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AWS Trainiumとは?Trainium2と3の違い・料金・使い方・事例まで徹底解説!

AWS Trainiumとは?Trainium2と3の違い・料金・使い方・事例まで徹底解説!

近年、大規模言語モデル(LLM)や生成AIの開発が加速する一方で、そのトレーニングにかかる莫大な計算コストが大きな課題となっています。この課題に対するAWSの答えが、機械学習トレーニングに特化したカスタムチップ「AWS Trainium」です。NVIDIA製GPUと比較して優れたコストパフォーマンスを実現し、AI開発の常識を覆す可能性を秘めています。本記事では、AWS Trainiumの基本概要から、世代別の性能比較(Trainium, Trainium2, Trainium3)、具体的な料金体系、Amazon EC2やSageMakerでの使い方、そして国内外の先進的な導入事例まで、あらゆる情報を網羅的に解説します。

この記事を読めば、あなたのAI開発プロジェクトにおいてAWS Trainiumがコスト削減とパフォーマンス向上の切り札となり得るか、その全てを判断できるようになります。

この記事で分かること

  • AWS Trainiumの基本的な仕組みとNVIDIA製GPUとの違い
  • 初代TrainiumからTrainium2、次世代Trainium3への性能進化
  • 具体的な料金体系とGPUインスタンスに対するコスト削減効果
  • Amazon EC2やSageMakerを使ったTrainiumの利用開始手順
  • DatabricksやStability AIなど国内外の企業における活用事例

AWS Trainiumとは?

AWS Trainium(トレニアム)は、Amazon Web Services(AWS)が自社で開発した、機械学習モデルのトレーニング(学習)に特化して設計されたカスタムAIアクセラレータです。 特に、大規模言語モデル(LLM)や画像生成AIなどで用いられる拡散モデルといった、膨大な計算能力を必要とする生成AIモデルのトレーニングにおいて、高いコストパフォーマンスを発揮することを目的としています。

従来の汎用GPU(Graphics Processing Unit)と比較して、トレーニング処理に最適化することで、同等の性能をより低コストで提供することを目指しています。 これにより、AI開発者はトレーニングにかかる時間と費用を大幅に削減し、イノベーションを加速させることが可能になります。

急増するAIモデルのトレーニング需要に応える専用チップ

近年、生成AIの進化は目覚ましく、モデルのパラメータ数は数十億から数兆へと爆発的に増加しています。これに伴い、モデルのトレーニングに必要な計算リソースとコストも急騰し、多くの企業にとって大きな課題となっています。

これまで、AIモデルのトレーニングには高性能なGPUが広く利用されてきましたが、需要の急拡大による供給不足や価格の高騰が問題視されています。AWS Trainiumは、こうした課題を解決するために開発されました。トレーニングという特定のワークロードに機能を絞り込むことで、半導体の設計を最適化し、製造コストを抑えつつ、極めて高い処理性能を実現しています。

トレーニングに特化することで実現する「高性能」と「低コスト」

AWS Trainiumは、機械学習のトレーニングで頻繁に実行される行列演算やテンソル演算などを効率的に処理するための専用回路「NeuronCore」を搭載しています。 これにより、汎用的な処理能力も求められるGPUと比較して、電力効率とコスト効率を大幅に向上させています。

実際に、第1世代のTrainiumを搭載したAmazon EC2 Trn1インスタンスは、同等のGPUベースのインスタンスと比較してトレーニングコストを最大50%削減できるとされています。 このように、TrainiumはAI開発の経済的な障壁を引き下げ、より多くの開発者が大規模モデルの開発に取り組める環境を提供します。

AWS TrainiumとAWS Inferentiaの違い

AWSは、Trainiumの他に「AWS Inferentia(インファレンシア)」というAIアクセラレータも開発しています。 この2つは目的が明確に異なり、Trainiumが「トレーニング(学習)」専用であるのに対し、Inferentiaは「推論(インファレンス)」専用です。

トレーニングはモデルをゼロから構築・学習させる計算負荷の高いプロセスであり、推論は学習済みモデルを使って新しいデータに対する予測や分析を行うプロセスです。それぞれの用途に最適化されたチップを利用することで、機械学習のライフサイクル全体でコストとパフォーマンスを最大化できます。

