近年、アプリケーション開発を内製化する方法として「ローコード開発」が注目を集めています。ローコード開発は、開発スピードの向上やITコスト削減などメリットが多いものの、セキュリティリスクや人材不足など課題もあります。本記事では、ローコード開発導入のメリットや、課題とその対策、導入の際に踏むべきステップなどを解説します。
ローコード開発とは何か?導入が注目される背景
ローコード開発は、DX推進・IT人材不足・開発速度の課題を解決する新しい開発手法として注目されています。ビジネスの迅速な変化に対応するため、複雑なシステム開発を簡易化し、経営課題を直接解決する手法として支持されています。これは、企業が競争力を維持するための技術基盤を築く助けとなります。
ローコード開発を導入することで得られるビジネスインパクト
ローコード開発は、単なる技術的な進歩にとどまらず、企業の生産性向上、アジリティの向上、業務効率化といった幅広いビジネス効果をもたらします。
開発スピードの向上とITコストの最適化
ローコード開発により、Webサイトやアプリケーションの開発を効率化できます。従来の開発では、プログラミング言語を用いたコーディングが不可欠でした。一方、ローコード開発では、GUIによる直感的・視覚的な操作で機能を組み合わせたり、設計情報を入力したりして、ソースコードを自動生成することが可能です。直接的なコーディング作業を最小限に抑えられるため、従来の手法と比較して、開発工程を大幅に効率化できます。ITコスト面では、開発人件費に加え、システム開発担当者の育成コストやシステム外注費用なども削減できます。
人手不足時代の開発体制の補完
コーディングの効率化・自動化によって、人材不足を補うことも可能です。国内では少子高齢化に伴い生産年齢人口が減少し、特にIT人材の労働力不足が大きな問題となっています。ローコード開発を導入すれば、プログラミングに関連する業務の負荷を軽減でき、開発工数を大幅に削減できます。コーディング作業が簡略化されれば、少ない人的資源で従来と同等以上の成果が得られ、将来的な人材不足への対応も期待できます。
業務部門が自らアプリ開発を担える体制の構築
ローコード導入により、業務部門が自ら業務改善アプリケーションを開発・運用できるようになることも、メリットのひとつです。例えばフロントエンド開発では、専門的な知識が求められます。しかしローコード開発では、GUIを使用したドラッグ&ドロップを中心にして、PowerPointのようなプレゼンテーションツールでオブジェクトを配置する感覚で、開発を進められます。プログラミング知識に乏しい非エンジニア部門でも、業務支援ツールを開発したり、コンポーネントを調整・変更したりすることが可能です。
業務部門が自らアプリケーションを開発できるようになれば、現場課題への迅速な対応が可能です。これにより、現場の声を直接プロダクトに反映し、要件と成果物の乖離を最小限に抑えられます。
内製化によるアジリティ向上
ビジネス環境が急速に変化する昨今、企業が競争優位を維持するには、迅速な意思決定や対応力が欠かせません。ローコード開発の導入は、企業のアジリティ向上にもつながります。アプリケーションやシステム制作を外部委託に頼らず、内製化を進めれば、要望から実装までのリードタイムが大幅に短縮されます。IT部門が基盤整備やガイドライン策定を担うことで、スピードとガバナンスを両立した運用が可能です。
DX推進を加速するローコード基盤の活用
企業がDXを推進するには、業務改善のスピードと組織内の自律的な変革力が求められます。ローコード基盤を活用すれば、業務部門とIT部門が連携してアプリケーションを内製する体制を構築できます。特に、ローコード開発プラットフォームの「Microsoft Power Platform」は、データ活用やアプリケーション開発などのサービスが統合されており、全社的なDX推進を持続的に進める土台として有効です。
ローコード開発の導入前に押さえるべき4つの課題と対策
ローコード開発は世界的に注目を集めている手法ですが、課題点があるのも事実です。
導入および開発コスト
ローコード開発では、プラットフォームが提供する機能の範囲でしか開発業務に対応できないため、機能を追加したり、容量を拡張したりするには、プランの変更に伴い追加費用が発生します。さらに、システムがブラックボックス化し、障害発生時に原因特定や調査対応のコストが発生するおそれもあります。開発コストの試算にあたっては、ライセンス費用や初期構築費用だけでなく、社内教育や運用設計の工数も含む全体コストを把握する必要があります。
セキュリティとガバナンスのリスク管理
ローコード開発では、サイバー攻撃のリスクや不適切なアクセス権限の設定による情報漏洩が課題となります。例えば、誤った権限管理により意図しないデータ公開が発生する可能性があります。この課題解決には、IT部門が統一ルールを策定し、アクセス制御や変更履歴の管理機能を活用してガバナンス強化を図ることが重要です。
開発・運用スキルの社内リソース課題
システム要件の整理や設計には一定のITリテラシーが必要であり、対応できる人材が社内に限られているという課題もあります。業務の属人化や開発品質のばらつきを防ぐには、社内教育体制の整備やナレッジの共有体制を整えることが不可欠です。社内研修や開発ガイドラインの早期整備により、内製化を持続可能な体制に転換できます。
既存システムとの連携・移行のハードル
開発の際に利用するローコードツールは、基幹系システムやレガシー環境との連携で制限が生じることがあります。この問題はAPI連携やRPAとの組み合わせで補完できますが、事前に技術的な適合性を検証しておく必要があります。まずはスモールスタートで周辺業務から導入し、段階的に中核業務へ展開する戦略が有効です。
