クラウド移行(インフラ・DB)

クラウドリフトとクラウドシフトの違いとは?移行成功のポイント・デメリットを紹介

DXで注目のクラウドリフトとは?クラウドシフトとの違いも解説 01

既存システムのクラウド移行により、企業のITインフラに大きな変革をもたらし、業務効率やコスト削減を実現できます。しかし、移行プロセスが複雑であるため、慎重な計画と実行が必要です。

その中で、段階的な移行を可能にし、企業のクラウド化を効果的に進める手法としてクラウドリフト&シフトというアプローチが注目されています。

本記事では、クラウドリフト&シフトの具体的なメリットや失敗を防ぐためのポイントについて詳しく解説します。これからクラウド移行を考えている企業は、ぜひ参考にしてください。

クラウド移行 まるわかりガイド

クラウドリフト&シフトとは

クラウドリフト&シフトとは、企業が既存のオンプレミス環境をクラウドへ移行する際の手法です。クラウドリフトとクラウドシフトはどちらもクラウド移行の手法ではありますが、両者には明確な違いが存在します。それぞれの概要と、両者を組み合わせたクラウドリフト&シフトについて解説します。

クラウドリフト|既存システムをクラウドへリフトアップ

クラウドリフトは、既存のオンプレミスシステムやアプリケーションをそのままの状態でクラウド環境に移行する手法です。リフトアップとも呼ばれ、このアプローチは最小限の手間でクラウドに移行できる点が最大の特徴です。

企業がシステムを大幅に再設計するリソースや時間を確保できない場合、クラウドリフトは有効です。アプリケーションやデータのアーキテクチャ自体は変更せず、現在の運用環境をそのまま移行するため、従来のワークフローを維持できます。

そのため、インフラの管理や運用コストの削減が目的で、クラウドの拡張性や柔軟性を享受しつつ、移行リスクを抑えたい企業に向いています。

クラウドシフト|クラウド上でゼロから構築

クラウドシフトは、既存システムをそのまま移行するのではなく、クラウド環境に最適化した形でゼロからシステムを構築する手法です。つまり、単なる移行というわけではなく、アプリケーションやインフラストラクチャをクラウドネイティブな形で再設計することを意味します。

従来のオンプレミスでのサーバ管理を廃止し、クラウドの利点であるスケーラビリティや柔軟性、コスト効率向上を取り入れることが可能です。

クラウドシフトは、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に効果的ですが、初期投資が必要であり、専門的なスキルやリソースが求められるため、計画的な導入が重要です。

クラウドリフト&シフト|クラウド移行後に調整

クラウドリフト&シフトは、まずは既存システムをそのままクラウドに移行(クラウドリフト)し、その後、システムを最適化(クラウドシフト)する手法です。

最初の段階でシステムの構造を大きく変更せず、運用を維持しながらクラウドに移行することで、ダウンタイムや業務への影響を最小限に抑えられます。クラウドリフト完了後、自動スケーリングやサーバレスアーキテクチャ、マイクロサービスへの分割などを導入することで、業務効率の向上やコスト削減を実現できます。

クラウドリフト&シフトを採用することで、クラウドリフト時のデメリットを抑えつつクラウド環境での柔軟性やパフォーマンスが向上し、長期的な企業成長が期待できるでしょう。

クラウドリフトが注目される背景

クラウドリフトが注目される背景

クラウドリフトが注目される背景には、企業の迅速なデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のニーズがあります。近年、クラウド技術の進化とともに、オンプレミスシステムの管理や運用に伴うコストやリソースの負担が相対的に増加し、クラウドへの移行が進められているからです。

その中でクラウドリフトは、既存のシステムを大幅に変更せず、短期間でクラウドへ移行できるため、移行に伴うリスクやコストを抑えつつクラウドの利点を享受できる点で注目されています。

特に、急速に変化する市場ニーズに対応するため、クラウドリフトは「まずはクラウドに移行する」という段階的アプローチを提供し、短期間でコスト効率を高める選択肢として支持されています。