チップ名 主な目的 主な用途 関連するEC2インスタンス
AWS Trainium トレーニング(学習) 大規模言語モデル(LLM)、画像生成モデルなどの新規開発・ファインチューニング Trn1, Trn2
AWS Inferentia 推論(インファレンス) 学習済みモデルを用いたアプリケーション(チャットボット、画像認識、レコメンデーションなど)の実行 Inf1, Inf2

AWS Trainiumを支えるソフトウェア「AWS Neuron SDK」

AWS Trainiumの能力を最大限に引き出すために不可欠なのが、ソフトウェア開発キット(SDK)である「AWS Neuron SDK」です。 このSDKには、コンパイラ、ランタイム、プロファイリングツールなどが含まれており、開発者が機械学習の主要なフレームワーク(PyTorchやTensorFlowなど)で記述したコードを、最小限の変更でTrainium上で効率的に実行できるようにします。

Neuron SDKがフレームワークとハードウェアの間の複雑な処理を吸収してくれるため、開発者はハードウェアの違いを意識することなく、使い慣れた環境でスムーズに開発を進めることが可能です。

AWS Trainiumの世代別進化 Trainium2とTrainium3の違いを比較

AWS Trainiumは、Amazon Web Services(AWS)が機械学習のトレーニングに特化して開発したカスタムAIアクセラレーターです。2020年の初代発表以来、Trainiumは世代を重ねるごとに目覚ましい進化を遂げ、大規模言語モデル(LLM)や生成AIの開発におけるパフォーマンスとコスト効率を大きく向上させてきました。ここでは、各世代のTrainiumチップの特徴と進化の軌跡を詳しく解説します。

初代AWS Trainium(Trn1インスタンス)の特徴

2020年に発表された初代AWS Trainiumは、GPUに代わる高性能かつ低コストなトレーニングソリューションとして登場しました。 このチップを搭載したAmazon EC2 Trn1インスタンスは、同等のGPUベースのインスタンスと比較して最大50%のトレーニングコスト削減を実現することを目標に設計されています。

Trn1インスタンスは、最大16個のTrainiumチップを搭載し、チップ間を高帯域幅のインターコネクト「NeuronLink」で接続することで、大規模なモデルの分散学習を効率的に行えるように設計されています。 また、ソフトウェア開発キット(SDK)である「AWS Neuron SDK」が提供されており、PyTorchやTensorFlowといった主要な機械学習フレームワークを利用する開発者が、既存のコードへの変更を最小限に抑えながらTrainiumの性能を最大限に引き出せるようになっています。

AWS Trainium2(Trn2インスタンス)で実現した性能向上

第2世代となるAWS Trainium2は、初代と比較して最大4倍高速なトレーニング性能を実現しました。 この性能向上は、製造プロセスの微細化やアーキテクチャの改良によるものです。 Trainium2を搭載したAmazon EC2 Trn2インスタンスは、特に生成AIのワークロードに最適化されており、GPUベースのインスタンスと比較しても優れた価格性能比を提供します。

Trn2インスタンスは、Trainium2チップを16個搭載し、メモリ容量は初代の3倍、メモリ帯域幅は4倍に拡張されています。 これにより、数千億パラメータを持つようなさらに大規模なモデルのトレーニングにも対応可能です。また、インスタンス間を接続するネットワークも強化され、最大10万個のTrainium2チップを連携させる「EC2 UltraCluster」を構築することで、スーパーコンピュータクラスの性能を発揮し、基盤モデル(FM)の開発時間を大幅に短縮できます。

次世代のAWS Trainium3に期待されること

AWSは、次世代の「AWS Trainium3」の開発も発表しています。 Trainium3は、AWSにとって初となる3ナノメートルプロセスで製造されるプロセッサとなり、Trainium2と比較して性能を2倍に、電力効率を40%向上させることを目指しています。 この飛躍的な進化により、現在では想像もつかないほど巨大で複雑なAIモデルのトレーニングが可能になると期待されています。

Trainium3は、NVIDIAなどの外部サプライヤーへの依存を減らし、AWSがAIインフラストラクチャの性能とコストをより細かく制御するための重要な一歩と位置づけられています。 将来的には、さらに高度なAI研究や、これまで計算リソースの制約で実現が難しかった新しいアプリケーションの開発を加速させることが期待されます。