【5つのステップ】ローコード開発導入の進め方
ローコード開発では、不要なアプリケーションの乱立を防止するためにもシステム管理部門による統制が必要です。ローコード開発を導入する際には、
- アーキテクチャを理解する
- 利用方針を決める
- 利用方針に基づき基盤を設定する
- アプリケーションを開発する
- 運用を管理する
の5段階のステップを踏んで進めることが重要です。
1. アーキテクチャを理解する
ローコード開発を導入するための最初のステップはアーキテクチャを理解することです。例えばPower Platformは「Power Apps」「Power BI」「Power Automate」「Power Virtual Agents」「Power Pages」という5つのサービスで構成されていますが、導入時にはまず、各サービスの機能や対応領域、制限の範囲などを理解する必要があります。
2. 利用方針を決める
ローコード開発を導入することによって何がしたいのか=利用方針の決定が、導入時の第2のステップです。具体的には、実装したい機能や外部サービスとの連携性、セキュリティ要件などを整理し、実現可能性を検討する必要があります。ローコード開発プラットフォームの運用管理を担当する部門やアクセス権限の設定、データの取り扱いなどに関しても定めておかなければなりません。
3. 利用方針に基づき基盤を設定する
第3のステップが運用基盤の設定です。例えばPower Platformであれば、Power Appsの基本的な設定が必要です。さらにアプリケーションの用途やセキュリティポリシー、外部接続の有無や機能公開の可否なども定めます。運用基盤を設定する段階で業務要件を明確化しておくことで、運用開始後の改善や調整が容易になります。
4. アプリケーションを開発する
基盤の設定が完了したら、いよいよアプリケーションを開発します。これが第4のステップです。ローコード開発でも従来の開発手法と同様に「要件定義」「設計」「構築」「テスト」「リリース」の工程を辿ります。ただし、設計やテストの工程は大幅に省力でき、構築のプロセスはGUIを使用して、最小限のコーディングで開発できます。標準機能で実現できない要件がある場合には、プログラミングによる機能の追加や他システムとの連携などを検討する必要があります。
5. 運用を管理する
開発したアプリケーションの正常性を保つためには、継続的に運用を管理していく必要があります。アプリケーションの運用状況を定期的にモニタリングして、パフォーマンスやセキュリティを適切な状態に保ち、必要に応じて機能の調整や追加を検討します。業務要件を満たせていない場合には他システムとの統合や連携、あるいは新たにアプリケーションを開発する必要があります。
導入後に活用を定着させるための運用ポイント
ローコード開発の導入は、DX推進や業務改善の第一歩に過ぎません。現場で継続的に活用し、組織に定着させるためには、導入後の運用体制やサポート体制が重要です。ここでは、ローコード開発を効果的に運用し定着させるための実践的なポイントを紹介します。
現場ニーズを起点にアプリを作る
現場でツールが利用されない要因のひとつは、現場の課題やニーズとの乖離です。開発の方向性が現場の実情とずれている場合、運用上の手間や使いにくさを感じさせ、継続的な利用につながりません。現場からのフィードバックを取り入れ、業務に即した仕様に柔軟に対応することが重要です。開発体制を社内だけで構築するのが難しい場合は、ローコード開発のサポートに精通したベンダーのサポートを受けるのも手です。例えば、「Power Platform DX実践プログラム」では、オプションでローコードツールの定着化・立ち上げサポートを提供しています。
効果を見える化する
導入効果が不透明なままでは、上層部の理解を得られず、リソース投資や他部署への展開、継続的な投資に至らない可能性があります。導入後は、開発スピードの向上や業務処理時間の短縮、ミスの削減などの定量的な成果に加え、現場からの評価や業務プロセスの改善といった定性的な効果も測定し、社内で共有することが効果的です。可視化された成果があれば、ローコード開発の価値が明確になり、取り組みを組織全体に広げていく後押しとなります。
相談・サポート体制を作る
活用が止まる大きな理由が、「誰に聞けばよいのかわからない」状態に陥ることです。サポート体制は、単なるトラブル対応だけでなく、継続的な活用を後押しする仕組みとして設計する必要があります。相談体制は必ずしも自社で用意しなければならないわけではなく、社外で頼れる先を作っておくのもひとつの方法です。
ローコード開発を成功に導く「Power Platform DX実践プログラム」
ローコード開発の導入支援なら、「Power Platform DX実践プログラム」がおすすめです。IT部門の負担を減らして、現場の業務担当者の誰もが業務変革を進められるような実践的なサポート内容です。実践プログラムを通して意識改革を促すことにより、現場のニーズをより的確に反映した効率化が可能となり、ビジネスの変化にも迅速に対応できます。
プログラムの詳細については、ぜひ資料をダウンロードしてご確認ください。
まとめ
ローコード開発を導入すれば、コーディングの工数削減や人材不足の解消に加え、ITコストの最適化やアジリティ向上など、企業にとってさまざまなベネフィットが得られます。「Power Platform DX実践プログラム」を利用し、単なる導入にとどまらない、現場に根付いた継続的な活用を実現しましょう。