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知らないと危険!AWSセキュリティの落とし穴と今すぐできる対策10選

知らないと危険!AWSセキュリティの落とし穴と今すぐできる対策10選

AWSを導入すればセキュリティは万全だと思っていませんか?実は、AWSのセキュリティはクラウド事業者であるAWSと利用者である私たちが、それぞれ責任を分担する「責任共有モデル」が採用されており、利用者が行うべき設定を怠ると、情報漏洩や不正アクセスといった深刻なインシデントに直結する危険性があります。この記事では、AWSセキュリティの基本から、知らずに放置しがちな5つの重大な落とし穴、そして今すぐ実践できる具体的な対策10選までを、初心者にも分かりやすく解説します。結論として、AWSのセキュリティは「正しく設定し、継続的に監視・改善すること」が最も重要です。まずは自社の環境に潜むリスクを把握し、堅牢なAWS環境を構築するための第一歩を踏み出しましょう。

この記事で分かること

  • AWSにおけるセキュリティの基本的な考え方「責任共有モデル」
  • 情報漏洩や不正アクセスにつながる、よくある設定ミスや脆弱性
  • 初心者でもすぐに実践できる具体的なセキュリティ対策10選
  • AWSのセキュリティレベルを向上させるための便利なサービス

はじめに|AWSセキュリティは自己責任という現実

今やビジネスに不可欠なインフラとなったクラウドサービス。中でもAmazon Web Services(AWS)は、その柔軟性と拡張性の高さから、スタートアップから大企業まで数多くの組織で利用されています。しかし、その手軽さの裏側で、設定ミスによる情報漏洩や不正アクセスといったセキュリティインシデントが後を絶たないという厳しい現実をご存知でしょうか。

「大手Amazonのクラウドだからセキュリティは万全だろう」という考えは非常に危険です。AWSでは「責任共有モデル」という考え方が採用されており、AWSが責任を持つのはデータセンターの物理的なセキュリティやネットワークインフラなどに限定されます。一方で、OSより上のレイヤー、例えばデータそのものの管理やアクセス権限の設定、ファイアウォールの設定といった「クラウド内のセキュリティ」は、すべて利用者自身の責任となります。

実際に、過去に発生した重大な情報漏洩事故の多くは、AWSの脆弱性が原因ではなく、利用者側の単純な設定ミスから引き起こされています。アクセス権限の誤設定や、本来非公開にすべきストレージが全世界に公開されていた、といったケースは決して他人事ではありません。このような事態を防ぐためには、AWSの利用者がセキュリティの重要性を正しく理解し、主体的に対策を講じることが不可欠です。

本記事では、AWSセキュリティの基本である「責任共有モデル」から、つい見落としがちなセキュリティの「落とし穴」、そして今日からすぐに実践できる具体的な対策までを網羅的に解説します。この記事を最後まで読めば、自社のAWS環境を守るために「何をすべきか」が明確になり、安心してサービスを運用するための第一歩を踏み出せるはずです。

AWSセキュリティの基本|責任共有モデルについて

AWSを利用する上で、まず最初に理解しなければならないのが「責任共有モデル」という考え方です。これは、クラウドのセキュリティに関する責任を、AWSと利用者(ユーザー)とで分担するという、AWSセキュリティの根幹をなすコンセプトです。「どこまでがAWSの責任で、どこからが自分たちの責任なのか」を正しく理解しないままAWSを運用することは、意図せずセキュリティホールを生み出す原因となり、非常に危険です。

AWSでは、この責任分担を「クラウドのセキュリティ(Security of the Cloud)」と「クラウド内のセキュリティ(Security in the Cloud)」という言葉で明確に区別しています。これから、それぞれの責任範囲について具体的に見ていきましょう。

AWSが責任を持つ範囲

AWSが責任を持つのは「クラウドのセキュリティ」です。これは、AWSが提供するクラウドサービスそのものの基盤(インフラストラクチャ)を守る責任を指します。利用者はこの部分をAWSに任せることができるため、自社で物理的なデータセンターを運用する場合に比べて、セキュリティ管理の負担を大幅に軽減できます。