世代別スペック比較表で見るAWS Trainiumの進化

AWS Trainiumの世代ごとの進化を主要なスペックで比較すると、その性能向上の度合いが明確にわかります。各インスタンスの最大構成におけるスペックは以下の通りです。

項目 初代 Trainium (Trn1) Trainium2 (Trn2) Trainium3
搭載インスタンス Trn1 Trn2 未発表
チップ数(最大/インスタンス) 16個 16個 未発表
アクセラレータメモリ(最大/インスタンス) 512 GB 1.5 TB 未発表
コンピューティング性能(FP8) 最大 3 PFLOPS 最大 20.8 PFLOPS(高密度時) Trainium2の2倍の性能を目指す
ネットワーク帯域幅(EFA) 最大 1.6 Tbps 最大 3.2 Tbps 未発表
製造プロセス 7nm 5nm 3nm

AWS Trainiumを利用する3つのメリット

AWS Trainiumは、Amazon Web Servicesが開発した機械学習のトレーニングに特化したカスタムチップです。生成AIや大規模言語モデル(LLM)の開発が加速する中で、Trainiumは多くの企業にとって魅力的な選択肢となっています。その理由は、主に「コスト効率」「パフォーマンスとスケーラビリティ」「AWSエコシステムとの連携」という3つの大きなメリットに集約されます。

①トレーニングコストの大幅な削減

AWS Trainiumを導入する最大のメリットの一つは、機械学習モデルのトレーニングにかかるコストを劇的に削減できる点です。 AIモデル、特に数千億パラメータを持つような大規模言語モデルのトレーニングには、膨大な計算リソースとそれに伴う高額な費用が必要となります。Trainiumは、この課題を解決するために専用設計されました。

従来のGPUベースのインスタンスと比較して、Trainiumを搭載したAmazon EC2 Trn1インスタンスは、トレーニングコストを最大50%削減できるとされています。 さらに、次世代のTrainium2を搭載したTrn2インスタンスは、同世代のGPUベースのインスタンスよりも30~40%優れた価格性能比を提供します。 この高いコスト効率は、ハードウェアをトレーニングタスクに特化させ、エネルギー効率を最適化することによって実現されています。 これにより、スタートアップから大企業まで、より多くの組織が最先端のAIモデル開発に取り組むことが可能になります。

②大規模モデルに対応する高いパフォーマンスとスケーラビリティ

Trainiumは、コストだけでなく卓越したパフォーマンスと、超大規模モデルのトレーニングを可能にするスケーラビリティも提供します。第2世代のTrainium2チップは、初代Trainiumと比較して最大4倍のトレーニング性能向上を実現しました。 この性能は、チップに搭載された「NeuronCore」と呼ばれる専用のプロセッサコアと、チップ間を超高速で接続する「NeuronLink」技術によって支えられています。

さらに、Trainiumインスタンスは「EC2 UltraClusters」と呼ばれる技術を用いて、数万個のチップをペタビットスケールの超高速ネットワークで接続することが可能です。 これにより、単一のインスタンスではメモリが不足するような巨大なモデルでも、複数のインスタンスにまたがって効率的に分散学習を実行できます。このスケーラビリティは、Anthropic社が数十万個のTrainium2チップを使用して次世代AIモデルを開発する「Project Rainier」のような、最先端の研究開発プロジェクトを可能にしています。

③AWSの各種サービスとのシSeamlessな連携

Trainiumの3つ目のメリットは、AWSが提供する豊富なマネージドサービスとシームレスに連携できる点です。 これにより、開発者は機械学習のワークフロー全体をAWS上で効率的に構築・管理できます。

例えば、以下の主要なサービスと簡単に統合できます。

  • Amazon SageMaker: モデルの構築、トレーニング、デプロイを容易にするフルマネージドサービスです。SageMakerを利用することで、Trainiumインスタンスのセットアップや管理の手間を削減し、モデル開発に集中できます。
  • Amazon EKS / ECS: コンテナ化されたアプリケーションの管理・デプロイを自動化するサービスです。トレーニング環境をコンテナとして管理することで、再現性と移植性が向上します。
  • AWS Batch / AWS ParallelCluster: 大規模なバッチコンピューティングやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)クラスタの管理を簡素化します。