クラウドリフト&シフトのメリット

クラウドリフト&シフトのメリット

クラウドリフト&シフトを行った場合の6つのメリットを紹介します。

  • クラウドシフトに比べてクラウド移行に要する手間や時間が抑えられる
  • クラウドリフトに比べて学習コストが低い
  • 災害や停電などのBCP対策になる
  • オンプレミスに比べて省スペースにつながる
  • オンプレミスに比べて障害対応の負担が軽減できる
  • サーバの台数増減やスペック変更が容易になる

クラウドシフトに比べてクラウド移行に要する手間や時間が抑えられる

クラウドリフト&シフトでは、クラウドシフトよりも少ない時間や手間でクラウド移行を進めることができます。以下のメリットをいいとこ取りしているためです。

  • クラウドリフト:クラウドへの移行時間が短い
  • クラウドシフト:クラウド上での運用に向けた利用を最適化できる

またクラウドリフト&シフトでは、以下のデメリットを補っていることも時間短縮の要因になります。

  • クラウドリフト:運用が移行前と同じため、クラウドでの運用上のメリットを活かしにくい
  • クラウドシフト:移行前からクラウド移行先のことを考えた環境に変換するため、移行前までの準備時間が長くなる

クラウドリフトに比べて利用者の学習コストが低い

クラウドリフト&シフトでは従業員の学習コストを低く抑えることができます。クラウドリフトのみでは、新しいサービスを用いる必要があるため、運用を行う社員の学習コストが大きくなってしまいます。クラウドリフト&シフトであれば、クラウド基盤移行(クラウドリフト)後に既存システムのクラウド最適化を行うのみなので、運用する社員はほとんど新たな学習をすることなく、使い慣れたシステムの習熟度を活かした運用が可能となります。

災害や停電などのBCP対策になる

クラウドリフト&シフトによるクラウド移行を行うことでBCP対策ができます。自社のみでBCP対策を行う場合は、別拠点を構えるだけでも大幅なコスト増加は避けられません。そこに運用コストが加わってしまうため、非常にハードルが高くなります。クラウドリフト&シフトを行うことで、クラウド上の複数拠点にシステムを用意できるため、別拠点を構えるコストを減らしたBCP対策ができます。

オンプレミスに比べて省スペースにつながる

クラウドリフト&シフトによるクラウド移行を行うことでサーバ設置のスペースを減らすことができます。オンプレミス環境でシステムを用意する場合は、サーバルームなどの部屋、物理サーバを設置するラック、配線と一定のスペースが必要です。クラウドリフト&シフトであれば、クラウド上のシステムにアクセスするだけでよくなるため、追加のスペースは不要になります。

オンプレミスに比べて障害対応の負担が軽減できる

クラウドリフト&シフトによるクラウド移行後であれば、クラウド事業者が責任を持つ部分については障害対応が不要となります。オンプレミス環境では障害発生時に全ての責任を自社で持たなければなりません。一方クラウドリフト&シフトすることで、クラウド事業者が責任を持つレイヤーの障害対応はクラウド事業者の担当となります。そのためクラウド事業者が責任を持つレイヤーの運用コストを減らすことができます。

  • IaaS:ハードウェアのレイヤー以下
  •  PaaS:プラットフォームのレイヤー以下
  • SaaS:サービスのレイヤー以下

サーバの台数増減やスペック変更が容易になる

クラウドリフト&シフトではその時の需要に合わせてサーバの台数増減やスペック変更を簡単に行うことができます。ハードウェア性能の柔軟性の高さがオンプレミスと比較したクラウド利用のメリットだからです。オンプレミスと同等の性能にクラウドリフトを行った際にパフォーマンスの低下が見られる場合などは、クラウドシフトでサーバの台数やスペックを調整することで、オンプレミスと同等以上のパフォーマンス発揮を実現できます。

クラウドリフト&シフトのデメリット・課題

クラウドリフト&シフトのデメリット・課題

クラウドリフト&シフトのメリットを紹介してきましたが、デメリットも存在します。以下4点のデメリットについて説明します。

  • 強固なセキュリティ対策が必要になる
  • 保守のための手間やコストがかかる
  • 利用できる人材を育てる必要がある
  • 既存のシステムと連携できない可能性がある