具体的にAWSが責任を持つ範囲は、以下の通りです。

カテゴリ 具体的な内容
物理・環境 データセンターへの物理的なアクセス管理、監視カメラ、電源・空調の管理、自然災害からの保護など
ハードウェア サーバー、ストレージ、ネットワーク機器といった物理的なインフラストラクチャの管理・保守
ソフトウェア コンピューティング、ストレージ、データベース、ネットワークといったAWSサービスを稼働させるための基本的なソフトウェアの管理
ネットワーク AWSのグローバルネットワークインフラ(リージョン、アベイラビリティーゾーン、エッジロケーション)の保護

これらの要素は、世界トップクラスの専門家によって24時間365日体制で管理・監視されており、利用者はその堅牢なインフラの上でサービスを構築することに集中できます。

ユーザーが責任を持つ範囲

一方で、利用者が責任を持つのは「クラウド内のセキュリティ」です。これは、AWSという土台の上で、利用者が構築・設定するものや、配置するデータなどを守る責任を指します。AWSはあくまで安全な「土地」を提供してくれるだけであり、その土地にどのような「家」を建て、どのように「戸締り」をするかは、利用者自身の責任となるのです。

利用者が責任を持つ範囲は、利用するサービスによって異なりますが、主に以下のようなものが挙げられます。

カテゴリ 具体的な内容
データ 保存するデータの分類、暗号化(サーバーサイド、クライアントサイド)の実施、適切なアクセス権の設定
アプリケーション 開発したアプリケーションの脆弱性対策、設定ミスからの保護
プラットフォーム・ID管理 IAMユーザー・ロール・ポリシーによる権限管理、パスワードポリシーの設定、多要素認証(MFA)の適用
OS・ネットワーク・ファイアウォール EC2インスタンスなどのゲストOSのパッチ適用・管理、セキュリティグループやネットワークACLによる通信制御

例えば、EC2インスタンスを利用する場合、OSのセキュリティアップデートを適用したり、セキュリティグループで不要なポートを閉じたりするのは、すべて利用者の責任です。AWSが自動でOSの脆弱性を修正してくれるわけではない点を、明確に認識しておく必要があります。この責任共有モデルの詳細は、AWSの公式サイトでも確認することができます。

責任共有モデル

【放置は危険】AWSセキュリティでよくある5つの落とし穴

AWSはセキュアなクラウド環境を提供していますが、ユーザー側の設定不備や認識不足によって、重大なセキュリティインシデントに繋がるケースが後を絶ちません。これらは「クラウドの設定ミス」として知られ、多くの場合、人為的なミスが原因です。この章では、特に発生しがちで危険性の高い5つのセキュリティの落とし穴について、その原因とリスクを具体的に解説します。

落とし穴1 IAMユーザーのアクセスキー漏洩

AWSをプログラム経由で操作するために必要な「アクセスキー」と「シークレットアクセスキー」が外部に漏洩するインシデントです。これはAWSのセキュリティリスクの中でも特に深刻な被害に繋がりやすい落とし穴の一つです。

なぜ漏洩するのか?

アクセスキーが漏洩する主な原因は、開発者の不注意によるものです。例えば、以下のようなケースが挙げられます。

  • ソースコード内にアクセスキーを直接書き込み、GitHubなどの公開リポジトリにアップロードしてしまう。
  • アクセスキーを含む設定ファイルを、誤って社内チャットやメールで共有してしまう。
  • マルウェアに感染したPCからキー情報が窃取される。

漏洩するとどうなる?