これらの連携を支えるのが、AWS Neuron SDKです。 Neuron SDKは、PyTorchやTensorFlow、JAXといった主要な機械学習フレームワークと統合されており、開発者は既存のコードを最小限の変更でTrainium上で実行できます。 これにより、特定のハードウェアに縛られることなく、使い慣れたツールやライブラリを活用しながら、Trainiumの性能を最大限に引き出すことが可能です。

AWS Trainiumの料金体系

AWS Trainiumは、大規模な深層学習モデルのトレーニングにおけるコストパフォーマンスを最大化することを目的に設計されています。従来のGPUインスタンスと比較して、特にトレーニングコストの削減に大きな強みを持っています。この章では、Trainiumを利用するための具体的な料金体系と、コストを最適化するための方法について詳しく解説します。

Amazon EC2 Trn1/Trn1nインスタンスの料金

AWS Trainiumは、Amazon EC2の「Trn1」および「Trn1n」インスタンスを通じて提供されます。これらのインスタンスの料金は、インスタンスのサイズや利用するAWSリージョンによって異なります。料金は時間単位で課金されるため、必要な時に必要な分だけ利用することが可能です。

以下は、代表的なリージョンである米国東部(バージニア北部)におけるオンデマンドインスタンスの料金例です。最新の正確な料金については、AWSの公式料金ページをご確認ください。

インスタンス名 vCPU Trainiumチップ数 アクセラレータメモリ インスタンスメモリ ネットワーク帯域幅 オンデマンド料金(/時間)
trn1.2xlarge 8 1 32 GiB 32 GiB 最大 12.5 Gbps $1.344
trn1.32xlarge 128 16 512 GiB 512 GiB 800 Gbps $21.504
trn1n.32xlarge 128 16 512 GiB 512 GiB 1600 Gbps $24.73

※上記は米国東部(バージニア北部)リージョンにおけるLinuxオンデマンドインスタンスの料金例です(2025年11月時点)。料金は変更される可能性があります。

オンデマンドとSavings Plansの使い分け

AWSでは、利用形態に応じて料金プランを選択することで、コストをさらに削減できます。Trainiumインスタンスにおいても、オンデマンドインスタンスとSavings Plansを賢く使い分けることが重要です。

  1. オンデマンドインスタンス
    初期費用なしで、使った分だけ秒単位(最低60秒)で支払う最も柔軟なプランです。不定期なトレーニングや、開発・検証フェーズでの短期間の利用に適しています。
  2. Savings Plans
    1年または3年の契約期間で、一定量のコンピューティング使用量(例: 1時間あたり$10)をコミットすることで、オンデマンド料金から大幅な割引を受けられるプランです。 継続的なモデル開発や本番環境での定期的な再トレーニングなど、長期にわたる安定した利用が見込まれる場合に最適です。Savings Plansには、より柔軟性の高い「Compute Savings Plans」と、特定のインスタンスファミリーにコミットすることで最大の割引率が得られる「EC2 Instance Savings Plans」があります。

継続的な利用が確定している場合は、Savings Plansを適用することで、オンデマンドに比べて最大72%のコスト削減が可能になるケースもあります。 AWS Cost Explorerを利用して、過去の利用状況から最適なSavings Plansの推奨値を確認し、計画的に購入することがコスト最適化の鍵となります。

GPUインスタンスとのコストパフォーマンス比較

AWS Trainiumの最大の特長は、NVIDIA社の高性能GPUを搭載したインスタンスと比較して、優れたコストパフォーマンスを実現する点にあります。AWSは、同等のEC2 GPUインスタンスと比較して、トレーニングコストを最大50%削減できると発表しています。

このコスト優位性は、単にインスタンスの時間単価が安いだけでなく、高い電力効率と、特定のトレーニングワークロードに特化したアーキテクチャによって実現されています。 大規模言語モデル(LLM)や画像生成モデルなど、膨大な計算リソースを必要とするトレーニングにおいて、Trainiumは総所有コスト(TCO)を大幅に引き下げるポテンシャルを持っています。

以下は、同様の規模のトレーニングで比較されることが多いGPUインスタンスとの料金比較例です。

インスタンス アクセラレータ アクセラレータ数 オンデマンド料金(/時間) 特徴
trn1.32xlarge AWS Trainium 16 $21.504 トレーニングに特化し、高いコストパフォーマンスを追求
p4d.24xlarge NVIDIA A100 8 $32.7726 汎用性が高く、幅広いMLワークロードに対応する業界標準