強固なセキュリティ対策が必要になる

クラウドリフト&シフトでは強固なセキュリティ対策が必要となります。クラウドサービスとの接続はインターネットなどを経由したアクセスが一般的です。外部へのアクセスといえばセキュリティ問題を避けて通ることはできません。特にクラウドリフト段階では、既存のシステムを移行するため、抱えている多くの社外秘情報を取り扱う必要があるでしょう。移行段階から強固なセキュリティ対策が必要となります。

保守のための手間やコストがかかる

クラウドリフト&シフトによってクラウド上でサービスを運営することになりますが、保守や運用のコストが0になることはありません。クラウド事業者が責任を持つレイヤーのみ保守から解放されますが、それより上のレイヤーについては自社で監視や保守を継続する必要があります。保守の人員やコストを計算に入れてクラウドリフト&シフトの計画を練るようにしましょう。

利用できる人材を育てる必要がある

クラウドリフト&シフトした後はシフト後のサービスに精通し、利用できる人材を育てる必要があります。クラウドリフト時点では移行前との違いが少ないため、習熟コストは少なく済みますが、クラウドシフトを行うことでクラウドサービスに合う形にサービスを変化させているためです。移行先のクラウドサービスについて理解できる人材を育てなければ、クラウドリフト&シフト完了後に正しく運用できなくなってしまいます。

既存のシステムと連携できない可能性がある

クラウドリフト&シフトによって移行されたシステムはクラウド基盤上で稼働するため、既存システムとの連携ができない可能性があります。

  • ネットワークの問題:閉域網上にはないシステムと連携させることになるために生じる
  • システム基盤の問題:移行先のクラウド基盤と移行前のシステム基盤のバージョンや互換性の違いによって生じる このような可能性を検討した上でクラウドリフト&シフトの計画を策定してください。

クラウドリフト&シフトの手順

いよいよ次はどのようにクラウドリフト&シフトを行うか手順を解説していきます。手順を5つに分割して詳しく見ていきましょう。

手順①既存環境の仮想化

クラウドリフト&シフトを行うためには、まずは既存の環境を仮想化する必要があります。仮想化とは、CPU、メモリ、ディスクなどのリソースを抽象化することで、ソフトウェアにより実質的に本物と同じように使えるようにする技術のことです。仮想化をすれば用途に合わせて別のサーバを用意する必要がなくなります。そして、クラウドを導入するためには、仮想化をすることが必須なのです。
とはいえ、多くの企業のサーバはすでに仮想化されているため、この手順は改めて踏まなくてもよい企業が多いです。既存環境の仮想化が完了したら、移行先のクラウドを選ぶ必要があります。

手順②クラウド環境をテスト利用

次に、クラウド環境をテスト的に利用してみましょう。クラウド環境が自社にどのようなメリットやデメリットをもたらすのかについては、実際にやってみてはじめて分かる場合もあります。そのため、まずは停止しても影響度が低い仮想サーバをクラウド化してみます。
ちなみに、最初から全てのシステムをクラウドに移行するのは避けるべきです。クラウド環境と自社のサーバの相性が致命的だった場合、大きな影響が出るからです。

手順③クラウド移行を進める

テスト利用で問題なくクラウドを導入できることが分かったら、次は全サーバをクラウド移行していきます。全サーバを1度に移行するのではなく、小さなブロックに分けて少しずつ移行していくのが大切です。クラウドに移行する時には、どうしてもサーバを1度止める必要があるからです。サーバ停止が業務に大きな影響を与えないよう、配慮して行いましょう。

手順④クラウド環境での運用と効率化

サーバをクラウドへ移行できたら、次はクラウドを運用していく必要があります。どう運用していくかは最初に決めておくことが望ましいですが、移行の段階で気付いたことがあれば運用を改善するとよいでしょう。また、クラウドならではの特徴を活かした効率化ができるのであれば、この機会に自動化・省力化して生産性を向上させることができるでしょう。

