Eコマース

ヘッドレスコマースとは?業種別のメリットやeコマースとの違いを詳しく解説

柔軟性・拡張性・メンテナンス性などさまざまな観点でのメリットがあるヘッドレスコマースは、業種を問わずeコマースにおける課題を解決する有効なアプローチです。

ここでは、ヘッドレスコマースアーキテクチャのメリットや活用方法についてご紹介します。

1.ヘッドレスコマースとは

はじめに、ヘッドレスコマースの概要とメリットについて解説します。

概要

ヘッドレスコマースは、オンラインでの商品やサービスの販売を行うための新しい形式のeコマースの方法であり、eコマースのフロントエンドとバックエンドを切り離して運用するアーキテクチャやアプローチを指します。

フロントエンドとは、ECサイトやWebサイト、スマホアプリなどにおけるユーザーインターフェースの部分を指し、具体的には以下の要素を含むものです。

-ウェブページの外観などのデザイン/レイアウト
-商品の写真や説明、価格、レビューなどのコンテンツ
-ショッピングカートなどの販売機能

バックエンドとは、サイトの裏側で動作するサーバーサイドにおける処理や、サイトの管理者向けの機能のことであり、具体的には以下の要素を含むものです。

-商品の情報、在庫、ユーザー情報、注文履歴などのデータベース
-注文の確認、決済サービスとの連携などの注文処理
-売上レポートなどの売上管理
-基幹システムやCRMなどの他システムとの連携インターフェース

ヘッドレスコマースの「ヘッド」とはフロントエンドのことを指し、このフロントエンドが分離しているアーキテクチャのため「ヘッドレス」という名前が付けられました。

分離されているフロントエンドとバックエンドはAPIによる連携を中心とした設計になっており、バックエンドからウェブサイトやモバイルアプリ、モール、自社ECサイトなどのさまざまなフロントエンドと柔軟にデータ連携することができる点がヘッドレスコマースの特徴です。

マルチプラットフォーム戦略として企業が新しいデバイスやプラットフォームでの販売を迅速に開始したい場合や、頻繁にフロントエンドのデザインを変更したい場合などに、ヘッドレスコマースのアプローチが有効です。

メリット

ヘッドレスコマースの主なメリットは以下のとおりです。

柔軟性:
フロントエンドとバックエンドが分離しているため、フロントエンド側の最適化やカスタマイズが容易です。新しいフロントエンドの追加や変更、統合もしやすいといえます。

スピード:
フロントエンド側ではAPI連携により必要なデータのみを取得する設計とできるため、ウェブサイトやアプリのページロードを高速化できます。

拡張性:
バックエンドとフロントエンドが分離しているため、機能の追加やカスタマイズなどビジネスニーズに応じた拡張がしやすくなります。

技術革新への対応:
汎用的なAPI連携をベースとしているため、モバイルやタブレットのように新しい技術やプラットフォームとの連携を構築しやすいといえます。今後新デバイスや新技術が登場した際にも高速な対応を実現できます。

耐障害性:
フロントエンドとバックエンドが疎結合となっているため、一部のコンポーネントに障害が発生しても、他の部分が影響を受けにくいという特徴があります。

デメリット

一方で、ヘッドレスコマースのデメリットもあります。

技術的複雑性:
従来のeコマースプラットフォームと異なるアーキテクチャのため、開発者が新しい技術を学ぶ必要があり、ヘッドレスコマースを構築できるエンジニアの確保が必要です。

また、複数のAPIを管理し、それらの間でのデータ連携を適切に行う必要があるため、設計や実装が難しいという面もあります。

コスト:
既存のフロントエンド・バックエンドからヘッドレスコマースに移行するためには、既存のシステムとの統合や新しいフロントエンドの設計・開発のために時間とコストがかかります。また、独自のカスタマイズを行う場合にはコストも高まります。

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2.ヘッドレスコマースが注目されている背景

ここでは、ヘッドレスコマースが注目されている背景について詳しく解説します。

マルチチャネル戦略

消費者は店舗やECサイトなどのさまざまなチャネル経由で、スマートフォンやタブレットなどのさまざまなデバイスを利用して購買を行うようになりました。このような背景から、マルチチャネル戦略への取り組みが盛んです。ヘッドレスコマースは、これらのマルチチャネルにおいて一貫性のある顧客体験を提供しやすいという特徴があります。

