データ分析、データベース

SAPのデータ分析にも用いられる多次元データベース(OLAP)分析とは?

SAPを導入している企業のIT担当者にとって、多次元データベースやOLAP分析は気になるところです。本記事では、まずSAPと多次元データベースの概要を説明し、OLAP分析の概要と手法や、企業で活用する方法についても事例を交えて紹介します。

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データ分析の工程と関連ツールを紹介

そもそもSAPとは

SAPはドイツのソフトウェア会社SAP社が開発・提供しているERP製品の1つです。ERPとは企業全体の人・物・金・情報などの経営リソースを一元管理するソフトウェアパッケージで、さまざまな企業で導入されています。SAPは世界の約20万以上の企業が導入し、日本でも2,000社以上が利用しています。他社のERPに比べ、業務サポートの範囲が広いことが特徴です。

財務会計と管理会計を担当する会計モジュール、販売管理と在庫管理を担当するロジスティックモジュール、人事管理を担当する人事モジュールのほか、生産管理やプロジェクト管理、プラント保全のモジュールなど、さまざまなモジュールを組み合わせて設計されています。
SAPが多くの企業で導入される人気の理由は、システムの完成度と信頼性が高いことです。SAP導入により業務プロセスが世界標準レベルに引き上げられ、業務効率化が図れます。一元管理によりデータ処理も効率化し、作業履歴の視覚化も可能です。

データ分析方法には、大量にある小さいサイズのデータを処理に向いたOLTP(Online Transaction Processing)と、大量のデータベース分析に適したOLAP(Online Analytical Processing)があります。SAP社が提供するERP、SAP S/4HANAはOLTPとOLAPを1つのデータベースでリアルタイムに分析・実行することが可能です。これはメモリ内を3ヶ所に分けてデータを保存し、最終的にカラム型で格納するという段階的なデータ処理を行うためです。

多次元データベースの分析

次に多次元データベースとその構造、分析手法であるOLAPについて解説します。多次元データベースは多くの企業で導入が進むBIツールの操作対象となるため、明確に把握しておきましょう。

多次元データベースとは

データベースに集まった大量のデータを、多くの視点(次元またはディメンション)で簡単かつスピーディーに分析できるよう、複数の軸で構成したもの。これを「多次元データベース」と呼びます。英語での同義語Multi-Dimensional Databaseを略して、「MDDB」とも呼ばれます。
多次元データベースの特徴は、データに複数存在する属性項目を望む結果に合わせて自由に切り替え、データの検索・集計ができるアーキテクチャになっていることです。BI(ビジネスインテリジェンスツール)の機能の1つであるOLAP(オンライン分析処理)に多く利用されます。なかでもOLAPで操作対象となる多次元データベースをキューブと呼びます。

従来から利用されているRDB(リレーショナル型データベース)は、2次元テーブルで管理し、分析に応じた複数の表を結合させて集計結果を表示します。属性項目の視点を変更する度にデータの関連付けが必要なため、レスポンスに時間がかかり、即応性に劣るという課題がありました。最近では高速検索機能を実装したRDBで多次元分析を可能にしたり、RDBにMDDBを結合したりする動きも起きています。

キューブ構造

BIの機能であるOLAPの対象となる多次元データベースのキューブ。RDBのように横軸と縦軸の2次元だけでなく、奥行きのある3次元以上の新たなディメンション(分析の切り口)を備えており、立方体を意味するキューブと呼ばれます。
「多次元データ分析」と言った場合は、このキューブによる分析を指しています。つまりキューブは、多次元分析に必要な専用データベースであるとも言えます。キューブの特徴は、分析の視点となるディメンションと、分析の対象となる金額や数量などのメジャー(集計値)で構成されている点です。

キューブと似た言葉にデータマートがありますが、データマートは「企業データから目的に合わせた一部分を切り出したデータベース」を指し、キューブは「データを切り出す方式を指す」という違いがあります。企業が求めるデータマートを取得するために、多次元データベース群のキューブを活用する、というイメージです。

OLAP分析とは

OLAPは、「オンライン分析処理」と訳され、経営意思の決定に役立つBIツールが持つ機能の1つです。大量データから多元的で複雑な分析を素早くレスポンスする方法で、業務管理や市場分析、計画作成などに利用され、キューブ構造のデータベース構築が必要になります。この環境下で、ディメンションとメジャーの設定を変えることで、エリアごとの顧客の年代を集計したり、エリアをさらに細かく分けて分析したりすることが可能となるのです。SQLの知識がなくても容易に検索・分析ができるようにGUIが用いられており、表やグラフによる視覚化もスムーズに実現してくれます。