※上記は米国東部(バージニア北部)リージョンにおけるLinuxオンデマンドインスタンスの料金例です(2025年11月時点)。実際のパフォーマンスとコストは、モデルのアーキテクチャやワークロードによって変動します。

このように、単純な時間単価だけでなく、特定のモデルをトレーニング完了させるまでの総時間と総コストを考慮することが重要です。多くのケースで、AWS TrainiumはGPUインスタンスに代わる、あるいはそれを上回る経済的な選択肢となり得ます。

AWS Trainiumの基本的な使い方

AWS Trainiumを活用した機械学習モデルのトレーニングは、主に「Amazon EC2」と「Amazon SageMaker」の2つのサービスを通じて行います。どちらの方法を選択するにせよ、Trainiumの性能を最大限に引き出すためにはAWS Neuron SDKが不可欠です。 ここでは、それぞれのサービスを利用した基本的な使い方と、Neuron SDKの役割について解説します。

Amazon EC2インスタンスでの始め方

Amazon EC2を利用する方法は、インフラストラクチャを細かく制御したい場合に適しています。Trn1やTrn1nといったTrainium搭載インスタンスを直接起動し、トレーニング環境を自由に構築できます。

EC2でTrainiumを始めるための基本的なステップは以下の通りです。

  1. インスタンスの選択と起動
    AWSマネジメントコンソールからEC2ダッシュボードにアクセスし、「インスタンスを起動」を選択します。インスタンスタイプとして「trn1.2xlarge」や「trn1.32xlarge」などを選択します。この際、AMI(Amazonマシンイメージ)は「Deep Learning AMI Neuron」を選択することが推奨されます。 これにはNeuron SDKなど必要なソフトウェアがプリインストールされており、環境構築の手間を大幅に削減できます。
  2. 環境設定
    インスタンスにSSHで接続後、トレーニングに必要なPython仮想環境をアクティベートします。 Deep Learning AMI Neuronには、PyTorchやTensorFlowなど、フレームワークに応じた仮想環境が用意されています。
  3. 動作確認
    neuron-topコマンドを実行すると、Trainiumチップ(Neuronコア)の稼働状況をリアルタイムで確認できます。 これにより、インスタンスが正常にTrainiumを認識しているかを確認できます。
  4. トレーニングの実行
    後述するNeuron SDKを用いてモデルをコンパイルし、トレーニングスクリプトを実行します。

この方法は、OSレベルからのカスタマイズが可能で、特定のライブラリバージョンや独自のツールを使いたい場合に柔軟に対応できるメリットがあります。

Amazon SageMakerでの利用手順

Amazon SageMakerは、機械学習のワークフロー全体を効率化するフルマネージドサービスです。データの準備からモデルの構築、トレーニング、デプロイまでをシームレスに行いたい場合に最適です。

SageMakerでTrainiumを利用する手順は非常にシンプルです。

  1. SageMakerノートブックインスタンスの作成
    SageMakerコンソールからノートブックインスタンスを作成します。インスタンスタイプは、開発やテスト用途であれば標準的なもので問題ありません。
  2. トレーニングジョブの作成
    SageMaker Python SDKを使用してトレーニングジョブを定義します。 この際、Estimatorの引数でトレーニングに使用するインスタンスタイプとしてml.trn1.32xlargeなどを指定します。
  3. トレーニングスクリプトの準備
    PyTorchやTensorFlowで記述したトレーニングスクリプトを準備します。SageMakerは、指定したS3バケットからデータを自動的にダウンロードし、トレーニングインスタンスに配置してくれます。
  4. トレーニングの開始
    作成したEstimatorの.fit()メソッドを呼び出すことで、トレーニングジョブが開始されます。SageMakerがTrainiumインスタンスのプロビジョニングからトレーニングの実行、完了後のリソース解放までを自動的に管理します。

SageMakerを利用することで、インフラ管理のオーバーヘッドを削減し、モデル開発そのものに集中できるという大きな利点があります。 また、ハイパーパラメータチューニングや実験管理といったSageMakerの高度な機能とTrainiumを簡単に組み合わせることも可能です。

AWS Neuron SDKのセットアップと活用方法

AWS Neuron SDKは、TrainiumやInferentiaといったAWSのカスタムチップ上で深層学習モデルを効率的に実行するためのソフトウェア開発キットです。 コンパイラ、ランタイム、プロファイリングツールなどが含まれており、Trainiumの性能を最大限に引き出すための鍵となります。