最新技術への対応が早い

従来のeコマースプラットフォームはフロントエンドとバックエンドが一体化した「モノシリック」なアーキテクチャのため、新しい技術やツールの採用が難しく、変更やアップデートが遅れがちでした。ヘッドレスコマースはフレキシブルな構造を持っており、新しい技術の導入や変更に迅速に対応しやすいというメリットがあり注目を集めています。

パーソナライズの重要性

消費者のニーズや嗜好に合わせた対応が求められる中、ヘッドレスコマースはフロントエンドとバックエンドを独立して運用することができるため、顧客ニーズに合わせてスピーディにフロントエンドを最適化しやすいといえます。

APIファースト

マイクロサービスモデルなどの最近の技術トレンドに共通する点として、疎結合なアーキテクチャが推進されています。ヘッドレスコマースはAPIを介してデータをやりとりすることで、システム間の独立性を高めつつ連携性や拡張性を確保しており、これからのeコマースの土台として適していると評価されています。

マーケティングツールとの連携

ヘッドレスコマースはマーケティングツールやソーシャルメディアとの連携が容易であり、さまざまなマーケティング施策を実施しやすいという特徴があります。このような特徴もヘッドエスコマースの評価が高まる一因となっています。

これらの背景から、ヘッドレスコマースは現代のeコマース環境での要件を満たす柔軟性と拡張性を持っており、注目されています。

3.ヘッドレスコマースがもたらす業種別のメリット

ヘッドレスコマースという名称から小売業向けを想像しがちですが、ヘッドレスコマースはどのような業種においても活用できるアーキテクチャです。フロントエンドとバックエンドを分離するというヘッドレスコマースの概念は、幅広い業種で共通したアプローチとして活用することができます。

ここでは、製造業・小売業・不動産業・旅行業の4つの業種を対象に、ヘッドレスコマースの活用メリットについてご紹介します。

製造業におけるメリット

商品情報の一元化

近年、製造業においてECサイトを立ち上げて直販を行う、いわゆる「D2C(DirecttoConsumer)」と呼ばれる施策を進めるケースが増えてきました。D2C施策においてECサイトを立ち上げる際に、ヘッドレスコマースは有効な選択肢となります。

多数の商品・部品のラインナップに加え、それらの詳細なスペックを持つ場合でも、ヘッドレスコマースならこれらの情報を一元的に管理し、APIを通じて各フロントエンドに容易に連携することができます。

アフターサービスの強化

顧客へのアフターサービスの強化にもヘッドレスコマースを活用できます。CRMや在庫管理システムなどとも連携し、顧客ごとにフロントエンドに表示する情報をコントロールします。具体的には、在庫情報、製品詳細、顧客の購入履歴などのデータをリアルタイムでフロントエンドに表示し、顧客がセルフサービスで消耗品やサービスパーツなどの必要な情報を得られるようにします。

この機能により、顧客が毎回サポートに問い合わせる手間が減り、CXの向上にもつながります。

フロントエンドの充実

ヘッドレスコマースにより新製品の追加やスペックの変更など、製品情報の更新を迅速に行うことができます。また、バックエンドとのAPI連携によりフロントエンドから製品のスペックをもとにした高度な検索機能やフィルタリングを高速に実現できるため、従来よりも顧客は求める商品を効率的に探し出すことができます。

拡張性と他システムとの連携

生産管理、在庫管理、物流システムなど、製造業に不可欠な多岐にわたるシステムとの連携を実現するためにもヘッドレスコマースが有効です。ヘッドレスコマースはAPI中心のアーキテクチャであるため、これらの外部システムとの連携を低コスト・短期間で実現できます。

これらの理由から、製造業が自社ECサイトを運営する際にヘッドレスコマースは効率的な運営と最適な顧客体験を提供する強力なツールとなります。

小売業におけるメリット

商品情報・コンテンツの一元管理

ヘッドレスコマースは商品情報や在庫、価格などのデータを一つのバックエンドシステムで管理するアーキテクチャです。フロントエンドとバックエンドが分離しているため、商品情報やキャンペーン情報などの更新をスピーディに行うことができます。これにより、複数のモールや自社ECサイトに情報を一貫して反映させることが容易になります。