漏洩したアクセスキーが悪意のある第三者の手に渡ると、そのキーに紐づくIAMユーザーの権限範囲でAWSアカウントが不正に操作されてしまいます。具体的な被害としては、以下のようなものが報告されています。

  • 高額請求:大量の高性能なEC2インスタンスを勝手に起動され、暗号資産(仮想通貨)のマイニングなどに悪用されることで、数百万から数千万円単位の想定外の高額請求が発生する可能性があります。
  • 情報漏洩:S3バケットに保存されている顧客情報や機密データが窃取されたり、RDSのデータがバックアップから不正に取得されたりする危険性があります。
  • システムの破壊・改ざん:サーバー内のデータを削除されたり、Webサイトを改ざんされたりする可能性があります。

落とし穴2 S3バケットの公開設定ミス

Amazon S3は高い耐久性とスケーラビリティを誇るストレージサービスですが、バケットのアクセスポリシー設定を誤ると、意図せず全世界にファイルが公開状態となり、情報漏洩に直結します。過去には国内外の多くの企業がこの設定ミスにより、顧客情報や機密情報を漏洩させるインシデントを起こしています。

なぜ設定ミスが起こるのか?

S3の公開設定ミスは、主に以下のようなヒューマンエラーが原因で発生します。

  • 「ブロックパブリックアクセス」機能を無効にしてしまう。
  • バケットポリシーやアクセスコントロールリスト(ACL)で、必要以上に広範なアクセス許可を与えてしまう。
  • 一時的なファイル共有のつもりが、設定を元に戻し忘れて公開状態のまま放置してしまう。

これらの設定ミスにより、本来はアクセスを許可していない第三者からのデータ読み取りや、最悪の場合、データの書き込み・削除まで可能になってしまう危険性があります。

落とし穴3 セキュリティグループのポート全開放

セキュリティグループは、EC2インスタンスへの通信を制御する仮想ファイアウォールです。ここで特定のポートを「フルオープン(`0.0.0.0/0`)」、つまり送信元IPアドレスを制限せずに誰でもアクセスできる状態にしてしまうと、インスタンスは深刻な脅威に晒されます。

なぜポートを開放してしまうのか?

開発や検証の段階で、「一時的に接続確認をしたい」「設定が面倒」といった理由から安易にポートを全開放し、そのまま本番環境でも放置してしまうケースが多く見られます。

全開放のリスクが高いポートの例

特に以下のポートを全開放することは非常に危険です。

ポート番号 プロトコル 主な用途 全開放した場合のリスク
22 SSH サーバーへのリモートログイン(Linux) パスワードの総当たり攻撃(ブルートフォースアタック)を受け、サーバーを乗っ取られる危険性が極めて高い。
3389 RDP サーバーへのリモートログイン(Windows)
3306 MySQL データベース接続 データベースに不正アクセスされ、情報が窃取・改ざん・削除される。

これらの管理用ポートは、原則として特定のIPアドレスからのみアクセスを許可するように厳しく制限する必要があります。

落とし穴4 OSやミドルウェアの脆弱性放置

AWSの責任共有モデルにおいて、EC2インスタンス上で稼働するOS(Windows, Linuxなど)や、その上にインストールされたミドルウェア(Apache, WordPressなど)、アプリケーションのセキュリティパッチ適用は、ユーザーの責任範囲です。これらの脆弱性を放置すると、攻撃者にシステムの制御を奪われる可能性があります。

なぜ脆弱性が放置されるのか?

日々の運用に追われ、OSやソフトウェアのアップデートが後回しにされたり、そもそも脆弱性に関する情報を収集する体制が整っていなかったりすることが原因です。また、アップデートによる既存システムへの影響を懸念して、適用をためらうケースもあります。

脆弱性を放置するリスク

脆弱性を放置すると、既知の攻撃手法を用いて容易に侵入を許してしまいます。具体的には、以下のような被害が想定されます。

  • サーバーを乗っ取られ、マルウェアを仕込まれる。
  • DDoS攻撃の踏み台として悪用される。
  • Webサイトが改ざんされたり、サーバー内のデータが外部に流出したりする。

Amazon Inspectorなどのサービスを活用し、定期的に脆弱性診断を行い、計画的にセキュリティパッチを適用することが不可欠です。

落とし穴5 ログの監視不足によるインシデント発見の遅れ

AWSでは、AWS CloudTrail やVPCフローログなど、操作履歴や通信記録を詳細に記録する仕組みが提供されています。しかし、これらのログをただ取得しているだけで満足し、監視や分析を怠っていると、セキュリティインシデントの発生に気づくことができません。

なぜ監視が不足するのか?