手順⑤クラウドネイティブなシステム基盤の構築

クラウドへの移行が完全に終わったら、今後つくるシステム基盤はクラウドで運用することを前提とするのがおすすめです。クラウドと相性がよいシステムをつくることで、よりDXを加速させ、生産性の向上が期待できます。

クラウドリフト&シフトの失敗を防ぐ5つのポイント

クラウドリフト&シフトの失敗を防ぐ5つのポイント

クラウドリフト&シフトの失敗を防ぐためには、次の5つのポイントが重要です。

  • 綿密な計画と準備をする
  • クラウド移行時のトータルコストの見積もりを行う
  • テスト環境での事前検証
  • スモールスタートと段階的な移行
  • セキュリティ対策の強化

これらのポイントについて、それぞれ詳しく解説します。

綿密な計画と準備をする

クラウドリフト&シフトを成功させるためには、綿密な計画と準備が不可欠です。まず、移行の目的や期待される成果を明確に定義し、全体のプロジェクト計画を立てます。その際、移行するシステムやアプリケーションの優先順位をつけ、段階的なアプローチを取ることでリスクを軽減できます。

さらに、移行後の運用体制やセキュリティ対策を事前に整備し、移行に伴う不具合やダウンタイムを最小限に抑える準備が必要です。関係者との十分なコミュニケーションも計画の一環として欠かせません。

クラウド移行時のトータルコストの見積もりを行う

移行に伴うトータルコストの正確な見積もりは必要不可欠です。
まず、契約手続きやクラウド環境の初期設定にかかる初期費用を把握します。次に、データ移行やアプリケーションの適用作業などにかかる移行費用を考慮します。

さらに、クラウドサービスの利用料やメンテナンス費用など、長期的な運用コストも見積もり、全体のコストを明確にすることが重要です。これらを正確に把握することで、移行後の予算超過を防ぐことができます。

テスト環境での事前検証

いきなり本番環境への移行は危険です。クラウドリフト&シフトを成功させるためには、テスト環境での事前検証が不可欠です。移行前にテスト環境を設定し、システムの動作やパフォーマンスを確認することで、予期せぬトラブルやダウンタイムを防げます。

特に、アプリケーションの互換性やセキュリティ対策が適切に機能するかを確認することが重要です。また、テスト環境で得たフィードバックを基に、設定やプロセスの微調整を行うことで、移行後のリスクを大幅に軽減できます。これにより、安定した移行を実現できます。

スモールスタートと段階的な移行

スモールスタートと段階的な移行が効果的な理由は、小規模なシステムや非クリティカルな業務からクラウドリフトを開始し、その結果を元に問題点を洗い出すことができるからです。このアプローチにより、リスクや影響範囲を最小限に抑えつつ、徐々にシステム全体の移行を進められます。

移行後に得られるパフォーマンスデータや運用面のフィードバックを活用し、次の段階での最適化を行うことで、全体の移行プロセスをスムーズに進めることが可能です。

セキュリティ対策の強化

クラウドリフト&シフトの成功には、セキュリティ対策の強化が重要です。クラウド環境に移行することで、閉域網で運用するよりもデータの外部アクセスやサイバー攻撃のリスクが高まるため、事前の対策が欠かせません。

具体的には、データ暗号化、アクセス制御、認証プロセスの強化が必要です。また、定期的なセキュリティ監査や脆弱性チェックを行い、最新の脅威に対応できる体制を整えます。さらに、クラウドサービスプロバイダーと連携し、責任分担の確認を徹底することで、移行後の安全な運用が可能となります。

まとめ

クラウドリフト&シフトは、企業のクラウド移行において重要な選択肢となります。クラウドリフトでは、既存システムをそのまま移行し、時間やコストを抑える一方で、クラウドシフトはクラウド特有の利点を最大限に活用するためにシステムを最適化します。

それぞれのメリットを享受できるクラウドリフト&シフトは、段階的なアプローチを取ることで、移行時のリスクを最小限に抑え、コスト効率も向上させます。

本記事で紹介した、クラウドリフト&シフトの手順やコツを踏まえて取り入れてみてはいかがでしょうか。

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