OLAPの実装方式はMOLAP(Multi-dimensional OLAP)とROLAP(Relational OLAP)、HOLAP(Hybrid OLAP)の3種類があります。MOLAPは独自の多次元形式で、レスポンスが速いですが、最新データの更新は手間がかかります。ROLAPはRDBを使用し、ディメンションを柔軟に変更可能ですが、MOLAPよりレスポンスが遅くなります。HOLAPは両者の特徴を備えていますが、速度はデータベースの処理速度次第です。

OLAP分析の手法

OLAP分析にはスライシング、ダイシング、ドリリングの3つの手法があります。それぞれの手法を解説します。

スライシング

スライシングとは、「多次元データベース内の1断面を切り取り、集計項目を縦軸と横軸に指定し、2次元の表形式で分析する手法」です。データの一面を薄くスライスするイメージなのでスライシングと呼びます。

例えばスライスする項目にプロジェクトを設定することで、販売チームごとの集計表を表示することが可能です。
縦軸にプロジェクトの費用項目、横軸に年月を指定すると、月ごとにかかる項目別費用がわかります。商品をスライス項目に設定し、縦軸に支店名、横軸に期間を指定すると、月別支店別売上推移表も作成できます。また、品種ごとの売上高など特定の製品を取り上げて売り上げの推移を見たいときにもスライシングは最適です。

ダイシング

ダイシングは多次元データベースサイコロ(ダイス)のように自由に転がす(ダイシング)ことで、観点を切り替える分析手法です。縦軸と横軸の集計項目を自由に指定し、その軸を入れ替えて組み合わせを変えられます。例えばプロジェクトを縦軸、販売管理項目を横軸にしたリスト表は販売管理項目がプロジェクト別に重なって見えますが、縦軸と横軸を入れ替えると、各プロジェクトを販売管理項目別に表示できます。

期間、支店、商品を集計項目に指定すれば、ダイシングによって支店ごとの月別商品別売上集計表や、月ごとの支店別商品別売上集計表など、集計軸を自由に組み合わせたデータ分析が可能です。分析する多次元データベースは同じでも、集計軸の操作でさまざまな視点の解析ができます。

ドリリング

ドリリングは多次元データベースの集計項目ごとのレベルを変更し、階層を変えて集計結果を分析する手法です。ドリリングの手法には「ドリルダウン・アップ」と「ドリルスルー」の2種類があります。ドリルダウンは集計結果をさらに掘り下げて内訳を細かく見る方法で、ドリルアップは逆に集計結果のレベルを統合して見ていきます。

例えば集計項目が期間であれば、ドリルダウンで年、月、週とデータの詳細を調べ、逆にドリルアップで週、月、年とデータを拡大して全体的な動きを確認することが可能です。一方ドリルスルーは集計結果でなく、元データの内訳を細かく見る手法です。

OLAP分析を企業で活かす

ではOLAP分析を業務の具体的な場面で活かす方法を解説します。活用事例を紹介しますので参考にしてください。

営業での活用事例

営業データを分析することで営業部門全体の動きを把握し、営業不振の原因を分析して改善につなげたり、逆に成績がよい理由を分析し、ノウハウを共有したりできます。OLAP分析を使用すれば各個人の成績を地域別、単価別に分析し、目標に対する進捗状況を把握可能。また、売上報告、計画作成などにも活用していけます。多次元データベースで分析できるので、提案数に対する成約率だけでなく、さまざまな角度から分析していくことで、見落としていた課題に気づくこともあるでしょう。

マーケティングでの活用事例

もっとも多い活用法は商品やサービスの広報・宣伝の施策に対し、獲得目標に対する進捗状況を知り、投資対効果を逐一把握することです。また、「通常とキャンペーン期間の売り上げの違いを把握する」「顧客の属性別の売り上げから商品ラインナップを改善する」「従業員別の販売数で評価に活かす」といったことをスムーズに実現します。さらに「天候や店舗により、売れ筋商品はどのように変動するのか」なども分析できます。これらの分析をうまく活用すれば、マーケティング施策の進捗確認や予算作成、計画立案も、飛躍的に明確的・具体的に進行させられるでしょう。

まとめ

SAPのデータ分析に用いられるOLAPはキューブ構造で、大量のデータを多次元の視点でスピーディーに解析できる機能です。集計項目の入れ替えや組み合わせの変更、集計結果のレベル変更によりインサイト情報を引き出します。営業の進捗・売上報告・計画作成、マーケティング施策の進捗確認や予算作成、計画立案にも活用可能です。

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