膨大な量のログから異常な兆候を人手で発見するのは困難です。また、「インシデントは起きていないだろう」という正常性バイアスから、ログの定期的な棚卸しや監視体制の構築が後回しにされがちです。

発見が遅れることのリスク

ログ監視の不備は、インシデントの発見を大幅に遅らせ、被害を甚大なものにします。

  • 不正アクセスやデータ窃取が発覚したときには、すでに長期間にわたって情報が盗まれ続けていた、という事態になりかねません。
  • インシデント発生後の原因究明や影響範囲の特定が困難になり、復旧作業や顧客への説明に支障をきたします。

ログはインシデント発生後に見るものではなく、インシデントの予兆を早期に発見し、被害を未然に防ぐために活用するものです。Amazon GuardDutyのような脅威検出サービスを導入し、ログの監視を自動化することが重要です。

今すぐできるAWSセキュリティ対策10選

AWSのセキュリティは「落とし穴」を避けるだけでなく、積極的に強化していくことが重要です。ここでは、AWSアカウントを作成したらすぐに着手すべき基本的な対策から、より高度なセキュリティを実現するためのサービス活用法まで、具体的な10個の対策を解説します。

対策1 ルートアカウントは使わずIAMユーザーで運用する

AWSアカウント作成時に最初に作られる「ルートアカウント」は、すべてのサービスへの完全なアクセス権を持つ最も強力なアカウントです。そのため、日常的な作業でルートアカウントを使用することは、誤操作やアカウント乗っ取りが発生した際に被害が甚大になるリスクを伴います。

セキュリティのベストプラクティスとして、ルートアカウントは初期設定や請求情報の管理など、特別な作業にのみ使用を限定し、普段の操作は「IAM(Identity and Access Management)」で作成したIAMユーザーで行うことが強く推奨されています。IAMユーザーには、業務に必要な権限のみを付与する「最小権限の原則」を適用し、万が一の際の影響範囲を限定しましょう。

  • ルートアカウント:初回ログイン、IAMユーザー作成、請求関連の操作など、限定的な用途にのみ使用。
  • IAMユーザー:開発、運用、監視など、日常的なすべてのAWS操作で使用。ユーザーごと、役割ごとに必要な権限のみを付与。

対策2 IAMユーザーには多要素認証(MFA)を強制する

IDとパスワードだけの認証では、情報が漏洩した場合に第三者が簡単になりすましてログインできてしまいます。これを防ぐために非常に有効なのが「多要素認証(MFA)」です。MFAを設定すると、パスワードに加えて、スマートフォンアプリなどで生成される一度きりの確認コードの入力が求められ、不正アクセスのリスクを劇的に低減できます。

特に管理者権限を持つIAMユーザーや、ルートアカウントには必ずMFAを設定しましょう。さらに、IAMポリシーを利用して、MFAを有効にしていないユーザーの操作を制限することで、組織全体のセキュリティレベルを強制的に引き上げることが可能です。

対策3 パスワードポリシーを強化する

推測されやすい単純なパスワードは、セキュリティ上の大きな弱点となります。IAMでは、ユーザーが設定するパスワードの強度を強制する「パスワードポリシー」を定義できます。

最低文字数、大文字・小文字・数字・記号の使用強制、パスワードの有効期限と再利用の禁止などを設定し、推測されにくく、かつ定期的に変更される運用を徹底しましょう。これにより、総当たり攻撃(ブルートフォースアタック)などによるパスワード突破のリスクを軽減できます。

設定項目 推奨設定内容
最小パスワード長 8文字以上(14文字以上が望ましい)
パスワードの強度 大文字、小文字、数字、英数字以外の文字(記号)をそれぞれ1つ以上含むように要求する
パスワードの有効期限 90日ごとにパスワードのローテーションを要求する
パスワードの再利用禁止 過去24回分のパスワードの再利用を禁止する

対策4 S3ブロックパブリックアクセスを有効化する

Amazon S3は便利なストレージサービスですが、設定ミスにより意図せずバケット内のデータがインターネット上に公開されてしまう事故が後を絶ちません。これを防ぐ最も効果的な機能が「S3ブロックパブリックアクセス」です。