カスタマイズの柔軟性

フロントとバックエンドが分離しているため、モールや自社ECサイトごとに、UI/UXやデザインをカスタマイズしやすいという点もメリットといえるでしょう。

APIによる連携

API連携により、バックエンドから異なるモールのプラットフォームや他のシステムとの連携を効率的に行うことができます。

小売業者が複数のモールに出店するなどマルチチャネル戦略を推進するにあたり、ヘッドレスコマースを採用することでスムーズに戦略を実行することができるでしょう。

不動産業におけるメリット

物件情報の一元管理

不動産業のeコマースでは、物件の詳細情報、写真、価格、所在地などが多岐にわたり、かつ掲載先も複数サイトという特徴があります。ヘッドレスコマースのバックエンドでは、これらの情報を一元的に管理し、APIを通じて各フロントエンドに提供することができるため、マルチチャネル対応の労力が低減されます。

不動産業界は、新しい物件の追加や売買した場合の情報変更にリアルタイムでフロントエンド側への更新が求められる業界です。ヘッドレスコマースを採用することで、迅速にこれらの更新を実現できます。

高度な検索

顧客は物件を検索する際、条件を細かく指定することが一般的です。地域、価格帯、間取りなどの高度な検索条件やフィルタリングをAPIと連携することで、高速かつ柔軟に実現できます。

VRや360°画像の対応

不動産業のeコマースではVR体験や360°画像を用いた物件の仮想的な内覧も一般的になりました。ヘッドレスコマースのアーキテクチャを利用すると、これらのテクノロジーを柔軟にフロントエンドに統合し、UXを高めることができます。

外部サービスとの連携

物件情報の他に地図サービスや交通情報、近隣の生活施設情報などをAPI連携によりフロントエンドに統合することで、より詳細な情報提を実現することもできます。

上記の理由から、不動産業においてヘッドレスコマースは、物件情報の効率的な管理や提供、マルチチャネル対応、顧客体験の向上などをサポートする強力なツールとなります。

旅行業におけるメリット

多様なツアー・宿泊情報の一元管理

旅行業のeコマースでは、ツアーやホテル、観光スポット、料金、利用可能日数など多岐にわたる情報をサイトに掲載する必要があります。また、自社サイトだけでなく、複数の旅行情報サイトに情報を掲載することも一般的に行われています。

ヘッドレスコマースのバックエンドでは、これらの情報を一元的に管理し、APIを通じて各フロントエンドにスムーズに提供することができます。

リアルタイムの空席・空室情報更新

旅行業では、予約状況の変動に合わせてリアルタイムで空席や空室情報を更新する必要があります。予約はオンライン・オフラインの両チャネルから行われるため、予約状況を一元的に管理しつつ、オンラインのフロントエンド側に反映するようなアーキテクチャが必要です。

ヘッドレスのアーキテクチャを利用すれば、データの即時性を保ちつつ複数サイトの情報をスピーディに更新することができます。

外部サービスとの連携

API連携により、フロントエンド側と地図や天気予報、レビューサイトなどの外部サービスとの連携が容易です。ニーズの高い情報を複数のサイトに一元的に提供することが可能となります。

高度な検索機能とフィルタリング

出発地、目的地、日数、予算などの条件を指定してツアーやホテルを検索したいニーズに対して、高度な検索やフィルタリングをバックエンドとのAPI連携を介して実現できます。

リッチコンテンツの対応

訪問先の魅力を伝えるためには、静止画だけでなく動画や360°画像、VRなどのリッチコンテンツが重要です。ヘッドレスコマースを活用することで、これらのコンテンツをバックエンド側で一元管理しつつ、PCやモバイルなどの利用者側の閲覧環境に応じてフロントエンド側で表示し、魅力的なユーザーエクスペリエンスを提供することができます。

このような観点から、旅行業においてもヘッドレスコマースは顧客体験の向上やオペレーションの効率化をサポートする有効なツールとなるでしょう。

4.ヘッドレスコマースと従来のeコマースの違い

従来のeコマースとヘッドレスコマースにはどのような違いがあるのでしょうか。ここでは、アーキテクチャや柔軟性などの軸で従来のeコマースプラットフォームとの比較を行います。

基本的なアーキテクチャの違い

ヘッドレスコマース

ヘッドレスコマースでは、フロントエンドとバックエンドが完全に分離されており、APIを介して通信します。両者が分離されていることで、特定の部分の更新や修正が必要な場合にも、他の部分に影響を及ぼすことなく対応できます。たとえばフロントエンド側のデザインを変更する際にも、バックエンド側と連携するためのAPIは変更されないため、バックエンドに影響を与えることはありません。フロントエンドとバックエンドを独立してアップデートすることが可能です。