セットアップ

前述の通り、AWS Deep Learning AMIを利用する場合、Neuron SDKはプリインストールされています。 手動でセットアップする場合は、AWSが提供するリポジトリを追加し、PyTorchやTensorFlowに対応したNeuronパッケージ(例: torch-neuronx)をpipでインストールします。

活用方法

Neuron SDKを活用する際の主な流れは「コンパイル」と「トレーニングスクリプトの最適化」です。

ステップ 説明
モデルのコンパイル Trainiumでモデルを実行する前に、PyTorchやTensorFlowで記述されたモデルをNeuronが実行可能な形式(NEFF: Neuron Executable File Format)にコンパイルする必要があります。 このコンパイル処理により、モデルの計算グラフがTrainiumのアーキテクチャに合わせて最適化されます。コンパイルは、トレーニング実行時に自動で行われるJIT(Just-In-Time)コンパイルと、事前に一括で行うAOT(Ahead-Of-Time)コンパイルがあります。
スクリプトの最適化 既存のPyTorchやTensorFlowのトレーニングコードをTrainiumで動かすための変更は、最小限で済むように設計されています。 主に、Neuron用のライブラリをインポートし、モデルやオプティマイザをNeuron APIでラップするなどの軽微な修正が中心となります。
プロファイリングとデバッグ Neuron SDKには、neuron-topやTensorBoardとの連携機能など、パフォーマンスのボトルネックを特定し、デバッグを支援するツールが含まれています。 これらを利用することで、データロードや演算処理をさらに最適化し、トレーニング時間を短縮することが可能です。

これらの手順を踏むことで、既存の機械学習ワークフローに大きな変更を加えることなく、AWS Trainiumの高いコストパフォーマンスを享受することができます。

AWS Trainiumの導入事例

AWS Trainiumは、その高いコストパフォーマンスとスケーラビリティから、世界中の多くの先進的な企業で採用され、生成AIモデルの開発とトレーニングに革命をもたらしています。ここでは、具体的な導入事例をいくつかご紹介します。

Databricks社における大規模言語モデル開発事例

データとAIのグローバルカンパニーであるDatabricks社は、同社のMosaic AIプラットフォームにおけるモデルトレーニングの高速化とコスト効率の向上を目指し、AWS Trainiumの活用を決定しました。 同社はTrainiumを利用することで、顧客に対して最大30%のTCO(総保有コスト)削減を実現する計画を立てています。

Trainiumの高いパフォーマンスとコスト効率により、Databricks社の顧客はMosaic AI上で、自社のデータを用いて高品質なカスタムAIアプリケーションを、より低コストで大規模に構築・展開できるようになります。 このパートナーシップは、多くの企業がデータから真の価値を引き出し、生成AIの活用を加速させるための重要な一歩となっています。

Stability AI社における画像生成モデルのトレーニング事例

画像生成AI「Stable Diffusion」で世界的に知られるStability AI社は、AWSを優先クラウドプロバイダーとして選択し、次世代の画像、言語、動画などのAIモデル開発にAWS Trainiumを活用しています。 同社はAWS Trainiumを含む数千のAIアクセラレータで構成されるクラスター上でモデルを構築することで、トレーニング時間とコストを58%削減することに成功しました。

このAWSとの連携により、Stability AIは最先端のオープンソースAIモデルをより効率的に開発し、世界中の開発者や研究者、企業が利用できるように提供しています。Trainiumの活用は、高品質な生成AIモデルをより低いコストで実現し、AI技術の民主化を促進する上で大きな役割を果たしています。

国内企業におけるAWS Trainiumの活用状況

日本国内においても、AWS Trainiumの活用は着実に広がりを見せています。特に、日本語に特化した大規模言語モデル(LLM)の開発において、その効果が実証されています。

例えば、AIスタートアップのカラクリ株式会社は、AWS Trainiumを活用することで、GPUを利用した場合と比較して約半分のコストで日本語LLMを開発しました。 同社が開発した「KARAKURI LM」は、日本のカスタマーサポート関連データを大量に学習させたオープンモデルであり、ベンチマークテストで国産LLMとして最高性能を達成しています。 この事例は、国内のスタートアップや中小企業でも、Trainiumを活用すれば国際的に競争力のあるAIモデルを低コストで開発できることを示しています。

また、株式会社Preferred Networksが開発した大規模言語モデル「PLaMo」や、株式会社リコーが高性能な日本語LLMの開発を進める上でも、コスト削減や計算リソースの安定確保のためにAWSのカスタムシリコン(TrainiumやInferentia)の活用が進められています。 これらの事例は、国内における生成AI開発のコスト最適化と効率化において、AWS Trainiumが不可欠な存在となりつつあることを示しています。

よくある質問(FAQ)

AWS TrainiumはNVIDIAのGPUより優れていますか?