この設定を有効にすると、個別のバケットポリシーやオブジェクトACLの設定にかかわらず、バケットとオブジェクトへのパブリックアクセスを一括でブロックしてくれます。特別な理由がない限り、AWSアカウントレベルでこの設定を有効化し、意図しない情報漏洩のリスクを根本から断つことが重要です。

対策5 セキュリティグループでインバウンド通信を最小限に絞る

セキュリティグループは、EC2インスタンスなどのリソースに適用される仮想ファイアウォールです。よくある設定ミスが、SSH(22番ポート)やRDP(3389番ポート)といった管理用ポートを「すべてのIPアドレス(0.0.0.0/0)」に対して開放してしまうことです。これは、悪意のある攻撃者に侵入の糸口を与えてしまう非常に危険な状態です。

通信を許可する際は、「最小権限の原則」に従い、本当に必要なポート(例:Webサーバーなら80番、443番)を、本当に必要な送信元(例:特定のIPアドレス、他のセキュリティグループ)からのみ許可するように設定を絞り込みましょう。

対策6 EC2インスタンスにはIAMロールを割り当てる

EC2インスタンス上で動作するアプリケーションが、S3やDynamoDBなどの他のAWSサービスにアクセスする必要がある場合、その認証情報をEC2インスタンス内に保存するのは避けるべきです。アクセスキーをソースコードにハードコーディングしたり、設定ファイルに平文で保存したりすると、漏洩のリスクが非常に高まります。

代わりに「IAMロール」を使用しましょう。IAMロールをEC2インスタンスに割り当てると、アプリケーションは一時的なセキュリティ認証情報を自動的に取得できます。これにより、長期的な認証情報であるアクセスキーをインスタンス内に保持する必要がなくなり、セキュリティが大幅に向上します。

対策7 AWS CloudTrailでAPI操作ログを記録し監視する

AWS環境で「いつ、誰が、何を、どこから行ったか」をすべて記録するのがAWS CloudTrailです。 CloudTrailのログは、セキュリティインシデント発生時の原因調査や、不正な操作の追跡に不可欠な証跡となります。

AWSアカウントを作成したら、すべてのリージョンを対象とする証跡を作成し、ログをS3バケットに永続的に保存する設定を必ず行いましょう。さらに、Amazon CloudWatch Logsと連携させることで、特定のAPIコール(例:セキュリティグループの変更、IAMユーザーの作成)をトリガーとしたアラートを発報させるなど、プロアクティブな監視体制を構築できます。

対策8 AWS Trusted Advisorでベストプラクティスをチェックする

AWS Trusted Advisorは、AWS環境がセキュリティ、耐障害性、パフォーマンス、コスト最適化のベストプラクティスに従っているかを自動でチェックし、改善点を提案してくれるサービスです。

セキュリティカテゴリでは、MFAが有効になっていないルートアカウント、全世界に公開されているセキュリティグループのポート、公開アクセスが許可されているS3バケットなど、基本的ながら見落としがちな設定ミスを指摘してくれます。定期的にTrusted Advisorのチェック結果を確認し、指摘事項に対応するだけで、AWS環境のセキュリティレベルを手軽に向上させることができます。

対策9 Amazon GuardDutyで脅威を自動検出する

Amazon GuardDutyは、AWS環境に対する悪意のあるアクティビティや不正な振る舞いを継続的にモニタリングする、インテリジェントな脅威検出サービスです。

VPCフローログ、CloudTrailログ、DNSログなどを機械学習で分析し、マルウェアに感染したEC2インスタンスや、偵察行為、通常とは異なるAPIコールなどを自動で検出します。数クリックで有効化でき、既存のワークロードに影響を与えることなく、高度な脅威検出を実現できるため、AWSを利用するすべてのアカウントで有効にすることが推奨されます。

