方Apps in ChatGPTは、OpenAI公式のエコシステム内で、チャットの会話に外部アプリの機能を直接組み込む点が異なります。既存の自動化フローに組み込みたい場合はZapier等、対話的な操作性を重視する場合はApps in ChatGPTが適しています。
Q. 企業でApps in ChatGPTを導入する際、最初に何をすべきですか?
業務利用を許可するアプリをあらかじめリスト化し、それ以外の接続は原則禁止とするルールを整備することが基本です。特に機密性の高いデータを扱うアプリは、法務・情報セキュリティ部門を交えた個別審査を経てから許可することが望まれます。
Q. アプリに入力した情報はどこに送信されますか?また、AIの学習に使われますか?
入力した情報は、ChatGPTだけでなく、接続先のアプリ提供元のサーバーにも送信されます。学習利用については、Free・Plus・Go・Proの個人向けプランでは「みんなのためにモデルを改善する」設定がオンだと学習に使われる可能性がありますが、Business・Enterprise・Eduでは標準で学習に使われません。複数の事業者のプライバシーポリシーやセキュリティ基準が関わるため、接続するアプリごとにデータ取り扱い方針を確認することが重要です。
Q. 個人がそれぞれアプリを接続する運用のリスクは何ですか?
情シス部門が接続状況を把握できなくなり、機密情報が意図せず外部に送信されたり、意図せずモデルの学習に使われたりするリスクが高まります。Business・Enterpriseプランの管理機能を使えば、組織として許可するアプリを一元的にコントロールできます。
Q. アプリを通じて得られた情報はそのまま信用してよいですか?
AIによる生成物であるため、常に正確とは限りません。特に税務判断や料金情報など実務上の意思決定に関わる操作は、最終確認を人間が行い、重要な情報はアプリの公式画面や一次情報でダブルチェックすることが望まれます。
まとめ
Apps in ChatGPTは、ChatGPTを「アプリの操作拠点」へと進化させる便利な機能ですが、企業で導入する際は、データが複数の事業者に渡るという構造的な特徴を理解したガバナンス設計が欠かせません。
- Apps in ChatGPTは、MCPを基盤としたOpenAI公式のアプリエコシステムで、Zapier等の外部連携ツールとは仕組みが異なる(2026年7月からは「Plugin Directory」として提供)
- freee、Notion、Slack、Zoomなどビジネス系アプリの連携は、日常業務の効率化に活用できる
- 業務利用を許可するアプリをリスト化し、個人判断での無秩序な接続を防ぐルールが情シス部門には必要
- 入力データが接続先アプリのサーバーにも送信される点に加え、個人向けプランと法人向けプランで学習データの扱いが異なる点を踏まえ、機密レベルに応じた運用ルールを整備する
- Business・Enterpriseでアプリの既定の有効/無効が異なる点も踏まえ、一元管理と定期的な接続状況の棚卸しを行う
- アプリの回答結果も生成AIの出力である以上、重要な判断には人間による確認を組み込むことが望ましい
まずは自社でApps in ChatGPTがどの程度使われているかを確認し、業務利用を許可するアプリのリスト作成から始めてみてください。