また、単一のバックエンドと複数のフロントエンドとを連携させることも容易です。

従来のeコマースプラットフォーム

フロントエンドとバックエンドが一体化されている、いわゆる「モノシリック」な設計となっています。これにより、1箇所の変更が全体に影響を与えやすく、簡単なアップデートでもサイト全体を停止してデプロイしないといけないケースが多いといえます。

フロントエンドとバックエンドが一体化されているため、マルチチャネル対応に苦労しがちです。各チャネルのサイトにバックエンドが組み込まれているため、在庫情報や商品情報、予約情報などを同期させるためには、そのさらに裏側に各バックエンド間を連携する仕組みが必要となります。

柔軟性の違い

ヘッドレスコマース

フロントエンドとバックエンドの分離により高い柔軟性を確保でき、UI/UXや顧客ニーズの潮流に素早く対応できます。API連携により新しく登場したツールとも連携しやすく、新しい顧客体験を即座にとりいれることができます。

従来のeコマースプラットフォーム

プラットフォームが提供する範囲内でカスタマイズが可能であり、柔軟性には限りがあります。

パフォーマンス

ヘッドレスコマース

必要なデータのみをAPIで取得するため、ウェブサイトのページロードが早く、コンテンツ容量がますます増加していく時代に適した仕組みといえます。

従来のeコマースプラットフォーム

ページロードのたびに全てのコンポーネントを読み込むケースが多く、コンテンツの容量によってパフォーマンスに大きな影響が出てしまいます。

データの更新

ヘッドレスコマース

必要なデータのみをAPIで取得するため、データベースの最新情報を常に各チャネルに配信できます。

従来のeコマースプラットフォーム

バックエンドでHTMLページを生成してからフロントエンドに送信する仕組みが多く、新しいデータを反映するためには全ページや部分的なページの再レンダリングが必要となる場合があります。よって、データの反映にタイムラグが生じやすいという欠点があります。

また、多くの場合キャッシュが利用されます。キャッシュはページの高速表示に寄与しますが、設定するキャッシュの有効期限によっては最新のデータがすぐに表示されないというデメリットもあります。

5.SAP Commerce Cloudがヘッドレスコマースの実現に最適な理由とは?

このように、ヘッドレスコマースには従来のアーキテクチャと比較してさまざまなメリットがあります。ヘッドレスコマースアーキテクチャの採用によりこのようなメリットを実現するのが、SAP Commerce Cloudです。

SAP Commerce Cloudは以下のようなメリットにより、あらゆる業種のビジネスに貢献します。

柔軟性と拡張性

SAP Commerce CloudはAPIファーストのアプローチを採用しており、外部のフロントエンドツールやプラットフォームとの統合が容易です。これにより、多様なフロントエンドとの連携を実現できます。

スケーラビリティ

クラウドベースのプラットフォームのため、ビジネスの成長に合わせてスケールアップ・ダウンすることが可能です。ピーク時のトラフィックにも柔軟に対応でき、キャンペーンや広告などによる一時的なアクセス増にも対応しやすい仕組みです。

多様なSAPソリューションとの連携

ERPやCRMなど、さまざまなSAP製品とシームレスな連携が可能です。これにより、実際のビジネスプロセスにおけるデータの一貫性やリアルタイムの情報共有が強化され、EndToEndの革新につなげることができます。

豊富なコマース機能

B2B、B2Cの豊富なコマース機能が提供されており、多様なビジネスモデルや業種に適応することができます。

グローバル対応

多言語、多通貨に対応しており、グローバル展開にも適しています。

このように、SAPCommerceCloudは、最新の潮流にもとづいたヘッドレスコマースの実現に適したツールといえます。

まとめ

ヘッドレスコマースは、柔軟性やパフォーマンスなど、従来のeコマースの課題を解決できることから、次世代のeコマースを支える重要なアプローチになると言われています。

ヘッドレスコマースは、eコマースにおける最新のアプローチとして有効な選択肢となるでしょう。小売業にかぎらず、さまざまな業界に応用できるため、ぜひ積極的に取り入れると良いでしょう。

ヘッドレスコマースに取り組む際は、柔軟性・拡張性・メンテナンス性・パフォーマンスに優れるSAP Commerce Cloudの活用も検討してみて下さい。

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