対策10 AWS Security Hubでセキュリティ状況を一元管理する

AWS環境の規模が大きくなるにつれ、複数のAWSセキュリティサービス(GuardDuty, Inspectorなど)やサードパーティ製品からのアラートを個別に管理するのは煩雑になります。AWS Security Hubは、これらのセキュリティ検出結果を集約し、優先順位付けを行い、単一のダッシュボードで可視化するサービスです。

さらに、「AWS基礎セキュリティのベストプラクティス」や「CIS AWS Foundations Benchmark」といった業界標準のコンプライアンスチェックを自動で実行し、準拠状況をスコアで表示します。Security Hubを活用することで、セキュリティ体制の全体像を把握し、最も重要な課題から効率的に対処することが可能になります。

AWSセキュリティに関するよくある質問(FAQ)

ここでは、AWSのセキュリティに関して多く寄せられる質問とその回答をご紹介します。AWSを利用する上での疑問や不安を解消するためにお役立てください。

無料でできるAWSセキュリティ対策はありますか?

はい、あります。AWSでは追加料金なしで利用できる基本的なセキュリティ機能やサービスが数多く提供されています。これらを活用するだけでも、セキュリティレベルを大幅に向上させることが可能です。

  • IAM(Identity and Access Management)の利用: ルートアカウントの無効化、IAMユーザーやロールの作成、多要素認証(MFA)の設定、パスワードポリシーの強化など、基本的なアクセス管理機能はすべて無料で利用できます。
  • セキュリティグループとネットワークACL: VPC(Virtual Private Cloud)内で、EC2インスタンスなどへのインバウンド・アウトバウンド通信を制御するファイアウォール機能も標準で提供されています。
  • AWS Trusted Advisorの基本チェック: セキュリティグループのポート設定やMFAの設定状況など、基本的な4つの項目に関するベストプラクティスチェックを無料で利用できます。
  • AWS Security Hubの無料利用枠: AWS Security Hubは有料サービスですが、30日間の無料トライアルが提供されています。 これにより、AWS環境のセキュリティ状況を評価し、どの程度のコストがかかるかを試算することが可能です。
  • Amazon GuardDutyの無料利用枠: 脅威検出サービスであるAmazon GuardDutyにも30日間の無料トライアルがあります。

これらの無料サービスを組み合わせることで、まずは基本的なセキュリティ対策をコストをかけずに実施することが重要です。

AWSのセキュリティ診断はどのように行えばよいですか?

AWSのセキュリティ診断は、AWSが提供するサービスを利用する方法と、専門のベンダーに依頼する方法の2つに大別されます。目的に応じて適切な方法を選択することが大切です。

AWSサービスを利用した診断

AWSには、セキュリティ状況を可視化し、脆弱性を検出するためのサービスが用意されています。

サービス名 概要
Amazon Inspector EC2インスタンスやコンテナイメージなどに潜むソフトウェアの脆弱性や、意図しないネットワークへの露出を自動的にスキャンし評価するサービスです。
Amazon GuardDuty VPCフローログやDNSログなどを分析し、悪意のあるアクティビティや不正な動作を継続的にモニタリングする脅威検出サービスです。
AWS Security Hub AWSのセキュリティ状況を一元的に可視化し、セキュリティ標準への準拠状況を継続的にチェックするサービスです。他のAWSセキュリティサービスからの検出結果も集約できます。
AWS Trusted Advisor コスト最適化、パフォーマンス、セキュリティ、耐障害性、サービスの制限の5つの観点からAWS環境を評価し、ベストプラクティスを推奨します。

専門ベンダーによる診断

より専門的で客観的な視点からの診断が必要な場合は、セキュリティ専門ベンダーが提供する脆弱性診断サービスの利用を検討しましょう。これには、Webアプリケーション診断やプラットフォーム診断などがあります。なお、AWS環境に対して侵入テスト(ペネトレーションテスト)を行う場合は、事前にAWSへの申請が必要になる場合がありますのでご注意ください。

AWSセキュリティに関して、おすすめの学習方法はありますか?