AWS TrainiumとNVIDIAのGPUは、どちらが一方的に優れているというわけではなく、それぞれの特性や用途に応じて最適な選択肢が異なります。両者の違いを理解し、プロジェクトの要件に合ったものを選ぶことが重要です。

AWS Trainiumは、大規模な機械学習モデルの「トレーニング(学習)」に特化して設計されたアクセラレーターです。そのため、特定のトレーニングワークロードにおいては、NVIDIAの汎用GPUと比較して高いコストパフォーマンスを発揮することがあります。 特に、AWSの他のサービスとの連携がスムーズである点は大きなメリットと言えるでしょう。

一方、NVIDIAのGPUは、トレーニングだけでなく推論(インファレンス)やグラフィックス処理など、幅広い用途に対応できる汎用性が魅力です。長年の実績に裏打ちされたCUDAプラットフォームをはじめとする豊富なソフトウェアエコシステムや、広範なコミュニティによるサポートも充実しています。

以下に両者の特徴をまとめました。

項目 AWS Trainium NVIDIA GPU
得意な処理 大規模モデルのトレーニング(学習) トレーニング、推論、グラフィックス処理など多岐にわたる
コストパフォーマンス 特定のトレーニングにおいて高い傾向 モデルや用途による
汎用性 トレーニングに特化 非常に高い
エコシステム AWSサービス群との高い親和性 CUDAを中心とした広範で成熟したエコシステム

結論として、AWSのエコシステム内で大規模モデルのトレーニングコストを最適化したい場合はAWS Trainiumが、多様なワークロードへの対応や既存のCUDA資産の活用を重視する場合はNVIDIAのGPUが有力な選択肢となります。

AWS Trainiumは推論(インファレンス)にも使えますか?

AWS Trainiumは、その名前が示す通り主に「トレーニング(学習)」に最適化されたアクセラレーターです。 そのため、モデルを実世界のアプリケーションで利用するための「推論(インファレンス)」処理には、通常は別の専用チップであるAWS Inferentiaの使用が推奨されています。

Trainiumは大量のデータを並列処理し、モデルのパラメータを効率的に更新することに長けています。一方、Inferentiaは、低レイテンシー(遅延)かつ高スループットで推論リクエストを処理することに特化して設計されており、リアルタイム性が求められるアプリケーションに適しています。

ただし、技術的にはTrainiumを推論に利用することも不可能ではありません。 非常に大規模なモデルで、推論のためにも高い計算能力が必要とされる特殊なケースでは活用される可能性がありますが、ほとんどの推論ワークロードでは、コストとパフォーマンスの観点からAWS Inferentiaを選択するのが一般的です。

既存のPyTorchやTensorFlowのコードをAWS Trainiumで動かすのは難しいですか?

いいえ、既存のPyTorchやTensorFlowのコードを最小限の変更でAWS Trainium上で実行することが可能です。 これを実現するのが、AWS Neuron SDKというソフトウェア開発キットです。

AWS Neuron SDKは、コンパイラ、ランタイム、プロファイリングツールなどを含んでおり、PyTorchやTensorFlowといった主要な機械学習フレームワークとTrainiumハードウェアの間の橋渡しをします。 開発者は、フレームワークに統合されたNeuronのライブラリを利用することで、Trainiumの性能を最大限に引き出すことができます。

具体的なコードの変更は、使用するデバイスをTrainium(Neuron Core)に指定したり、Neuron向けに最適化されたライブラリをインポートしたりといった数行の修正で済む場合が多く、ゼロからコードを書き直す必要はありません。 これにより、既存の開発ワークフローを大きく変えることなく、Trainiumのコストパフォーマンス上のメリットを享受できます。

AWS Trainiumの料金は具体的にいくらですか?