AWSセキュリティの知識を深めるためには、公式ドキュメントから資格取得まで、様々な学習方法があります。ご自身のレベルや目的に合わせて組み合わせるのが効果的です。

  • 公式ドキュメント・ホワイトペーパー
    AWSが提供する公式の情報は、最も正確で信頼性が高い学習リソースです。特にセキュリティに関するホワイトペーパーは、設計思想やベストプラクティスを体系的に学ぶ上で非常に役立ちます。
  • AWS Black Belt Online Seminar
    AWSジャパンが提供する無料のオンラインセミナーです。セキュリティ関連のテーマも豊富で、各サービスについて日本語で分かりやすく解説されています。過去のセミナー資料や動画も公開されているため、いつでも学習できます。
  • AWS認定資格の取得
    「AWS Certified Security - Specialty」は、AWSにおけるセキュリティの専門知識を証明する資格です。この資格の取得を目指すことで、脅威検出、データ保護、インフラストラクチャのセキュリティなど、幅広い分野を網羅的に学習することができます。
  • ハンズオン・トレーニング
    実際にAWS環境を操作しながら学ぶハンズオンは、知識を定着させる上で非常に有効です。AWSが提供する「AWS Hands-on for Beginners」シリーズなど、無料で始められるコンテンツもあります。

AWSのセキュリティポリシーについて教えてください?

AWSにおける「セキュリティポリシー」は、主に誰がどのリソースに対して何を許可(または拒否)するかを定義するルールを指し、その中心となるのがIAMポリシーです。

IAMポリシーはJSON形式で記述され、以下のような要素で構成されます。

  • Effect(効果):許可(Allow)または拒否(Deny)を指定します。
  • Principal(プリンシパル):ポリシーが適用される対象(ユーザー、ロールなど)を指定します。※リソースベースのポリシーの場合
  • Action(アクション):許可または拒否する操作(例: s3:GetObject)を指定します。
  • Resource(リソース):操作の対象となるAWSリソース(例: 特定のS3バケット)を指定します。
  • Condition(条件):ポリシーが有効になるための条件(例: 特定のIPアドレスからのみ許可)を指定できます。

このIAMポリシーをIAMユーザーやグループ、ロールにアタッチ(関連付け)することで、AWSリソースへのアクセス制御を実現します。また、S3バケットポリシーのように、リソース側に直接アタッチする「リソースベースのポリシー」もあります。AWSのセキュリティを確保するためには、これらのポリシーを理解し、「最小権限の原則」に従って適切に設定することが不可欠です。

まとめ

本記事では、AWSのセキュリティにおける「責任共有モデル」の基本から、見落としがちな5つの落とし穴、そして今すぐ実践できる10の具体的な対策までを網羅的に解説しました。AWSは非常に強力で便利なクラウドサービスですが、そのセキュリティはユーザー自身の手に委ねられている部分が大きいということをご理解いただけたかと思います。

この記事の重要なポイントを改めて整理します。

  • AWSのセキュリティは自己責任:AWSが提供するインフラのセキュリティはAWSが担いますが、その上で動作するOS、アプリケーション、データなどのセキュリティはユーザーが責任を負う「責任共有モデル」が基本です。
  • 基本的な設定ミスが大きな脅威に:IAMアクセスキーの漏洩、S3バケットの公開設定、セキュリティグループのポート全開放といった基本的な設定ミスが、深刻なセキュリティインシデントに直結します。
  • まずは基本対策の徹底から:ルートアカウントの不使用、IAMユーザーへのMFA強制、パスワードポリシー強化、通信ポートの最小化など、基本的な対策を徹底するだけでもセキュリティレベルは格段に向上します。
  • AWSのセキュリティサービスを活用する:CloudTrailやGuardDuty、Security HubといったAWSのサービスを活用することで、脅威の検知やセキュリティ状況の可視化を自動化し、より高度なセキュリティ体制を構築できます。

AWSのセキュリティ対策は、一度設定して終わりではありません。常にベストプラクティスを学び、自社の環境を定期的に見直すことが重要です。クラウドの恩恵を安全に享受するためにも、まずはこの記事で紹介した対策の中から、一つでもご自身の環境で実践できるものがないか確認することから始めてみましょう。堅牢なセキュリティ基盤を構築し、安心してAWSを活用してください。

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