AWS Trainiumを利用するための料金は、選択するインスタンスのタイプ、利用するAWSリージョン、そして支払い方法によって変動します。そのため、具体的な金額を一概に示すことは難しいです。

料金は主に、AWS Trainiumを搭載したAmazon EC2インスタンス(例: Trn1インスタンス)の時間単位の利用料として発生します。 支払い方法には、使った分だけ支払う「オンデマンド」の他に、長期利用をコミットすることでお得になる「Savings Plans」や「リザーブドインスタンス」といった選択肢があります。

最新かつ正確な料金情報を確認するためには、本記事の「AWS Trainiumの料金体系」の章をご参照いただくか、以下のAWS公式ページで直接確認することをお勧めします。

料金ページでは、リージョンごとに異なるオンデマンド料金やSavings Plans適用時の割引率などを詳細に確認できます。

AWS Trainiumを個人で学習目的に利用することはできますか?

はい、AWSアカウントを所有していれば、個人が学習目的でAWS Trainiumを利用することは可能です。 AWSのサービスは、法人・個人を問わず利用できるようになっています。

ただし、個人で利用する際には以下の点に注意が必要です。

  1. コスト管理の徹底
    AWS Trainiumを搭載したインスタンスは非常に高性能ですが、その分、時間あたりの料金も比較的高額になる傾向があります。学習目的で長時間インスタンスを起動したままにしておくと、想定外の高額請求につながる可能性があります。AWS Budgetsなどの予算管理ツールを活用し、利用状況を常に把握することが重要です。
  2. より小規模な代替手段の検討
    機械学習の基本的なコンセプトを学んだり、小規模なモデルを試したりする段階であれば、必ずしもTrainiumが必要とは限りません。まずは、より低コストなGPUインスタンス(例: Amazon EC2 G4dnインスタンスなど)から始め、必要に応じてTrainiumのような高性能なインスタンスへステップアップすることを検討するのも良いでしょう。
  3. AWS無料利用枠の対象外
    多くの場合、Trn1のような高性能インスタンスはAWSの無料利用枠の対象外となります。利用を開始した瞬間から料金が発生する可能性があるため、事前に確認が必要です。

これらの注意点を理解した上で計画的に利用すれば、個人でも最先端の機械学習トレーニング環境を体験することができます。

まとめ

本記事では、AWSが開発した機械学習トレーニング専用チップ「AWS Trainium」について、その基本概要から世代ごとの進化、具体的なメリット、料金体系、使い方、そして国内外の導入事例までを網羅的に解説しました。増大し続けるAIモデルのトレーニングコストと計算資源の課題に対する、AWSの強力なソリューションであることがお分かりいただけたかと思います。

この記事の重要なポイントを以下にまとめます。

  • AWS Trainiumとは:大規模な深層学習モデルのトレーニングに特化して設計された、AWS独自のカスタムチップ(アクセラレータ)です。
  • 高いコストパフォーマンス:同等の性能を持つGPUインスタンスと比較して、トレーニングコストを最大50%削減できる可能性があり、コスト効率に優れています。
  • 世代ごとの進化:初代Trainium(Trn1)からTrainium2(Trn2)へと性能は大幅に向上し、数万チップ規模まで拡張可能な高いスケーラビリティを実現しています。
  • シームレスな利用環境:Amazon EC2やAmazon SageMakerを通じて簡単に利用を開始でき、AWS Neuron SDKを使用することで、PyTorchやTensorFlowで記述された既存のコードを最小限の変更で実行できます。
  • 豊富な導入実績:DatabricksやStability AIといった先進企業が、大規模言語モデルや画像生成AIのトレーニングにTrainiumを活用し、開発期間の短縮とコスト削減を実現しています。

結論として、AWS Trainiumは、AI開発におけるトレーニングフェーズのコストと時間に課題を抱える企業にとって、従来のGPUに代わる非常に有力な選択肢です。特に、大規模モデルを扱うプロジェクトでは、その恩恵を最大限に享受できるでしょう。もしあなたがAIモデルのトレーニングコストの最適化や、開発サイクルの高速化を目指しているなら、AWS Trainiumの導入を検討してみてはいかがでしょうか。まずは公式サイトで最新情報を確認し、自社のプロジェクトでその高いコストパフォーマンスを検証してみることをお勧めします。

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